現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 03 The Second
主に負担を掛けてばかりではいられない。

本来、我々ヴォルケンリッターの使命は魔力を蒐集して闇の書を完成させることだが、此度の主をそれをお望みでない。

それどころか、家族としてそばに居てくれるだけでいいとまで言ってくれた。

だが、私たちは存在するだけで、主の魔力以外に金銭的な面でも費用がかかる。

どうにかして、そちらだけでも主の助けにならねば。

そう考えて私は慣れないながらも職を探し始めた。

しかし、私もこちらの世界に召還されてまだ日が浅い。当然と思われているような事柄でも知らないことが多々ある。

文化の違いとは厄介だ。

出来れば私の長所を生かせるようなものがあればいいのだが。

そうして数日が経った日、朝の日課となっている新聞を読んでいたとき、ある一つの求人広告が目に入った。










魔法少女リリカルなのは 空の少年 03 The Second










[剣術講師募集]



これしかない

頃合を見計らってその日のうちにそこに記載されていた道場へと赴いた。

そう大きな道場ではないが、庭も綺麗に整えられてすっきりとしており、実際よりも奥行きが感じられる。

こじんまりとした門に付いたインターホンを押し、相手を待つ。

『はい、皇です』

道場には少し似つかわしくない少女のような声が機械を通して聞こえてきた。

「突然失礼します。私は八神シグナム。新聞の剣術講師募集という求人広告を見て伺ったのですが」

『………あ~はいはい、わかりました。そうですね、一度家のほうまで入ってきてください。門を入って左手の道なりに行けば着きますから』

セリフの頭にあった間が気になる。もしやもう既に決まってしまっているのだろうか。

そんなことを考え、不安になりながらも言われたとおりに奥へと進む。

ちょうど道場の南側に日本家屋が見える。そちらへ向かって歩いていくと、玄関の戸をあけて和服の女性が出てきた。

「わざわざご足労いただいてありがとうございます。私は皇琥珀。ここの道場主の皇凍夜の家内です」

「はじめまして、八神シグナムと言います。こちらこそ突然で申し訳ありません。事前にご連絡させていただこうと思ったのですが、連絡先が住所しか記載されていなかったもので」

