現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 03 The First
「蒐集開始」

先ほど切り捨てた竜種に向けて闇の書をかざし、リンカーコアから魔力を蒐集する。

普段であればたいした手間の掛からない相手だが、じわじわと体力を削り取るような戦い方しかできなかった。
管理局には、一連の魔導師襲撃事件がわれわれヴォルケンリッターによるものだと、先日の白い魔導師との戦闘で気づかれただろう。

次元世界を管理するという言葉は伊達ではない。

彼らの捜索能力を考慮した場合、まず第一に拠点世界である地球から離れた世界での蒐集が大前提になる。

また、目に留まる可能性を低くするためにカートリッジ使用の制限。大きな魔力の発動はそれだけで発見される危険性が大幅に上がる。

その上で、サーチャーに対してのジャミング。最低限これぐらいの対処をしていなければ、すぐにでも管理局に捕捉されてしまうだろう。

管理局をごまかせるだけの結界ともなると、我々の中ではシャマルしか展開は出来ない。

管理局に存在を気づかれた以上、主を一人で置いておくことは出来ないため、二日前から二人一組で蒐集組と護衛組に別れて活動している。

その中でも、シャマルは必ず蒐集組に入らなければならない。

シャマルには負担をかけているな。

申し訳なく思っていると、ちょうど本人から念話が入る。

『シグナム、今日はこれぐらいにしておきましょう。そろそろ戻らないとはやてちゃんが起きてくるわ』

『わかった。こちらの蒐集ももう終わる』

闇の書が私の手元に戻ってくる。

3ページか。倒した手間に対して見返りが少ない。

先の管理局の魔導師のような相手が早々いないことはわかっているが、それでも逸る気持ちはどうしようもない。

シャマルと合流して海鳴へと戻る。

転移先は臨海公園。

「一晩で14ページ。あまり奮わなかったわね」

「仕方ない。管理局を気にしながらだからな。それを考慮すれば上出来なほうだ」

そうシャマルと会話しながら、周囲を見渡す。

まだこちらでは日は昇っていない。それでも水平線の向こうから朝日がにじみ出て、空を青く染めている。

早く戻らなければな。

そう思いきびすを返したところで

「シグナムか?」

隣にいる湖の騎士とは違う声が私の耳に届いた。










魔法少女リリカルなのは 空の少年 03 The First










12月5日、午前4時半。

まだまだ町が動き出すには早い時間に、皇黒煉の一日が始まる。

目覚まし時計が鳴り響くと同時に、伸ばした手でアラームを止め、布団を跳ね除ける。

多少の眠気はあるが、もう習慣と化しているので起き出すことに苦痛はない。

軽く水分を摂り、運動着に着替え、竹刀袋を持って外へ出る。

ベルはまだ寝ているようだから、置いていこう。

軽く準備運動をして臨海公園へと走り始める。

ただ走るだけではなく、月1分のペースでタイムを縮めるようにしている。

朝の空気に冷えた町を、一人走るこの時間が好きだった。

世界に自分はただ一人。

ただ、普通の人が思う、世界は私のものだとかそんなものではない。

世界に俺一人が取り残された。そんな自虐的な思考だった。

途中師匠に会ったりすると、そんな気持ちも和らぐが、それもあまり多くない。

そうして体が温まる頃には、目的地へとたどり着く。

ここで、日課の朝練を始める。

竹刀袋から取り出した木刀でひとまず素振りを三百。

そろそろ日が見え始めるかという頃、次の型練習に移ろうとしたところで、世界が変わった。

またか。

一月ほど前に同じ状況に陥った。

その時は痛い目を見たが、今回もだったら勘弁してほしい。

