現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 04 The Second
「フェイト。茶碗が空いてるぞ。もういいのか?」

「少しもらおうかな。半分ぐらいでいいよ」

「わかった」

茶碗を受け取って席を立ち、炊飯器へと向かう。釜の中では先ほど炊いたばかりの白飯がつやつやと輝いている。

まあこれぐらいかと、大雑把な目分量でよそい、フェイトへと渡す。


「今日の出来はどうかしら」

「美味しいですよ。煮物も綺麗に味が染みてます。生粋の日本人でも、これだけ作れる人はあんまりいないと思いますよ」

味を聞いてくるリンディさんに、評価を返す。

その過程で褒めるのも忘れない。

「エイミィさん醤油取って下さい」

「はいはーい」

おひたし用の醤油をとってもらう。

ほうれん草のビタミンは脂溶性だから、マヨネーズと醤油をあわせたソースを作る。

「なあ、黒煉」

「どうした、クロノ」

それまでずっと黙っていたクロノが、こちらを神妙そうな顔で見ている。

「今まであまりに自然に居過ぎて、全然疑問もわかなかったんだが」

「ああ」

「君、うちで食事を摂ること多すぎないか?」










瞬間、食卓が凍った















魔法少女リリカルなのは 空の少年 04 The Second















「え?何言ってるのクロノ?」

本当に不思議そうな顔をして聞くフェイト。

「黒煉君が一緒にいるのは当然じゃない、クロノ君」

何当たり前のことを言っているんだとエイミィさん。

「………」

そして何も言わず固まっているリンディさん。

だがそれは、唯怒りを抑えているだけのようだ。

額に青筋浮いてる。

「………クロノ」

「は、はいっ、母さん」

そのリンディさんの様子を見て途端に怯え、冷や汗を流し始めるクロノ。

「あなたはわざわざご飯を作ってもらった人に、お前は食べずに帰れって言っているのかしら?」

「は?」

「つまり、あなたが言っていることはそういうことよ」

正直に言おう。

リンディさんの隣に座ってる俺もめっちゃ怖い。

「私が初めて作った肉じゃがはどうだったかしら?そう、去年の年末ね」

「はい…それは…大変美味しかったです」

言葉に恐ろしいところは無い。

顔だって、いつものように周囲を暖かくさせるような微笑みを浮かべている。

でも、目は全く笑っていない。

そして放たれる気配が、絶対零度だ。

「そう、おいしかったの」

「は、はい」

クロノの顎の先から汗が滴り落ちる。

生唾を飲み込む音が聞こえた。

「あなたは引っ越して間もない、文化も全く違う異国の料理を上手に作れる人がいると思う?」

「……いえ」

「じゃあ、どうしておいしく作れたのかしら?」

「指導してくれる人が……いたからですか?」

「ええ、それは誰だと思う?」

そろそろクロノも解答に気づいたようだ。そして、自分が地雷を踏んだということにも。

「……黒煉だと思います」

「その通り、黒煉さんよ。それなのにあなたは、とても失礼なことを言って……」

「申し訳ありません」

「違うでしょ、本当に謝らないといけない相手は」

その言葉に、クロノはこちらを向く。

「済まなかった、黒煉。不躾だったな」

「あー、別に構わん。確かに俺も入り浸りすぎかと思っていたんだ」

最近だと週三ぐらいで御呼ばれしている。

「そんなことないわ。私は黒煉さんにとっても感謝しているのよ」

「そうそう、黒煉君のおかげで私たちは美味しいご飯を食べられるんだから」

「そうだよ。それにしてもクロノ、ほんとに今まで知らなかったの?」

「ああ。ずっと母さんが普通に勉強して作っているものだと……」

まあ、小学三年生に教わっているとは思うまい。仕方がないことだとも思う。

たまたま商店街に買い物に行ったときに、リンディさんと出くわした。

その時に俺の買い物袋を見た彼女に、自炊は出来るかと聞かれたので正直に答えたことから、この料理教室は始まった。

「リンディさんも料理上手ですから、すぐに俺の腕なんて抜かれますよ」

「いやいや、謙遜なんてしないでいいよ」

「ええ。それに、黒煉さんと一緒に買い物へ行くとたくさんおまけしてもらえるから、私も楽しいわ」

「そうなの?」

「なんでか知らんが、有名人だな」

そんなこんなで、一時クロノの精神力が大幅に削られたが、他はまあ楽しい夕食だった。














 ◆◇◆◇◆◇◆