少し赤みがかった茶髪を肩口まで伸ばし、後頭部にはリボンをつけている。見た目と声の雰囲気が大分違うが、それでも見るものを暖かくさせるような笑顔が印象的である。

どこか、太陽のような雰囲気を持った女性だ。

応接間へと案内されながら琥珀といった女性の印象と自分の中でまとめる。

「ごめんなさいね。今主人に娘を幼稚園まで迎えに行って貰ってるんです。すぐに帰ってくると思うので、少しお待ちくださいね」

そう言って、私の前にお茶を出してくれる。

「ありがとうございます」

お茶を飲みながら、琥珀さんと少し会話する。

五分ほどすると玄関の戸が開く気配がした。

「帰ってきたみたいですね」

「そのようです」

少し緊張してきた。騎士として生きてきて、今まで面接など経験したことなどないからな。

「大丈夫ですよ」

その様子を見て琥珀さんが声を掛けてくれる。

「シグナムさんはとてもしっかりした人です。そして自分の剣に誇りも持っている。あなたにとっていい結果が出ること間違いなしです」

「はぁ」

突然の言葉に曖昧な返事を返してしまう。

「これでも武術家の妻ですからね。瞳を見れば大体分かります」

じゃあ呼んできますね。そう言って彼女は部屋を出て行く。

すごい女性だな。人間としての奥の深さがある。まだ、そう年をとってもいないだろうに。

まもなく、琥珀さんと一人の男性が入ってくる。おそらく彼が道場主の方だろう。

そして男性を視界に入れた瞬間、





体が恐怖した。

格が違う。

この男には絶対に勝てない。

百挑めば、百負けるだろう。

それを本能で感じ取った。





「いやー、申し訳ない。お待たせしてしまって」

「……いえ、こちらこそ突然の訪問申し訳ありません」

下腹に力をこめ、意思で恐怖を押さえ込む。

それでも冷や汗は止まらない。まともに挨拶を出来ている自信がない。

すると突然、

「もー、駄目ですよ、凍夜さん」

彼の頭に、お盆が落ちた。というよりも叩きつけられた。しかも縦に。

「女の人そんなに怯えさせたりしちゃ」

途端に私を支配していた気配が霧散した。

「あー、ごめんね。でもとりあえず、これぐらいの殺気には耐えてほしいかなって思ってね」

汗を手でぬぐう。

あれが最低限か。何の相手をさせられるんだ。

「はじめまして、俺がここの道場をやってる皇凍夜だ。」

「こちらこそ。八神シグナムです」

「いやー、本当のことを言うとね、講師を募集していたことすら俺も琥珀も忘れていてね。それでちょっとテンパッちゃって」

そんな理由で私はあの恐怖を味あわされたのか。

「ちょうど今日は子供たちも来るから、一度教えてもらおうか。それで様子を見るってことで」

「それで構いません。よろしくお願いします」

そうして道場のほうへ案内される。さっきの空気が嘘だったかのように、ゆったりした雰囲気だ。

「父兄から剣道みたいなことも教えられないかって言われてね。俺も剣は修めてはいるけど、本業じゃないから教えるのは申し訳なくて。

 ならいっそ外から連れてくるかと広告出したんだ」

「私もただひたすら自分のために剣を振ってきたので、人に教示できるかといえば多少不安は残るのですが。剣の質も違いますし」

「いや、それは多分大丈夫だよ。まだ実際の剣は見てないけど、立ち居振る舞いを見る限りは問題ない。自信もっていいよ」





そうして場所を道場へと移し、集まってきた子供たちに軽く素振りなどを見せて稽古をつけてみせる。

二時間ほどの短い間で、初めて人にものを教えるということで難しいこともあったが、同時にとても楽しい時間だった。

「お疲れ様シグナムさん。どうだった?」

「やはり人に何かを教えるというのは難しいですね。普段自分が当たり前のように行っていることでも」

「そんなことないよ。ちゃんと先生できてた。子供たちも、次はシグナム先生いつ来るのってみんな聞いていたからね」

「き、恐縮です」

少し恥ずかしい。

こうして人に褒められるのは久しぶりだ。ひょっとすると初めてなのかもしれない。

「とりあえず、週三回。月、水、土でいいかな。」

「それは………」

彼は穏やかな笑みを見せて

「採用ってことで」

「ありがとうございます!!誠心誠意がんばらせていただきます!!」

すごい勢いで頭を下げる。

それから自分の行動を考えて、少し恥ずかしくなる。

凍夜さんは流してくれたようで、そのまま細かい時間について説明を受ける。

そろそろお暇しようとしたところで、道場の戸が開き、一人の子供が入ってくる。

「こんばんはー」

そうして靴を脱ごうとしている彼と目が合う。

彼の視線が私と凍夜さんを行き来して、





「琥珀さーん!!凍夜さんが浮気してるー!!」





「なっ?!」

何を言い出すんだ、突然!!

すぐに訂正しようとするが、

私の隣にいたはずの男性に既に吊り上げられていた。

「さて何か言うことがあるだろ」

さっきまでとは打って変わって冷たい声音が響く。

私には彼がいつ近づいたのかも見えていなかった。

「ぐぁ、ちょ、調子乗ってすみませんでした」

「他」

「琥珀さんにはちゃんと説明します」

「後は」

「そちらの女性にも謝罪を」

「よし」

そういって、道場の真ん中に向かって子供が放り投げられる。

子供は立ち上がると、こちらに頭を下げる。

「初対面の女性に失礼なことを言って申し訳ありませんでした」

「いや、そこまで気にもしていないから、頭を上げてくれ」

そう、それよりも後に繰り広げられた光景のほうが驚きだった。

そして顔を上げたのを見て、先ほどから持っていた疑問がより深くなった。

「その、君は……男……で、いいのかな」

私のその発言に対して、途端に不機嫌そうな顔になる。

「それ以外の何かに見えると?」

「いや誰がなんと言おうと紛れもなく男だな」

肯定しなければならない、でなければ痛い目を見る。直感的にそう感じた。

「申し遅れました。俺は皇黒煉。凍夜さんの甥です」

「っと、こちらこそ。八神シグナムだ。今度からこちらの道場で剣術の講師を勤めさせてもらうことになった」

そう自己紹介すると、彼が不思議そうな顔をして、凍夜さんのほうへ振り返る。

「そんなの始めるんですか?」

「ああ、要望があってな。そのうちお前の相手もしてもらうつもりでいる」

む、そうだったのか

「とりあえず今日はこの辺かな。次は二日後、三時半ぐらいに道場に来てくれればいいから」

「わかりました。では、お先に失礼します」

これから、黒煉君の個人の稽古が始まるのだろう。

邪魔にならないように道場を出て、門をくぐろうとしたところで

「何っ?!」

中からとてつもない魔力が感じられた。

だがそれも一瞬。しかも、知覚できる範囲はせいぜい今私が居るところまで。

咄嗟に魔力探査を道場に向けて行う。

半活性状態のリンカーコアの反応がある。魔力容量はおそらくAA以上。

だが、おかしい。

反応が薄い。

特定の魔力反応を調べているのにもかかわらず、その数値が計りずらい。

値自体は上昇していくが、その伸びが遅く、いつまで経っても終わらない。

通常、探査を行えば魔力値は一瞬で現在の上限を示すが、どこかフィルターがかかっているような感じだ。知覚範囲が狭いのもその為か。

何者だ?

長年の騎士としての感覚が、すぐに戦闘状態に切り替わるが、思い直して頭を振る。

今の私は主の家族だ。騎士として主を守ることに変わりはないが、そんなことは二の次でいい。

きびすを返し、家族の待つ家に足を踏み出す。

これが、私と黒煉の出会いであり、それから彼の存在は、私の日常の中に入り込んでいった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










