現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 02 The Second
4月の下旬。もう桜はどこも散ってしまい、日に日に暖かさが増していくが、夜はまだまだ冷え込む。

そんな中、いつものように凍夜さんに稽古を付けてもらった後での道場からの帰り道。川沿いの堤防を星を見上げながら歩いていると、何か黄色いものが眼に映った。

はじめは月明かりが水面に反射しただけかと思ったが、それにしては色が違う。月はよく黄色で表現されるが、陽光に照らされて大地に降り注ぐその明かりは、むしろ白に近い。

何かと思って川原に目を向けると、やはり水面とは別の位置から照らされたものだと分かった。

あれは、人か?

目を凝らせば、金髪の少女がいた。さっきの光は彼女の煌く髪の毛が月光を跳ね返したものらしい。

今でも、彼女を見ていると、キラキラとまるで髪自身が輝いているようにも見える。

だが、明らかにふらついている。

非常に不審な状況だ。

深夜とはいえないが、もう時刻も9時に近い。そんな時間に10歳にも届いてないような少女が、足元も不確かに川原で佇んでいる。

自分も人のことは言えないので気まずいが、このまま放置して何かあったとしたらあまり良い気分はしない。

体の向きを変え、堤防をゆっくり下りていく。















魔法少女リリカルなのは 空の少年 02 The Second















「ふぅ」

少し休憩のために人の居なさそうな川原に降り立つ。

ジュエルシードの探索に出てもう3時間ほどか。

最近成果が芳しくないので、今夜はアルフとは別行動で捜索範囲を広げてみた。

あの白い魔導師のこともを考えると一緒にいた方がいいかもしれないが、まずは物を見つけなければ話にならない。

ここの所ずっと気を張り詰めており、少しふらつくがそんなに長い時間休んでいるわけにもいかない。

早く母さんのためにジュエルシードを全部集めないといけない。

10分ほど水面を見つめて、捜索を再開するために飛び立とうとしたところで、

すぐ後ろから声をかけられた。















 ◆◇◆◇◆◇◆















「何をしている」

そう声をかけると、少女はビクッという単語が相応しいように体を強張らせ、勢いよくこちらを振り向いた。

自分を確認するやいなや、わずかに飛び退り構えを取る。

「誰ですか、あなた」

肩幅より幾分か大きく足を開き、上体は軽く前傾に。右腕を胸の辺りまで上げて拳を握り、左手はなぜか知らないがポケットへ。

甘いところは多々見受けられるが、よく訓練されたものだ。

だがいかんせん、不調にも程がある。

足元もおぼつかず、よくそんな状態でこんなところにいるものだ。

「すまない、驚かせたようだ」

とりあえず刺激しないように、荷物を足元に置き、両手を挙げて害意がないことを示す。

「こんな遅い時間に女の子が一人で川原にいる。まあ、善良な一般人なら心配して声をかけるのは当然だと思うが?」

そう声をかけるが、答えは冷たい。

「心配してくれるのはありがたいけど、大丈夫だからあなたはもう帰って」

にべもなくそう言い切られる。

「大丈夫といわれても、明らかにそうは見えない。最後にまともな食事をしたのはいつだ?」

こちらを警戒して目つきは険しいが、顔なんて真っ青だし、先ほどは美しく見えた金髪も、近くでよく見れば痛んでいるようでくすんでいる。

「あなたには関係ない。私にかかわらずに、早く家に帰って」

取り付く島もない。だが放っておくことも出来ない。

こんなに不幸オーラを出しているくせに、差し伸べられた手をとらないのはずるいだろ。

「俺の家もそう遠くないところにある。幸い親もいないから、ちょっと休んでいけ」

そう言って彼女の手を取り歩き出す。

「ほんとに大丈夫だから。離してっ」

抵抗して手を振り払おうとするが、それにも力がない。

彼女の発言は無視して、歩き続けるが一向にやむ気配がない。

いい加減疲れるので、立ち止まって振り返り、

「あっ、やっと分かってくれた」

空いた手を振りかざして、彼女の頭部に手刀を落とす。

「痛いっ?!いきなり何するのっ?!」

「やかましい。そんななりして何ほざいてるんだ。明らかに限界超えて体を酷使してるだろ」

彼女自身自覚があるのか、俺の言葉に口を噤む。

「今のお前に必要なのは、遠慮ではなく休息だ。わかったら黙って付いて来い。飯でも食わせてやる」

そう言うと、不精不精ではあるが彼女の手から力が抜けた。

「わかればいいんだ、わかれば」

「……それ、私が言いたい」

何か言っているようだが、俺は知らん















 ◆◇◆◇◆◇◆















その後はおとなしく付いてくる彼女の手を引いて、マンションにたどり着いた。

リビングまで案内すると、借りてきた猫のように大人しくしている。

「待ってろ。急いで何か作るから、その間は風呂にでも入ってろ。帰ってからすぐ入るつもりだったから、もう沸かしてある」

そのセリフに彼女は過剰に反応する。

「今でも十分申し訳ないのに、加えてお風呂までもらうなんて、そんなにお世話になれないよ」

言葉は普通なのに、態度がおかしい。観察している上で察するに、風呂に対してだ。

「世話になったら、その日のうちは一個も二個も変わらん。だから遠慮なんてするな」

「う~、でも……」