「黒煉、ちょっといいかな」

夕食後の片づけを終えて、今は勉強の時間。私の部屋で、黒煉と二人学校の課題をしている。

ちょうどいい。それよりも言うなら今しかない。

「うん?今度はどの漢字が読めないんだ?」

うっ、確かに私はまだ漢字に慣れていない。そろそろ海鳴に来て4ヶ月になるが、全然覚えきれていない。

そもそも、量が多すぎるんだ。ミッドでも単純な文字の種類なら30個にも満たないのに。

いや、待て待て、そんな話じゃない。

「課題とは別で黒煉に相談したいことがあるんだ」

「どうしたんだ」

重要な話をすると察してくれたのか、それまで広げていた教科書やノートをテーブルの隅に追いやり、こちらに向き直る。

私を見つめる黒煉の瞳を見て、少し深呼吸をして切り出した。

「改めて言ったことはなかったけど、私とリンディさんたちは本当の家族じゃないんだ」

「ああ。何となく、そうなんだろうなとは思っていたが」

まあ、そうだろう。苗字も違っているから、別に聡い人でなくとも気が付くことだ。

「それでね、今でもリンディさんは書類上私の保護者になってくれているんだけど、随分前から籍の上でも家族にならないかって誘われているんだ」

「養子に来ないかってことか」

「うん……」

「それで、相談したいってのは」

そう、私を促すが、私自身もよくわかっていない。

「私は……どうすればいいのかな?」

「話を受けるか否か迷っているってことだよな?」

その言葉に頷く。

黒煉は横に置いてあったカップを手に取り、もう大分冷めてしまった中身のコーヒーを啜って考えている。

沈黙が痛い。

「はっきり言ってしまえば、俺は何も言えないんだよな。そもそも、どういった経緯で今リンディさんがフェイトの保護者になっているかも、俺は知らない」

少しして冷たく告げられるが、そう言われると私も言葉に詰まる。

黒煉は魔法のことは何も知らないし、知っていたとしてもどう説明すればいいのかも分からない。

全部を包み隠さず話せば、私がアリシアのクローンであることも言わなければならない。

私が、人造魔導師であることも。

それを説明することは、とても怖い。今まで普通に接してくれていた友達が、次の瞬間には居なくなってしまうかもしれない。

だから、細かい経緯を伝えることは精神的にも憚られた。

「簡単に言うと、私がある事件に巻き込まれたんだ」

「ああ」

「それで、なんていうか警察みたいな仕事をしているリンディさんと知り合って、その事件で母さんを亡くした私の後見人に名乗り出てくれたんだ」

「そうか」

本当に簡単に、大事なところは何も言わずに説明する。正直これでは説明したうちに入らないと思うが、黒煉は真剣に聞いてくれる。

「お前はリンディさんのことをどう思ってるんだ」

「……良い人だと、凄く良い人だと思う。初めて会った時からそう思ってたけど、一緒に暮らし始めてから余計にそう感じるようになった。

 あの人を母さんと呼べるのはとても幸せなことだとも思う。ちょっとクロノが羨ましくもなった」

「でも、迷いもあるんだよな」

「うん。ハラオウンに養子に入るのは、多分これからの私にとっても凄く良いことなんだ。それは分かってるんだ。でも母さんのことも大好きなんだ。

 黒煉は前に釘をさされたよね。盲目的に母親に従っていちゃいけないって。本当のことだったよ。

 母さんは間違いを犯した。それで、リンディさんたちにも迷惑を掛けた。

 それでも、私は本当に母さんのことを愛していた。今でも愛しているんだ」

私の胸の内を伝えた。

私はずっと母さんのことが気になっていた。

リンディさんのことももちろん好きだが、それとこれとは別問題だと思っている。いや、むしろ同じ問題だからこそ悩んでいるのか。

私が養子になってしまったら母さんはどうなるんだと。

母さんはそんなこと望まないかもしれない。

でも、ずっとそれが気がかりだった。

「でも、リンディさんとも家族になりたいと本心から思っているんだろ」

「うん、だからこそ悩んでる」

黒煉はずっとカップの中身を見つめている。

「……背中を押す……か」

「え?」

何事か呟くと、残っていたコーヒーを一気に飲み干して立ち上がる。

「ちょっと付いて来い」

そうして、さっさと部屋を出て行ってしまう。

私も急いで立ち上がって後を追う。

「ちょっと待ってよ、黒煉」

黒煉は一体何がしたいのだろう















 ◆◇◆◇◆◇◆















「リンディさん、少し話があります」