10月27日。

シグナムさんと知り合ってから、もう大体二ヶ月か。

最初はとても失礼なことを言ってしまった。

道場に入ったら、凍夜さんが見知らぬとんでもない美人と二人っきりでいるんだ。

しかも、道場というのがいかん。

基本的に琥珀さんは、稽古をつけているときの道場には近づくことはない。

にもかかわらず、あんな状況に出くわしたんだから、俺自身もかなり混乱してた。

だから、あんな変なことを口走ってしまったんだが、笑って許してくれた。

あの出会いから少しして、シグナムさんも俺に剣の稽古をつけてくれるようになった。

恭也さん達も相手をしてくれるが、彼らは小太刀二刀。対して俺は打刀。基本は一緒だが、やはり細かい動きは大きく違ってくる。

そんな中、西洋剣とはいえ同じく一刀の剣を使う彼女の教えはすごく勉強になる。

そんな稽古の帰り。いつものようにシグナムさんを途中まで送る。

まだ一太刀も浴びせられないほど実力に差はあるが、それでも女性だ。

最初は頑なに拒否していた彼女も、男の意地を訴える俺の意見を、最後には笑って受け入れてくれた。

そうして、彼女との短い夜の散歩は習慣になっていった。

だが、今日はそのシグナムさんの様子がおかしい。

稽古の最中もどこか上の空な感じだった。

あまりにも派手な隙に打ち込んだら、逆に壁まで吹っ飛ばされた。

少し考え事をしていて、咄嗟に手加減が出来なかったらしい。

ものすごい勢いで謝罪されたが、まだまだ俺が未熟だということだ。

今も、簡単な会話をしているが、返事が適当。俺が一方的にしゃべっているだけだ。

ちょっと気まずい雰囲気が漂いだしたところで、彼女が立ち止まった。

「どうかしましたか?」

そう問いかけても反応がない。

「シグナムさん?」

「すまない、少し寄り道をしてもいいか」

言葉にすれば尋ねているようだが、有無を言わせぬ気配がする。

こちらの返事を待たずに歩き出したシグナムさんの後を急いで追いかけた。





そうして着いたのは、臨海公園。

もう夜だから人は全くいない。

「こんな所に何の……」

用事か。そう問おうとして、



世界が変質した



「?! これは?」

辺りを見回して、シグナムさんに視線を戻すと、先ほどまでどこにも持っていなかった白い西洋剣を構えていた。

「許してくれとは言わない。憎んでくれていい。恨んでくれていい。私は主のために、ここで騎士の誇りを捨てる」

そして、顔を俯かせたまま、剣を振り上げこちらに踏み込んできた。

その中に、俺は彼女の後ろに何かの雫が流れるのを確かに見た。










 ◆◇◆◇◆◇◆










十分な速度と重さを持った振り下ろしが彼に迫る。

これで決まってくれ

そう、自分でも信じていない願いを込めてレヴァンティンを振りぬく。

やはり、それが肩に辿り着く前に、彼は右に向かって体を投げ出した。

それを追わずに、私は言葉を紡ぐ。

「大人しくしていてくれ、黒煉君。私は君を傷つけたくはない。魔力をもらうだけだ。多少痛みはあるが、すぐに済む」

「いきなり切りかかってきて、その台詞はないだろう」

確かにその通りだ。

だが私は、彼が抵抗するのは分かっていた。

だからこそ、初撃で決めるつもりでいたのだが、やはり甘かったようだ。

「主とか魔力とか、はっきり言ってよく分からんが、害があると分かれば俺も足掻くぞ」

「ああ、君はそういう男だ」

「それにだ」

彼は指を突きつけ、

「騎士としての誇りなんてものも知らん。いいかシグナム。俺たちは戦士だ。俺たちは壊すものだ。

 ならばその意志を通す手段は力と決まっているだろう?」

そう笑って言ってのけた。

そのあまりの言葉に私は驚き呆気にとられ、それとともにストンと、胸に何かがはまる音がした。

自然と私の顔にも笑みが浮かんでくるのが分かる。

「そうだ、確かにそうだ。平和な生活で惚けていたようだな。お前の言う通りだ」

再び剣を構え、主に賜った甲冑を纏う。

彼もわずかに距離をとり、腰を落として構える。

「闇の書の守護騎士、ヴォルケンリッターが一、烈火の将シグナム。参る」

「極東退魔筆頭、皇家が一子、皇黒煉。いくぞ」









 ◆◇◆◇◆◇◆










「その剣、実際に切れるのか?」

「その点は心配ない。非殺傷設定というものがあってな。魔力を通して痛みはあるが、物理的な傷はほとんどない」

やはりそうか。

袈裟懸けの一撃と、先ほどのシグナムの発言が矛盾していた。

傷つけるつもりはないと言いながら、始めの振り下ろしは当たれば確実に絶命するほどのものだった。

彼女が嘘を吐いている気配はないため、何か種があるとすれば剣の方だ。

「それを聞いて安心したよ。それならまだやりようはある」

こちらの言葉に何も返さず、ただ不敵に笑っている。

リーチに差がありすぎる。下手に長期戦に持ち込めばジリ貧になるな。

「ふっ」

目の前の敵に向かって駆け出す。

今までに見せたことのない速度だ。稽古の時の実力を基準にしているのならば、おそらく反応は遅れるはず。

しかし、その予想は外れ、こちらのタイミングに合わせて剣が横薙ぎに振るわれる。

くそっ、もう少し侮ってくれてもいいだろうに。

予定を変更し、剣の届かないぎりぎりの位置で体を止める。

さすがにこれには相手も驚いたようだ。

ただの停止ではなかった。

一歩前までは相当な速度をつけていたのに、次に足をついたときには既に止まっているのだ。

一歩目から最高速に達し、さらにその状態から慣性を無視しての急停止。

0から100、100から0への瞬間的速度変化。

歩法・疾

皇の人間には基本の動きだが、通常は加速・減速も見積もって間合いを計るため、大抵の相手には脅威に映る。

すぐに最後の一歩を踏み込み、剣を振りぬいたためにがら空きの胴に、手加減なしの回し蹴りを放つが、

「Panzergeist」

電子音声が響き、当たる寸前に現れた紫色の壁に阻まれる。

驚愕に目を見張るが、その隙にシグナムから上段の振り下ろしが放たれる。

咄嗟に飛び退き、さらに数歩分下がって距離をとる。

なんだあれ、オートガード?

「……ちょっと、それはあんまりじゃないか?」

「そうでもない。魔力消費が大きいから、長期戦には向かない」

くそっ、つまり俺は長期戦に持ち込むしかないってことだ。

リーチの差だけじゃなく、体力にも明らかに差があるだろうに。

そう考えていれば、今度は向こうから攻めてくる。

さて、どうくる?