そう考えていると、林を挟んで反対側に気配が二つ現れる。

しかも、一つは覚えのあるもの。

とりあえず、身を隠しつつ目標を目指すと、二人の女性の後姿を見つける。

一人は肩口にかかる程度のセミロングの金髪。灰色のダッフルコートを着ていて、そこまで背は高くない。

もう一人の方は、かなり長くまで伸ばした紫色の髪をポニーテールにまとめた長身。白のロングコートに、髪と同色のマフラーを巻いている。

あいつに間違いない。

身を起こし木刀を握り締め、声をかける。

「シグナムか?」

相手が驚きにこちらを振り返るが、遅い。既に俺の間合いだ。

「二旋(つむじ)」

そう呟くと風のごとく駆け抜ける。一歩目から最高速に達し、相手には一瞬姿が消えたように見えるだろう。

居合いのように左手を刀身に沿え、最後の一歩を踏み込むと同時に体重を乗せて切り払う。

が、相手も咄嗟にどこからか取り出した白い西洋剣でこちらの剣戟を受け止める。

読み通りだ。

自然と獰猛な笑みが浮かんでしまう。

木刀と剣がぶつかった瞬間に柄から手を離して、身を低くしさらに踏み込む。

シグナムの顔が驚愕に歪むが、そんなもの関係ない。

奴の額めがけて右手が奔り、

手刀を叩き込んだ。

「?! 痛っーーーーー?!」

手刀といっても、実際はただのチョップだ。

だが、シグナムは額を押さえ、痛みに蹲る。

「くっくっく、痛いだろう。恭也さん直伝の徹を込めたからな。前回の良く分からんバリアも問題なく通ってるはずだ」

そのシグナムを見下ろしながら、勝利の余韻に浸る俺。

前回のあれにはいいようにやられたからな。とても気分がいい。

と、後ろで何かが動く気配を感じ、咄嗟に右方向へ体を投げ出す。

地面を転がりながら元居た場所に目をやると、変な穴から手が生えている。

さっき一緒にいたもう一人のほうを見ると、右手を前にかざしている。

だが肘から先がない。

何このイリュージョン

理解は追いつかないがこっちも迎撃体勢に入ろうとしたところで、左足に違和感を感じた。

足元に目を向けると何かに掴まれてた。

はっとしてさっきの女を見ると、左手も肘から先がない。

直後に緑色の輪がいくつも現れ、俺の体を引きずり倒し拘束する。

さらに、輪がその直径を縮めようとした瞬間、シグナムが蹲ったまま叫ぶ。

「待て、シャマル!!彼は違う!!」

その声にシャマルと呼ばれた女が動きを止める。

「どういうこと、シグナム?」

そう問いかけながらも、俺から視線をはずすことはない。

戦うことに慣れてる。経験値の差がでかい。

とりあえず、降参するしかないな。

「シグナム、早くこの人に説明してくれ。俺も輪切りにはなりたくない」

「そちらからいきなり仕掛けてきたんだ。少しは待っていろ」

まだ額を押さえているが、立ち上がってこちらにやってくる。

「シャマル、彼は私の知り合いだ。バインドを解いてくれ」

「説明が先よ。ヴォルケンリッターの将は確かにあなただけれど、参謀は私。この拘束は当然の処置よ」

まあ、確かにそうだよな。いきなり襲われたようなものだから、警戒するのは当然だ。

「彼は皇黒煉。私が講師をしている道場の門下生の一人だ」

「厳密に言うと、道場主の甥だな」

シグナムの言葉に付け足す。

「そして………魔力を譲ってもらった恩もある」










 ◆◇◆◇◆◇◆










ピンポーン

インターホンが来客を告げる。

まだ朝の7時半にもなっていない。人の家を訪ねるには非常識な時間だ。

朝食の片づけをする手を止めて、壁に備え付けられたディスプレイを見る。

映るのは栗色の髪の毛を二つのセットのリボンでまとめてツインテールにした、白い制服に身を包んだ少女。

なのは?