フェイトさんを伴ってリビングに現れた黒煉さんは唐突にそう切り出した。

表情だけでなく身に纏っている気配が真に迫るものがあり、重大なことを打ち明けようとしているのが分かった。

「世間話とかじゃなくて、もっと真剣な話みたいね」

「はい。俺と母さんの話です」

その言葉に、後ろにいたフェイトさんが息を呑むのが見て取れた。

「とりあえず落ち着きましょうか。今お茶を淹れるから、ちょっと待っていてね」

私も立ち上がって、キッチンへ向かう。ポットのお湯が切れちゃってたから、沸かしなおさないといけない。

あまり待たせるのも悪いから、少しズルをしよう。

簡単な術式を構築して、魔力を注ぐ。

一瞬にして沸騰したケトルの中身に満足して、緑茶を淹れる。以前、黒煉さんに勧められた葉だ。

茶筒を開けた際にこぼれた香りに頬を緩ませながら、二人の待つリビングへと引き返す。

「お待たせ。熱いから気を付けてね」

二人に湯飲みを渡しながら、自分の器には砂糖とミルクを入れる。

それを見ながら黒煉さんの眉間に皺が寄る。

「個人の味覚にとやかく文句は言いませんが、健康のためにも程々にしたほうがいいと思います」

「それは分かっているんだけれど、ついね」

「そうですね。この問答も何回目か分かりません」

そうして皆がお茶を啜って、一息吐いたところで黒煉さんの話を促す。

「それで、あなたとお母様の話と言うことだったけれど……」










「はい。単刀直入に言ってしまえば、俺は捨て子です」















 ◆◇◆◇◆◇◆














「……俺は捨て子です」

それを聞いた二人の顔には驚きに色が浮かんでいる。

当然だろう。今までそんな素振りを見せたこともない。

「……じゃあ、今のお母さんに引き取ってもらったってこと?」

フェイトがそう尋ねてくるが、リンディさんの顔は険しいままだ。

こちらの言葉の奥に隠れるものに気づいている。

「いや、違う。三年前に捨てられて、そのまま今に至ってる」

「お母様は長期の海外出張という風に伺っていたけれど……」

「はい。細かく説明しても理解が得られるものではありませんし、あまり大っぴらにしてもお役所とかが絡んできて面倒なことになりますから、外にはそう伝えています」

「そう。でも、どうして突然そんなことを話すのかしら」

「フェイトから養子縁組の話を聞きました。そして、話すなら今しかないと思いました」

その言葉に申し訳なさそうな顔をする。

「別に二人が罪悪感を感じることはありません。俺が勝手に必要と思っただけですから。それにハラオウンの人には話してもいいと思っていましたから」

そうして、俺は昔語りを始めた。















 ◆◇◆◇◆◇◆















うちは始めから特殊と言えば特殊だった。

まず第一に父親がいなかった。

母さんに聞いてもいつも適当にはぐらかされてばかりで、次第にそれは触れてはいけないものだと気づき始めた。

しばらくしてから凍夜さんにも聞いたことがあったが、俺の父親に関しては誰も知らないようだった。

唯一知っている母も口を噤んで、決して話そうとはしなかったらしい。

ただ、それ以前のことは教えてもらった。

母さんも皇の人間だから、基本的に退魔を生業として生活していたらしい。

それが突然、姿を消した。

こういってはなんだが、身体能力的にはどうしても劣る女の身ながら、皇の長い歴史の中でも有数の実力者だったため、一族は総出で行方を捜したらしいが一向に見つかる気配はなかった。

そうして生存が絶望視され始めた二年後、居なくなったときと同様に、いきなり帰ってきた。

腕の中に一人の赤ん坊を連れて。

まあ、話の流れから分かると思うが、その赤ん坊ってのが俺のことだ。

皇家は生きて帰ったことを喜びながらも、失踪していた期間の詳しい内容や俺の出自について口を割ろうとしない母さんに色々と含むところがあったのだろう。

歴史を持つ家というのは、どうしても血に拘りを見せる。

特に、皇は辛うじて近親ではないというぎりぎりの範囲での交配を続けて、その血を極限まで濃くすることで超常的な身体能力を手にした。

そんな背景を持ち、加えて天才と呼ばれていた母さんが何処の馬の骨とも分からない血を紛れ込ませたのだ。当然揉める。

追放なども話には上がったらしいが、その力が惜しいとの意見もあって、結局宗家でありながら分家と同等程度に格下げというところに落ち着いた。実家の敷居をまたぐのにも厳しい条件付だった。