短い間で相手のモーションを観察する。

振り下ろしか、切り上げか、はたまた払いか。

加えて、左右どちらから攻める。

わずかな動きからそれを予想しようとするが、相手はこちらに背を見せるほどに上半身を捻り、体を弓のように撓らせる。

しかし、剣は真っ直ぐにこちらを向いたままだ。

くっ!! 初撃から突きでくるか!!

狙いは左胸。

右肩を突き出すようにして体を捻り、さらに迫り来る刀身に手の平を当て突きをいなす。

それでシグナムの攻撃は終わることなく、刃を下に向けてそのまま足を潰しにくる。

体を捻った勢いをそのままに、右方向へと体を投げ出して、仕切りなおす。

「今のを外すか。初見でかわされたのは久しぶりだ」

笑みを浮かべながらそんな言葉をかけられるが、返事をする余裕などない。

たった、一合交わしただけで消耗がすさまじい。

俺も出し惜しみしておく余裕はないな。

「ここからは色々使う」

純粋に肉体だけで勝負すれば必ず負ける。

「二旋」

先ほどの疾に加え、別の要素も追加した接近。

常人には視認出来ないレベルの速度に達するが、それでもシグナムの目は俺の姿を捉えている。

左から切り上げが迫るが、逆にこちらからそれに向けて左足を出し、剣の軌道に合わせる。

上に向かうベクトルに合流し、それを損なわせることなく頭上へと舞い上がる。

それを奴はチャンスと捉えるはずだ。こちらには空を飛ぶ手段などない。

待ち構えていれば、後は勝手に無防備な獲物が落ちてくるのだから。

だが、甘い。

上空で頭が下へ来るように半回転し、膝を折る。



そして俺は、何もないはずの空間を蹴った。



「なんだとっ?!」

驚きを他所にシグナムの背後へと急加速し、地面に降り立つ前に襟首を掴む。

同時に右腕を捻り上げ、地に足が着いた瞬間逆一本を決める。

脳天から落とした上に地面に細工までしたんだから、それなりには効いててほしいんだが。

そんな僅かな期待を込めるも、紫電の剣姫はすぐに立ち上がった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










今のはただ頭から落とされただけではない。叩きつけられた地面の感触が異様に硬かった。

パンツァーガイストだけでなく、騎士甲冑も抜けて衝撃が響いてきた。

それに先ほどの空中での動き。

「なんなんだ今のは?」

わずかにふらつく頭を抑え、立ち上がる。

「ふぅ、今のは効いたみたいだな」

二重の壁を越えたことに安堵のため息を吐いている。

さっきの芸当のタネは気になるが、今はこの戦いを終わらせることを考えよう。

もう私も手加減してはいられない。

「レヴァンティン!!カートリッジロード!!」

「Jawohl」

刀身の根元で魔力の込められた弾丸が飲み込まれ、薬莢が排出される。

「紫電一閃!!」

爆発的に高まる力を感じながら、一瞬で黒煉へと肉薄し袈裟懸けにレヴァンティンを叩きつける。

非殺傷設定のため、肉ではない何かを切る手応えを感じながら振り抜き、すぐさま目の前の胴体に前蹴りを叩き込む。

彼の体は紙屑のように軽く吹き飛び、先にあった木の幹をへし折って停止する。

これでかなりのダメージは与えたはずだが。

折れた木で見えなくなったが、それでも警戒は緩めない。

「五槻」

そう呟くのが聞こえると、茂みの中から数個の石が飛び出してきた。

この程度は、避けるまでもないな。

しかし、その考えが甘かった。

石が騎士甲冑に当たると、私の体は吹き飛んだ。

先ほどの黒煉のように、だがそれよりもひどく、運悪くあった噴水の石台に叩きつけられた。

口の中に血の味が広がり、鉄の臭いが鼻を突く。内臓にまで届いているらしい。

いかんな。手加減をしているつもりはないが、こちらには魔法があると慢心していたらしい。認めよう、皇黒煉。お前は強い。

噴水から立ち上がると、彼の方も茂みから抜け出してきた。

口元に血を拭った跡がある。痛みわけといったところか。

「なんかエロいな」

「なんだと?」

「いや、そうもびしょ濡れで服が肌に張り付いてると」

出血とは別で顔を赤く染めながら、そんなことを言い出す。

確かに濡れたままでは動きに支障が出るか。

そう思い魔力を放出して水分を蒸発させる。

「炎を使うのか?」

「ああ、レアスキルで魔力変換資質・炎熱を持っているからな。自然と使う能力もそれに引き摺られる」

「そうか、それは良いことを聞いた」

「どういうことだ」

「自分の目で確かめることだな」

そう言って、獰猛な笑みを浮かべてこちらに突っ込んできた。

様子見のために、一枚壁を作るか。

「レヴァンティン」

「Muspellzheimr」

カートリッジを一つ消費し、自分の周囲に炎が広がり、たちまち焼原が形成される。

これでそう迂闊に近づけないはずだが。

そう考えるのもつかの間、火の中を突っ切って足が飛び出し、レヴァンティンの柄を蹴り上げる。

くそっ、どういうことだ?!