休日ならば朝一で襲撃をかけてくることもあるが、ここまで早くに来ることは無かった。

普段はバス停で合流するのが常だ。家まで来ることは無い。

考えてもしょうがないか。幸い着替えも終わっている。

インターホンには出ずに直接玄関へと向かい、戸を開ける。

「おはよう、黒煉君!」

「……おはよう、なのは」

朝からテンション高いな。低血圧の癖に。

「こんなに早くどうした?」

「あのね、一昨日なのはのお友達が引っ越してきたんだ!」

既に先が読めてしまった

「それでね、その子も今日から聖祥に通うんだけど、早く黒煉君にも紹介したくて!」

「ふーん」

「ふーんって。何でそんなに冷たいの!」

「別に興味ないから」

「興味ないって、ひどいよ黒煉君!」

だって知ってるんだから。

「分かった分かった。すぐに用意するから、ちょっとあがって待ってろ」

そう言ってさっさと部屋の奥へと向かう。

なのはもすぐについて来る。ちょくちょく家に来るから、もはや勝手知ったる他人の家だ。

「冷蔵庫の中のもん適当に飲んでな」

俺は洗い物の続きを急いで終わらせる。

なのははリビングで上機嫌にオレンジジュースを飲んでる。

鼻歌まで歌ってるよ。

その歌につられたのか、朝飯を食べてからすぐに二度寝に入っていたベルが、俺の部屋から出てきてなのはに近づいていく。

「み~」

「にゃ?」

その鳴き声に気づくも、発生源が分からずにきょろきょろと辺りを見回すなのは。

「み~」

そうして足元を見て、

「にゃーーーー?!」

いきなり叫ぶな。

そしてどっちが猫だ。

その声に驚いたベルが、俺の方へ走ってきて胸元に飛び込む。

「何やってるんだお前は」

怯えたベルをあやしながら、ジト目でなのはに詰問する。

「だ、だって、私もびっくりしたから。ごめんなさい」

うー、と半泣きになりながらも、ベルに謝罪する。

俺にではなく、ベルに言うあたり変なところで聡いよな。

「迷子になってるのを見覚えがあったから拾ったんだよ。確認したらやっぱりすずかのとこのだった。

 ひとまず俺が預かることになって、今に至るというわけだ」

「あっ、そうだね。言われてみると、確かに見覚えが」

そういいながら、少しずつベルに近づく。

ベルのほうも落ち着いたのか、伸ばされたなのはの手に鼻を近づける。

少しその匂いをかいでいると、ちょんと、なのはの腕の中に納まった。

「じゃあ、ちょっと相手してやってくれ」

「うん、よろしくねーベル」

なのはの撫でる手にベルも気持ちよさそうに自分から頭を押し付けている。

それを横目にガスの元栓と戸締りを確認して洗面所へと入り、ぱっと髪をまとめる。

自分の部屋に戻り、鞄を手に取って準備は完了。

「ほら、準備できたぞ」

「はーい」

元気そうに返事をして、使ったコップを流しにつけておく。

これぐらいなら何も言わずにやってくれるのを見ると、なのはもこの家に馴染んでるなとしみじみ思う。

「じゃあベル。留守番は任せた。飯は置いてあるから、腹が減ったら適当に食え」

「では、しゅっぱーつ!」

本当に、テンションが高い。










 ◆◇◆◇◆◇◆










黒煉君を引き連れて、フェイトちゃんの家へ向かう。

と言ってもすぐだ。歩いてほんの数歩。なんてったってお隣さんなのだから。

紹介したい子がまさかこんなところにいるとは黒煉君も思っていないだろう。

これがなのはの考えた、サプライズイントロダクションなの。

黒煉君の反応を楽しみにして、呼び鈴を押す。

すぐにリンディさんの声が響く。

「おはようございます、リンディさん。フェイトちゃんを迎えに来ました」

『おはよう、なのはさん。ちょっと待ってね、準備も終わってるから』

玄関の戸が開いて、リンディさんが顔を出す。

「おはよう。ごめんなさいね、わざわざ迎えに来てもらって」

「そんな、私も来たくて来てるんですから、気にしないでください」

「ありがとう、なのはさん」

そしてリンディさんは隣の黒煉君にも目を向け、

「黒煉さんも、おはよう」

「おはようございます、リンディさん」

黒煉君も普通に挨拶を返す。

あれ?

「ごめん、なのは、黒煉。ちょっと遅くなっちゃった」

そうして慌ててフェイトちゃんが出てくるが、

「気にするな。なのはが早すぎるだけだからな。バスには十分間に合う」

こっちも普通に会話してる。

なんで?