そういった経緯で海鳴で暮らし始めた。それでも俺が一歳になる前だな。

お目付け役として凍夜さんが一緒にこっちに来たんだ。

父親がいないながらも、それなりに平和な生活をしていたよ。

退魔の指導もあったが、俺はそれも楽しかった。

それからなのはとの出会いもあったが、その辺りは省こう。

それで、大体今から三年前だな。確かなのは共々聖祥への進学も決まって、後は春を待つばかりって時だ。

いつものように幼稚園から一人で帰ったんだ。

母さんも遠出することが多かったから、それはいつものことだったんだ。

だけど、玄関の鍵を回した時点で、あれって思ったんだ。

その日は俺一人のはずだから、鍵が開いてるはずがないんだ。

疑問に思いながらも、家の中に入っていった。泥棒程度ならその時の俺でもあしらえる自信があった。

それでリビングに入った直後に、ズドンと吹っ飛ばされたわけだ。

壁に叩きつけられて、痛みに朦朧としながらも目を開けると、目の前に母さんが立ってた。

それからは、もうひどいものだ。

ちょっと心臓の悪い人なら見てるだけでもショック死するんじゃないかってぐらいの惨劇。

最後に俺の胸を貫いて、母さんはどこかに消えた。

翌朝、幼稚園に来ないのを心配して園長が凍夜さんに連絡したんだ。うちに掛けてもつながらなかったから。

それで、様子を見に来た凍夜さんが血塗れでぶっ倒れてる俺を見つけたんだ。

急いで皇御用達の医者に見せた。まあ、普通の病院行っても説明のしようがないからな。

そうしてここの隣の部屋には、全治6ヶ月の重症の子供と、俺が今着けてる鼈甲のかんざしが残った。
















 ◆◇◆◇◆◇◆















「そんなこんなで、先ほども言いましたが面倒にならないように海外出張に出たことにして、三年後の今に至るという訳です」

「……ひどい」

フェイトは呆然としている。反面、リンディさんはきびしい顔をしている。

「このこと、なのはさんは知っているの?」

「いいえ、知りません。と言うよりも、外で知っているのは士郎さんと桃子さん、後は恭也さんと美由希さんの4人だけです」

「そう………それで、その話とフェイトさんの養子縁組とどう重なるのかしら?」

「俺の覚悟です」

そう言って、俺は二人の瞳を見つめた。

「こういうことがあって、桃子さんもリンディさんと同様、俺に養子の話を持ちかけてきました。そして、俺はそれを断った」

「……どうして」

フェイトが不安そうにこちらを見返す。

「俺は、自分が他の誰かの子供になったとしても幸せになれるというビジョンが全く見えなかった。俺の母親はあの人しか居ないんだ」

「そんなに酷いことをされたのに」

「ああ。それでもだ。俺はあの人しか母と呼べないんだよ」

リビングに沈黙が下りる。

「それで、君は新しい母親を求めるフェイトを非難するのか」

「いや、そんなつもりはないよ」

途中から話を聞いていたクロノの言葉に、否定を返す。

「ただ、俺の心は狭量だってだけの話だ。母さん以外に向けるだけの愛の余裕がないんだ。

 なあ、フェイト。リンディさんは好きか?」

「うん」

「クロノやエイミィさんは?」

続けて頷く。

「じゃあ、皆と家族になりたいか?」

「うん、でも私は……」

「お前は俺とは違うよ。お前は優しい子だ。たくさんの愛を持ってる。それこそ無尽蔵にな。

 そんなにたくさんあるんだから、持て余しとくのは勿体無いだろ。

 お前が、まだ母親のことを引きずっているのもわかる。

 だったら、真っ直ぐにそれを伝えろ。大丈夫、リンディさんは受け止めてくれるよ」

そう伝えて、フェイトをリンディさんに向き直らせる。

「さあ」

大丈夫だから。

背中に手を添える。

そうか、これでいいのか。

「あの、リンディさん」

「ええ、フェイトさん。あなたの気持ちを聞かせて」

一度大きく深呼吸をして、前を向く。

その瞳には決意の色が見えた。

「ハラオウンに養子に入るのは、多分これからの私にとっても凄く良いことなんだと思います。

 まだ一緒に暮らし始めて4ヶ月しか経ってませんが、リンディさんのことも本当に良い人だと思います。もちろんクロノも。

 あなたの事をお母さんと呼べるようになるのは、本当に嬉しい。そうなってほしいとも思います」

そこで一度言葉を切る。

「でも、私は母さんのことも大好きだったんです!