かろうじて手放すことはなかったが、胴体ががら空きになる。

足に続いて黒煉の体が炎の中から現れ、

「四穿(しせん)」

踏み出した地面に悲鳴を上げさせながら、四連の突きが放たれる。

「Panzergeist」

今回は防御が間に合ったが、

「ぐぁっ」

それを突き抜けて衝撃が通る。

ムスペルヘイムを消して距離をとり、腹部を押さえる。

「なるほど、掌打で強引に通したのか」

「ああ、骨法で言う徹し、中国拳法風にいえば浸透勁って奴だな。貫けてよかったよ」

「実際に味わうのは初めてだ。だがそれよりも……」

「炎を突っ切ったことだろ。俺も何故かは知らんが、生まれつき火傷しない体質なんだ」

つまり、私の魔法に火の属性が混じれば、それはもう黒煉には効果がないということか。

これで私のカードは一つ失われた。

別の魔法で戦うことも出来るが、レアスキルは強制的に私の魔力を炎へと変換する。

これを意識して妨害することも出来るが、そんなことをするぐらいなら別に注意力をまわしたほうがましだ。

わたしは、純粋な技のみで黒煉を打倒しなければならない。

そんな苦境の中でも、心が躍る。

久しく感じていなかった、純粋な騎士としての戦いだ。

笑みが浮かぶのを抑えきれなかった。





そこからは、もうただの泥仕合だ。

お互いに切り、殴り、蹴りつけ、投げ飛ばす。

途中からはパンツァーガイストを展開することもなくなった。

だが、これも魔力の温存、最後の一撃への布石だ。

体力の限界が近づいたところで、一気に距離をとる。

黒煉にはこちらに対して有効な遠距離攻撃がない。

先ほどの五槻という投擲も、回避を選択すればどうということはない。

だが、わたしにはある。

私が持つ技の中で、最長の、最速の、そして最強の一撃が。

「レヴァンティン!!」

「Jawohl,Bogenform」

カートリッジを一つ消費して、ボーゲンフォルムへと変形させ、さらに四発をその内に飲み込ませる。

これで終わりだ

そう確信して黒煉を見据えるが、彼も笑みを浮かべてこちらを見ていた。

力強く踏み込んだ左足を中心にして、地面に螺旋状の皹が奔っている。

足首、膝、腰、肩、肘、手首。

全身の関節を使って回転を増幅させ、それが集約された右のこぶしから何かが放たれようとしている。

私の読みは外れたらしい。だが、

先に撃ったほうが勝つ

両者が同時にそれを感じ、最後の一撃を解き放った。










「翔けよ、隼!」

「奥伝!」





「Sturmfalken!!」

「七凪(なぎ)!!」










二人の中間点で最後の攻撃が衝突し、周囲に破壊を撒き散らす。

あまりの衝撃に弾き飛ばされそうになり、ふらつく足でなんとか踏ん張って耐えるが、突如、風が反転した。

吸い寄せられるだと?!