「にゃ、どうしてなのー。何でお互い普通に挨拶してるのー」

こちらの計画ではフェイトちゃんはまだしも、黒煉君はここでびっくりする予定だったのにー。

「何でもなにも、お隣さんなんだから引っ越してきたらその挨拶はするものだろ」

「まあ、そうよね。これから長いお付き合いになるのだし、そのぐらいは当然かしら」

そう二人に言われ、私は致命的なミスにやっと気づいた。

「うぅー、サプライズ失敗なの。それどころか赤っ恥をかいた気がするよー」

顔は真っ赤になるのがはっきりと分かる。

そんなのは気にせず黒煉君は話を進めてしまう。

「じゃあ、リンディさん、俺たちはもう行きますんで。フェイトのことは、まあ任せてください」

「ありがとう、黒煉さん。じゃあ、皆いってらっしゃい」

「えと、行ってきます、リンディさん」

そうして先にフェイトちゃんを連れて行ってしまった。

「にゃー、置いてかないでー。リンディさん、行ってきます」

急いで挨拶を残し、二人を追いかけていった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










バス停でアリサ、すずかと合流した後、フェイトを職員室まで案内する。

「そりゃなのはが阿呆なのよ」

「アリサちゃん、ほんとの事でももうちょっと言い方があるよ」

先ほどの出来事を暴露すると、予想通りの反応が返ってきた。

すずかなんてフォローするようでいて、逆に抉っている。

「だってよく考えれば、お隣さんに挨拶に伺うのなんて当然でしょ」

「そうだよな、むしろしない方が常識を疑う」

俺の答えにうんうんと大仰にうなずくアリサ。

「あの、その辺にした方が。なのはがどんどんちっちゃくなってる」

フェイトの言葉になのはを見ると、確かに鞄で顔を隠して、身を縮こまらせている。

フォローしてやるか

「そんな気にするな、なのは。そんなところもお前のいい所なんだから」

「にゃー、そうかなー」

少し鞄の脇から顔を出して様子を伺う

「そうよ。むしろ、それが無きゃなのはじゃないわね」

「私はなのはちゃんのそんなところ大好きだよ」

「にゃははー、そっかー」

二人からの援護射撃もあって、なんとか持ち直したようだ。

「っと、ここが職員室だ。また後でな」

「フェイトちゃん、すぐに教室で会おうね」

そうこうしているうちに職員室へとたどり着き、フェイトと別れて俺たちは教室へと向かった。





その後はもうお決まりの展開だ。

転入の挨拶をしたフェイトにクラスの奴らが殺到する。

質問攻めに慌てふためく彼女を助けるべく、俺とアリサで間に入る。

「はいはい、転入初日の留学生をそんなに皆でもみくちゃにしないの」

「それに質問は一人ずつにしておけ。聖徳太子じゃないんだから」

「黒煉、アリサ」

とりあえずは落ち着いた場に、フェイトが感謝の視線を向けてくる。

まあ、リンディさんにも頼まれてるし、できる限りフォローはしてやろう。

その後始まった授業の最中、教師の説明を聞き流しながら考えるのは、今朝のことだった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