 確かに私に優しくなかったかもしれない。

 あの人は私のことをなんとも思っていなかったかもしれない。

 それどころか、憎んでさえいたかもしれない。

 死ぬ間際になっても、私に笑いかけてくれることはありませんでした。

 たくさんの人に迷惑を掛けました。たくさんの人を傷つけました。たくさんの人を……命を奪おうとしました!

 個人的にどう思ってくれようとも、リンディさんたちにとって母さんは犯罪者であることに変わりはありません。

 それでも、それでも私はっ、本当に母さんのことを、愛していたんです!!」

そこまで言って、抑え切れなくなった涙がフェイトの顔を濡らし、零れ落ちた雫がカーペットに染みを作る。

「それはっ、今でも同じです。今でもっ、私はっ、母さんのこと、愛しています。

 ハラオウンにっ、養子に入ってもっ、変わりません。

 リンディさんや、クロノと、家族になっても、きっと、あの人を愛することを、やめることは出来ません。それでもっ」















 「それでもあなたのことを、お母さんと呼んでもいいですかっ!」















涙を拭いながら、嗚咽に震える声を懸命に抑えて、胸の奥に隠してきた思いを吐き出した。

「もちろんよ、フェイト」

リンディさんも涙を流しながら、微笑んだ。

その答えに張り詰めていたものが崩れたのだろう。フェイトの膝から力が抜けて、倒れそうになる。

俺が支えようと手を伸ばすが、それよりも早くリンディさんが駆け寄って、フェイトを抱き締めた。

フェイトの方からもリンディさんの背中に手を回し、それからしばらく、ハラオウン家のリビングにはフェイトの泣き声が木霊した。















 ◆◇◆◇◆◇◆















泣き疲れて眠ったフェイトを自室へと送り届ける。始めは俺がやろうと思ったが、これはもうリンディさんの仕事だ。

「じゃあ、俺は帰ります」

戻ってきたリンディさんにそう伝えると、玄関まで見送りに来てくれた。

「今日はありがとう、黒煉さん」

「いいんですよ。俺が必要だと思って勝手にやったことなんですから」

「それでも、私たちはあなたに感謝しなければいけないわ。本当に、ありがとう」

こうも礼の言葉を言われると恥ずかしいな。

「じゃあ、その言葉は受け取っておきます。では、また明日」

「ええ、おやすみなさい」

別れを告げて、ハラオウン家を後にする。

といっても、我が家には数歩でたどり着く。

玄関を開け、闇に包まれた室内へと潜り込み、電気を点けないまま一息つく。

今朝までの俺なら、あそこまでのことはしなかった。

フェイトの部屋で話を聞いているときに、シグナムに言われたことを思い出したからだ。



背中を押してやれ。親友なのだろう?



なのはのことで言われた台詞だが、ここで応用するのも間違ってはいないだろう。

フェイトは養子になることを望んでいた。だったら後必要なのはきっかけだけだった。

幸い綺麗に収まったようだし。

そうか、これでいいんだな。

そこまで考えてから、ようやく電気を点けて就寝準備に入る。

つぎは、本命のなのはだ。

場所は分かっている。

何ヶ月か前から、毎朝桜台で何かしているのは知っていた。

多分それが隠していることだろう。

俺がその場に出くわせば、あいつも事情を喋らざるをえまい。

そう考えながら、俺は眠りに就いた。














翌朝。

まだ、六時を過ぎたぐらいか。

水平線から見える陽の光にそう当たりをつけ、振り返って目の前の高台を見上げる。

大きな気配が三つ。

それが感じられる方へと足を向け、奥へ奥へと進んでいく。

ある程度まで近づくと、急に足が止まった。

何故かは分からない。だが、ここから先へは行っていけない。そう心に訴えかけられたような気がした。

目の前には何もない。

手を伸ばしても、何にも触れることはない。

だが、確かに何かがある。

例えるなら見えない壁。それが一番相応しいような気がした。

自分で言ってみて、本当にぴったりだと思って苦笑する。

「俺となのはの間にそびえ立つ壁だな」

鼓動が大きくなるかとも思ったが、自分でも驚くほど静かだった。

もう一度シグナムの言葉を思い出す。





背中を押してやれ。親友なのだろう?





ああ、そうだよ。なのはの苦しむ顔はあまり見たくはない。親友だから。

そうして俺は足を踏み出し、















     扉を開けた















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