威力が強すぎて擬似的な真空空間でも形成されたか。

衝突地点を中心にしてその空白に向かって戻ろうとする力に引き摺られ、体が浮く。

気がつけば地面に仰向けに倒れていた。

騎士甲冑も見るも無残な状態になっている。

「うぁっ、勝負は、どうなった」

答えを期待していない問いに、すぐに返事がきた。

「俺の勝ちだ」

目の前に黒煉が立っていた。

何かを振りかざして。

「いや、私の勝ちだ」

だが、その姿を目にして私はむしろ宣言する。

「なんだ……」

「プロテクト起動」

彼に握られたレヴァンティンに向かってそう呟き、黒煉の体内に向かって魔力の一撃を叩き込んだ。

「づぁっ?!」

デバイスにはマスター以外の人間に使用されないようにプロテクトがかけられている。

通常はシステムロックなどのプログラム面での処理だが、今回は直接的な対抗手段を用いた。

予期せぬ強力な一撃に、黒煉はレヴァンティンを手放して、倒れ込む。










私の胸に向かって










「おまえっ?!どこに顔を突っ込んで?!」

「ふぁへ、ふぉへほふぃふふぉひへひんほふぁ」

「そのままで喋るな!!ふぁっ、息が!」

「ふぉひ。ふぉへふぁふぁふぃふぃほひふはは」

「ちょっ?!どこを掴んでいる?!ふぁっ、先を摘むな!!」

互いに服もぼろぼろになっていたため、ビジュアル的には大変問題がある。

はっきり言って、18歳未満お断りな状況であった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










何とか体に力が入るようになって起き上がる。

なんか色々柔らかかった。

お互い結構出血してるのに、血とは違うなんか良い匂いもした。

「結局どうなったんだろうな」

「正直なところ私の負けだ」

「なんでだ?」

俺から言わせてもらえば、確実にこちらの負けだ。

「もともと、こちらに有利過ぎる勝負だったんだ。能力差を考れば本来ならすぐに終わるはずだった。

 にもかかわらず、最終的な結果は分け。どこかで負けるはずがないという慢心があったんだな。

 最後にしても、お前がレヴァンティンを取らずに直接止めを刺しに来れば、何事もなく決着がついていた」

そういって、先ほどの一幕を思い出したのか、少し顔を赤らめながら理由を述べる。

「これは殺し合いと紙一重なんだから、そういうのも含めればお前の勝ちだろう」

「お前にはそうだったかもしれないが、途中からは私にとっては意地を賭けた決闘だった。

 だから、これを私の勝ちと認めるわけにはいかない。私自身がそれを許せないんだ」

立ち上がり、俺の瞳を真っ直ぐに見つめて、そう言い放つ。

血と泥にまみれ、ボロボロになりながらも、月を背にして立つ彼女の姿が、とても美しいと思った。

彼女の心はたくさんのもので満たされているのだろう。

家族への愛、騎士としての矜持や、主への忠誠。

それは俺には無いものだった。

だから、俺はこんなことを言うんだ。

「さっさと持っていけ」

「なんだと?」

「いるんだろ?魔力とやらが」

「だが……」

「俺がそれで良いと言っているんだ。勝負なんて関係ない。お前を信じて、だから渡すんだ」

「……済まない」

「違うだろ、こういう時は」

「……そうだな、ありがとう、黒煉」

そう言って彼女は微笑んだ。










 ◆◇◆◇◆◇◆










黒煉はそう言ってくれたが、今この状態で蒐集を行うわけには行かない。

「ここまで体力が低下していると、下手をすればショック死する」

「はぁ?!お前さっきちょっと痛いだけって言っただろ?!」

こちらの言葉に食って掛かる。

「肉体的にはな。だが、魔力の蒐集は、いわば精神力を搾り取るようなものだ。体調が悪ければ、それに引きずられて最悪そうなる可能性があるということだ」

「あー、じゃあちょっと待つか」

彼はそう言って荷物の中からタオルを取り出し、噴水の水に浸して血を拭う。

ひどい傷だ。

だがそれも私がつけたもの。

「黒煉、手当てをさせてくれ」

「出来るのか?」

「ああ、決して得意ではないが、自然治癒に任せるより遥かに早い」

振り返りながら問う黒煉に、近づきながら答える。

二人で噴水の淵に腰掛け、術式を編んで彼に手をかざす。

治療をしながら、ずっと疑問に思っていたことを聞く。

「空中での動きといい、異様に硬くなった地面といい、どういうことだ」

答えをくれるかどうかわからないが、問いを発する。

しかし、予想に反してなんでもないことのように答えを教えてくれる。

「お前の言ってる魔力というのはよく分からんが、人間の中には氣というものが流れている。生命力と言い換えることも出来るな。

 それを意識して操ることが出来るようになれば、肉体を強化したり自然治癒力を高めたりできる。

 武術をやっていれば、感覚的には理解できているものだと思うんだが」

「ああ。明確に体系化されてはいないが、ベルカにもそういった概念はある」

「ベルカ?」

「私の出身地のようなものだ」

だが、それでも先ほどの芸当は説明できない。

「だがそれも体内の氣を無色のまま使ったときの話だ。氣はさらに五つの属性に変化させることが出来る。

 木、火、土、金、水だな。これを五行というんだが、これを用いて戦う術を皇は五行戦氣術と呼んでる。

 それぞれ異なる性質を持つんだが、無色のままで使うより局所的に効果は高い。

 二回目に接近したときは風氣を使ってただの身体強化よりも速度をさらに上げたんだ。

 宙に足場を作ったのも風氣で、地面を硬化させたのは土氣だな。

 これは体内で変化させた氣を周囲の環境に同調させて、コントロールしたんだ。」

黒煉の言葉に淀みは無い。

「今も土氣を使って、治癒能力を底上げしている」

確かに先ほどから、治癒魔法の効きが良すぎると思っていた。

そんなこともできるのか。

「細かい理論は分からんが、氣という概念が確立されていることは分かった。

 だが黒煉。これはこの世界では一般的なことなのか?」

「皆が皆知っているわけではない。むしろ知っているのはごく小数だし、秘匿されているものだな。

 俺が使えるのは、実家がそういう仕事を生業にしているからだ」

その言葉に、彼の名乗りを思い出す。

「確か退魔がどうとか言っていたな」

「そうだ。皇は古くから霊や妖を滅ぼす退魔師の家系だ。もっとも最近は問答無用で狩るのではなく、害をなす相手に限定して共存を図ることも多いけどな」

「そうか」

世界は広いな。

私の知らないところで、こんな戦い方もあるのか。





「もう大丈夫そうだ」

そう言って黒煉が立ち上がり、こちらを向く。

「あまり遅くなるわけにもいかんからな。さっさとやろう」

闇の書を呼び出し、彼に向けてかざす。

「蒐集開始」

胸の奥からリンカーコアが現れ、そこから魔力を引き出す。

「くっ、結構辛いもんだな」

「済まない、あと少しで終わる。もうちょっと我慢してくれ」

1分ほど経って、書が閉じる。

成果は30ページ。予想を遥かに超える量だ。

「大丈夫か?」

汗を浮かべる彼にそう声をかける。

「多少ふらつくが、問題ない」

一度だけ深く息を吐いて、背筋を伸ばす。