「………という訳だ」

シグナムがシャマルさんとやらに俺のことを簡単に説明する。

「そう……それで、あなたはどう考えているの」

「彼は信頼できる」

「その根拠は?」

「実際に仕合った。そして、その全てが私に彼を認めさせている」

少し考え込んだ後、シャマルさんは拘束を解いた。

起き上がろうとする俺に手を貸してくれる。

「そんなことで納得するんですか?」

「納得に値する理由です。彼女は私たちの将なのだから」

先ほどの発言とは矛盾するように聞こえるが、それが彼女たちそれぞれの役割なのだろう。

シャマルさんが巡らせ、シグナムが決断する。

二人の間には強い信頼関係が伺えた。

「シャマル、少しいいか」

「何?」

そうして二人で密談。

時折シャマルさんが驚いてこちらを見てくる。

いったい何を話しているのか。

そう間も置かずに二人が戻ってきた。

「済まない、黒煉。お前に頼みがある」

唐突にシグナムが切り出す。

「わかった。何をすればいい」

それに対する俺の答えは、是。

内容を聞くことなく引き受ける俺に、シャマルさんが詰め寄る。

「あなた、本当にいいの?まだ私たちはしてほしいことも言っていないのよ」

「シグナムが俺を信頼してくれているように、俺もあいつを信頼している。それが答えです」

そもそも、彼女は騎士だ。誇りを捨てるとか言っているが、真っ直ぐすぎる彼女は、結局どこまで行ってもそれに変わりは無い。

「それで、どうすれば?」

「お前の都合の良い時だけで構わん。主の傍にいてもらいたい」

「主か。前も言っていたな」

「ええ。訳あって今はその人の傍に常にいるということは出来ないの」

「我々にはあと二人仲間がいるのだが、正直目的のためには4人一斉に外に出たい」

「でもそうすると、主を守るものがいなくなる」

「その時、お前に主を守ってもらいたいのだ」

主の警護を単独で任されるとは、想像以上に信頼のレベルが高いらしい。

それでも俺の答えは変わることは無い。

「任せろ。だがまずは、その主とやらにお目通りしないとな」

「ああ、今日の夕方は空いているか?」

「凍夜さんの稽古までなら大丈夫だ。どこで落ち合う?」

「市立図書館だ。細かい時間はまたあとで念話で連絡する」

「念話?」

聞き覚えの無い単語に首をかしげる。

「本当に魔法を知らないんですね」

「あー、すまんな」

「簡単に言うとテレパシーみたいなものです。機械に頼らなくとも離れた相手と直接意思疎通できるようになります」

『こんな風にな』

「うおっ?!」

突然頭の中にシグナムの声が響いた。

何の前触れも無く声が聞こえるので驚きはするが、便利そうな技術だ。だが、

「一方通行だとちゃんと相手に伝わったかどうか分からんだろ」

「確かにな。ではそうだな、4時ごろに来てくれるか。こちらの時間がはっきりしないので、かなり待たせることになるかもしれんが」

「その辺は仕方が無い。そちらに合わせよう」

「それとその時に、あなたの予定を大まかでいいので教えてください。

 これからは、その予定に合わせて私たちも活動します」

「わかった。もういい時間だ。また夕方にな」

そう告げて、公園の出口に向かう。

いかんな、帰りはペースをあげないと、家に着いてから登校までの余裕が無くなる。

竹刀袋に仕舞い直した木刀を背負い、夜の明け始める街を駆け出した。










 ◆◇◆◇◆◇◆










病院からの帰り道。いつものように主の車椅子を押して歩く。

何度も繰り返されたがために、もうこの重さにも慣れてしまった。

そして、慣れてしまった自分に嫌悪感を抱いた。

それはつまり、主が車椅子でいることを受け入れてしまったように感じたから。

今日の診察では、石田先生に厳しい現実を伝えられた。

あの人も主を助けようと頑張って下さっているのは分かる。

そして、少しも力に慣れていないことを不甲斐なく思っていることも。

彼女のためにも、私たちは一刻も早く闇の書を完成させなければならない。

「どないしたん、シグナム?怖い顔しとるで?」

「いえ、何でもありません。少し考え事をしていました」

内心が顔に出ていたようだ。

「あかんよ、そんな眉間にしわ寄せとったら。せっかくの美人さんが台無しや」

「申し訳ありません」

「いやー、そんな謝られてもな。それで、考え事ってなんやの?」

ちょうどいい、今のうちに切り出しておこう。

「実は、主はやてに紹介したい者がいるんです」

「おっ、なんやなんや、男かいな?」

「ええ、そうです」

何の気もなしに事実を答えた。

「えっ、ほんまなん?あかんなー、シグナムのボーイフレンドやろ。ちゃんとうちも、おめかしせなあかんな。

 うわー、なんて言われるんやろ。お父さん、シグナムさんを僕に下さいとかかな。うちお父さんやないのに。

でも、お前にお父さんと呼ばれる筋合いは無ーい、とか一辺言うてみたいかもしれんな」

それに主のテンションが途端に上がった。

その内容を聞いていて、どういった勘違いをしているの理解した。

「そっ、そういったことではありません!!そもそも彼は主はやてと同い年です」

「おっ、なんやシグナム、実はショタコンさんやったんやな。でもあかんで。9歳は早すぎる。もうちょい待ったらなあかんで」

「ですから、彼はただの友人です!私が剣術講師をしている道場の師範の甥です!」

「そうなん?いやー、もうびっくりさせんといてや、シグナム。うち、ちょお覚悟してもうたやん」

そういって、少しいやらしい笑みを浮かべてこちらを見る。

きっと主は最初から気づいていただろう。私をからかわれただけだ。

「そうです。それで彼と話していて、とても好感の持てる少年だと思いました。主はやてとも親しくなれるだろうと紹介しようと思ったのですが」

「ええよ。それで、いつ紹介してくれるん?」

「今日の夕方です。ちょうど今日は本の返却日ですので、それに合わせて図書館で落ち合うことになっています」

ヴィータやザフィーラとも一度顔を合わせておかなければならないので、一度うちに来てもらうか。

今日は主の診察があるため、昼の間にまとまった時間が取れた。

かなり遠くの世界にいく余裕があったため、ヴィータとザフィーラが蒐集に出てシャマルには休息を取ってもらっている。

まだ黒煉に会っていない二人にも警護を頼むことは今朝のうちに伝えておいたため、その時間には戻っているだろう。

「そうかー。いやー、楽しみやな。シグナムがそないに絶賛するんやから、よっぽどええ人なんやろな」

「ええ、主はやてもきっと気に入ってくださると思います」

そう微笑み車椅子を押しながら、彼との出会いを思い返す。

最初の出会いは平穏なものだったが、信頼関係を結んだのは随分と野蛮な方法だったな。





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