「なにやら大事な用があるんだろ。まあ、頑張れ。死なない程度にな。今日のを見ている限り無茶しそうだぞ」

からかうように笑いながら、それでも私のことを励ましてくれる。

「当分道場には来れないなら、凍夜さんには嘘でも一言伝えておけよ。俺もフォローはしてやる」

「本当にありがとう、黒煉」

「気にするな」

そう言って、背中越しに手を振りながら、彼は公園を出て行った。





私もきびすを返し、家へと向かう。

暖かい家族の待つ家へ。

これから、私の手は血に塗れることになるだろう。

主のために、私は誇りを捨てる。

だが、その最中でも、彼と戦えたことには大きな意味がある。

彼と戦うことで、私は壁を一枚越えることが出来た。

何故かは知らないが、そんな確信が胸の中にはあった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










「きりーつ、気を付け、礼」

「「「「「さようなら」」」」」

「さようなら、気を付けて帰るんですよ」

今日の授業は全て終わり、下校の時刻だ。

鞄を手にして教室の外へ向かおうとしたところで、なのはたちに声を掛けられる。

「ねえ、黒煉君。今日私の家でね、フェイトちゃんの歓迎会をやろうと思うんだ」

「まあ、歓迎会といってもそんな大げさなものじゃなくて、皆でおしゃべりしようってぐらいなんだけど」

「それで、黒煉君も良かったらご一緒にどうかなって思ったんだけど」

話を聞くと、予定自体は一昨日の時点で決まってたようだ。

その時には俺がいなかったから、また後で誘おうと思っているうちに、普段一緒にいるから誘った気になっていて今になって思い出したらしい。

「悪いがパスだ」

「えっ?黒煉、来てくれないの?」

くっ、フェイト。そんな目で見るな。

俺に非は無いのに罪悪感が生まれてくるじゃないか。

「ああ、先約があってな。どうしてもそっちに行かなきゃならん」

「にゃー、残念だけどしょうがないね」

「じゃあ、あんたはまたの機会にってことで」

「また明日、黒煉君」

「バイバイ、黒煉」

「ああ、また明日な」

そう言って、先ほど止めた足を再び動かし始める。

いつもならバスに乗るが、ちょうど今出たばかりのようで次の便まで時間がある。

走るか。多分そのほうが早い。

太陽によって暖められていた空気が、近づく夜の気配に冷たさを感じさせ始めている。

体を温めるためにも、軽く走って自宅を目指した。





図書館前のベンチでシグナムを待つ。

一度家に帰って荷物を置き、用意していたものを持って歩いてここまできた。

暖房の効いたロビーで待てばよかったのだが、来る途中で師匠に出くわしたのだ。

流石に図書館内へ野良猫を持ち込むわけにはいかない。

そういうわけで風の吹きぬける外にいるわけだが、膝の上で寝ている師匠が湯たんぽ代わりであまり寒くない。

そうして15分ほど待っただろうか。前からもはや見慣れた紫の髪がこちらに向かってくるのが見えた。

茶髪の少女が乗った車椅子を押している。たぶん年は俺と同じ頃だろう。

話から察するにあの少女が彼女たちの主とやらだ。

想像していたよりずっと若く、そして儚い印象を受けた。

「済まない、少し遅れてしまったな」

「気にするな。それで、この子が?」

「ああ。主はやて。こちらが先ほど言っていた……」

「はじめまして、皇黒煉だ。よろしく頼む」

シグナムの言葉に続いて名乗る。

「うちは八神はやて。こちらこそよろしく。いつもシグナムがお世話になっとります」

「世話になってるのは俺のほうさ。いつも剣の稽古をつけてもらってるからな」

互いに自己紹介を済ませ、ひとまず握手。

「ほな先に、本だけ返してしまおか」

「そうですね」

それに合わせて俺も立ち上がり、師匠はもう自分の寝床に帰るようだ。

「じゃあな」

「ナァー」

別れて先に行っている二人を追いかける。

「あの猫、黒煉君が飼ってる訳やなかったんやな」

「あいつは野良だよ。この辺のボスなんだけど、何故か俺には優しいんだ」

「お前はやたらと動物に好かれるからな」

「そうなん?」

「ええ、後で一緒に公園へ行ってみましょうか。黒煉の下にどんどん集まってきますよ」

「そうなんだよな、別に世話とかしてないんだが、すごい寄ってくる」

「はは、それは楽しみやな。ほな、シャマルたちも呼ぼか。ヴィータも喜ぶで」

「ヴィータ?」

会話の中に混じった聞きなれない名に首を傾げる。

「うちの家族や。ちっちゃい女の子なんやけどな。それとザフィーラって言う犬を飼っとる。シャマルとは一度会うてるんやよな」

「ああ。じゃあそれにシグナムを合わせて、五人家族か」

「そうなんよ、うち、親がおらへんから、シグナムらが来てくれてほんま良かったわ」

おう、さらっと爆弾発言したよこの子。

まあ俺も同じ立場だから、話し合わせるか。

「そうだよなー、子供がひとりで生活するのって大変だよな。俺も親いないから、その気持ちは分かる」

「そうなん?」

「ああ。色々知り合いの人とかが面倒見てくれるけど、やっぱできるだけ自分のことは自分でやらなきゃいけないし」

「そやねー、大変やよねー」

そうやってしみじみ二人で頷く。

「でも、はやてはもう大丈夫そうだな。こんなはやて思いのやつらがいるんだ」

「当たり前や。自慢の家族やで」

「ありがとうございます」

そうして三人で笑いながら、先ほど言っていた公園を目指す。










 ◆◇◆◇◆◇◆










私たちが公園に着いてから少しして、図書館にいる間に念話で呼んでおいたヴィータたち三人も合流する。

「こんにちは、黒煉さん」

「お久しぶりです、シャマルさん」

今朝会ったばかりだが、自然な様子で挨拶を交わしている。

二人とも役者だな。

「えっと、おま……あなたが、シグナムの言ってた黒煉……さんですか」

ザフィーラのリードを握ったヴィータが慣れない敬語につっかえながら話す。

それを見て苦笑した黒煉が、ヴィータの頭を撫でながら、

「ああ、君がヴィータでいいのか?」

「はい」

「そうか、唐突だが、シュークリーム食うか?」

「はい?」

本当に唐突だった。

ヴィータだけでなく、私やシャマルも驚く。

黒煉は笑いながら、ヴィータを見ている。

「はやて……」

どうすればいいのか分からなくなったヴィータは主に助けを求めたようだ。

「喜んで貰えばええよ。黒煉君はもううちらの大事な友達なんやから」

「ほら」

そう言って黒煉はずっと持っていた箱をこちらに差し出す。

気になっていたが、中身はお菓子だったらしい。

「ちゃんと全員分あるからな。みんなで食べてくれ」

「あっ、これひょっとして手作りなん?」

「ああ、料理が趣味だからな」

「ああー、分かるでそれ。確かに一人暮らしやと、どうしても自分で作らなあかんからな。

 で、そのうちそれが趣味になると」

「そうそう」

二人の会話を聞きながら、湖の騎士がショックを受けている。

「ふえ、こんな小さい男の子にも負けるなんて」

ひどいからな、シャマルの料理は。

「ほな、いただこか。頂きます」

受け取ったシュークリームを口に含む。

これはっ?!

「?! ギガうめぇっ?!」

ヴィータが叫ぶが、確かに美味い。

「ほんまや。ごっつ美味いなぁこのシュークリーム」

「うぅ、ここまで差があるなんて……」

主も絶賛し、シャマルは泣き崩れる。

「うん、今回は確かにいい出来だな。今度はアイスでもやるかな」

自身でも味を確かめるようにしながら評価を下す。

その後半の言葉に、うちの末っ子が喰いついた。

「?!黒煉はアイスも作れるのか?!シュークリームでこんなにギガうまなんだから、あたしの好物作ったらどうなっちまうんだよ?!」

「さてな、アイスは慣れてるわけじゃないから、ちょっと自信ないが出来る限り上を目指そう。それに冬に食うアイスも乙なもんだ」

「だよな!いやー、アイスってもんを分かってるじゃねえか!見直…した……ぜ」

途端にヴィータの台詞が尻すぼみになっていく。

自分で敬語を忘れたのに気づいたようだ。

「いいんだよ。子供が遠慮なんてするな。やりたいようにすればいい。今のうちの特権だぞ」

そう頭を撫でながら、笑って話す黒煉。

「はやて……」

さっきにも増して泣きそうだな。

「ヴィータの好きにすればええよ。黒煉君もええゆうてくれてるんだし。それに、そないに遠慮ばっかしとったら、友達とは呼べへんやろ?」

「う、うん!」

「と言うわけだ。何かリクエストはあるかヴィータ?」

「バニラ!最近はチョコとかイチゴとか流行ってるみたいだけど、バニラこそアイスの王様だ!」

始めにあった窮屈さも、警戒心も今はもう無い。

このために、ああも唐突にシュークリームの話を出したのだろうな。

『不思議な男だな』

この状態では喋ることの出来ないザフィーラが念話で伝えてくる。

『ああ』

『だが、嫌悪感は沸かない。お前が信頼できると言ったのも分かる気がする』

『そうだろう』

そうしてシュークリームがなくなる頃には、やはり黒煉の下に付近の動物が集まってきた。

「あっ!うさぎだ!」

ヴィータの声にそちらへ目をやると、確かに一羽のウサギがいた。

「ウサギが好きなのか?」

「そうなんよ。家でもいっつも呪いウサギの人形持ち歩いとるんやで」

「それにしても、珍しいですね。うさぎがこんな所にいるなんて」

「鈴がついてるところを見ると、どこかのペットか?」

「俺もそう思ってたんだが、ちょっと前に捨てられたらしい。最近良く見るようになった。ほら、こっち来い」

そう言って黒煉がしゃがみこんで呼ぶと、うさぎの方も素直に寄ってくる。

「ほれ、抱いてみな」

「えっ、大丈夫か?」

「大丈夫だよ。優しくな」

ヴィータがうさぎをおずおずと受け取る。

「ふあっ」

目を輝かせて、背を撫でる。

人に捨てられたばかりだというのに、随分と大人しくしている。

これも黒煉の力なのかもな。










「送ろう」

そろそろ日も落ち始め、黒煉のその言葉に促されて家へと向かう。

主はやてはシャマルとザフィーラに任せて、私とヴィータと黒煉は少し離れて後ろを歩く。

「それで、試験の結果はどうだった?」

「ザフィーラは信じると言っていた」

後はヴィータだ。

公園で返答は無かった。

歩き始めてからも、ずっと黙って考えているようだった。

そうして歩き続けること数分。

「あたしには、お前がどんな奴なのかはっきりとしない」

ようやく閉ざされていた口が音を紡いだ。

「そうか」

その否定的な言葉にも、特に感情を出すことなく淡々と返す黒煉。

「でも、いい奴だってのは分かった」

今度は何も言わず、二人で次の言葉を待つ。

「あたしたちははやてを助けたい。でもそのためには、いつもはやての傍についているわけにはいかない」

私とシャマルが今朝伝えた言葉を繰り返す。

「だから、その間はお前がはやてを守ってくれ」

真っ直ぐと黒煉の瞳を見つめる。

それに黒煉はヴィータの頭を撫でながら、

「任せておけ」

そう宣言した。

本当に、いい男だ。

この生活を続けるためにも、必ず闇の書を完成させる。

心の中で再度誓いをたて、私たち六人は夕日に照らされながら我が家を目指した。









 ◆◇◆◇◆◇◆










これから俺には休む時間があるのだろうか

自主練や稽古の時間は今までどおりだが、休んでいた時間をシグナムたちのために使うことになった。

別に後悔とかはしていないが、体がもつか心配になる。

はやての相手をするだけだから問題ないはずだが、それはそれで疲れそうな予感はする。



はやて…か



俺と似たような境遇らしいが、彼女には俺のような暗い部分は見受けられなかった。

シグナムたちに救われたのだろうな。

シグナムも、シャマルも、ヴィータも、ザフィーラも。

本当にはやてを大切に思っている。

そしてはやても、彼女たちを愛している。

俺と同じ身の上で、俺とは違う幸せな結果を得たことを、素直に喜ばしいと思った。

だがそれと同時に少し、本当に少しだが



彼女が羨ましくもあった。
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