申し訳ないというよりも、何かあるから遠慮しているように感じる。

「別に一緒に入るわけじゃないんだ。それとも、風呂に入る上で何か問題でもあるのか?」

「えーと、その…」

まさに問題があるようだ。でも、風呂入るだけだろ。

「着替えか?風呂入ったら即洗濯してやる。乾くまでは俺のを着ておけばいい」

「着替えのことじゃなくてね」

違うのか。俺には他に考え付かんが。

「あの、理由を言っても笑わない?」

「別に笑わないが」

「……えっとね……」

なんだかひどく気まずそうだ、いや恥ずかしそうか。

「その、私、一人で洗えないんだ」

「どこが」

「えっと、あたま」

あー、成る程。まあ確かにこれだけ長ければなぁ。洗うのは大変そうだ。俺も伸ばし始めたころは苦戦したものだ。

「じゃあ、風呂は後だな。飯の後に一緒に入って洗ってやる」

「あ、ありがとう。ほんとに、助かる」

一緒に入ることは恥ずかしくないのか。よく分からん娘だ。

「じゃあ、すぐに用意する。部屋の中のものは好きにしていいぞ」

そう言って、冷蔵庫の中をあさる。今日は外で適当に済ませるつもりだったから、あまり食材は入っていない。

セールで買っといた豚のブロックがある。豆腐もあるし、作りだめしておいた味噌のペーストがあるから、豚をミンチにして適当な野菜入れて似非麻婆でもでっち上げるか。後は何かスープ。米は先に炊いとかないと。





作り終わってリビングに食器とともに持っていくが、彼女はさっき見たときと同じ場所にいた。

珍しそうに周囲を見渡しているが、同じ体勢を維持している。

「もっとリラックスしていいんだぞ。ちょっと強引だったが、一応休ませるためにつれてきたんだから」

「あっ、うん、ごめんね」

「謝られても困るんだが……」

そう言いながら、料理を盛り付けてテーブルに並べていく。

「では、いただきます」

「……いただきます」

そういって、俺はレンゲを、彼女はスプーンを持つ。

レンゲ自体はもう何個かあるが、馴染みの深そうなスプーンを用意した。

だが、いつまで経っても食べ始めない。

「別に赤いからといって、そこまで辛いわけじゃないぞ。それなりに抑えてあるから、多分そこまで苦ではないはずだ」

「そこまで……ってことは、ちょっとは辛いんだね」

多少覚悟を決めたように、スプーンで麻婆をすくい口に運ぶ。

そうして口から紡ぎだされる言葉は

「おいしい」

本当に小さな言葉だったため、音としてはこちらに届かない。

だが、その口の動き。なにより彼女の表情がそれを物語っていた。

それを見届けると、俺も自分の食事に取り掛かった。





「ごちそうさまでした」

「おそまつさまでした」

向こうの国にもごちそうさまでしたの文化があるのか。

そんなよく分からないことに感動しながらも、食事は無事に終了した。

結局、彼女は喰いまくった。俺もかなり食事量は多いほうだが、今回はその俺よりも食べている。

よっぽど腹をすかしていたのか、それともそれだけまともな食事を食べていなかったのか。

どちらにせよ、顔色は大分良くなっているから、喰わせた甲斐はあったようだ。

で、予定通りのバスタイムである。

「タオルはしっかり巻いとけよ」

「? どうして?」

そこでどうしてと聞くか。この娘には羞恥心がないのか。

「どうしてもです。年頃の娘が軽々しく他人に肌を見せちゃいけません」

「よくわからないけど、わかったよ」

そうか、よくわからないのか。

まあ、俺も普段から破壊力の高い桃子さんやら美由希さんと風呂に入らされるから、別にこの程度見たってどうということはないから構わんが。

「なんだかすごい不愉快な気分だよ」

「何言ってるんだいきなり」

その癖、勘は鋭いようだな。

「とりあえず髪の毛はやってやるが、他は自分で洗えよ。ちなみにシャンプーハットなんて高級品はない」

「あう、やっぱりないんだ」

シャワーを手に取り、湯音を調節する。

「じゃあ、湯かけるから目は閉じとけ。熱かったり、温かったりしたら言えよ」

そう言って、長い髪の端のほうから濡らしていく。撫でるように湯を馴染ませるべく、丁寧に髪を梳く。

「ふぁ」

突然、金髪の向こう側から声がした。

「どうした?」

「ううん、なんでもないよ」

まだどこか遠慮している感じはするな。声は大分柔らかくなったから、リラックスしてはいるのだろう。

そう思いながら、普段から自分が使っているシャンプーを手に取る。

「俺が使ってる奴だから、髪質に合わないかもしれないがそこは勘弁してくれ」

「別にいいよ。私はそんなに拘りってないから。ある物を適当に使う感じ」

「もったいないな。せっかくの綺麗な髪なんだから。」

「えっと、綺麗?」

「ああ。だからもっと丁寧に扱え。今も結構痛んでるぞ」

シャンプーにわずかにシャワーの湯を含ませ、丹念に泡立てていく。

そうして爪を立てないように、ゆっくりと髪を白い泡で染めていく。

「痒いところとかないか?」

「もうちょっと右」

ここは主張するのか。遠慮がなくなってきたと解釈しておこう。

マッサージをするように指の腹で頭皮を刺激していく。

「しかし、長い髪だな」

「でも、あなたの方が長いよね。さっき髪解いたの見てびっくりした。膝ぐらいまであるよね?」

「んー、多分それぐらいだろうな。3年前から伸ばし始めたんだけど、俺も最初は伸ばすことだけ考えて、あんまり手入れしてなかったんだよな。

 そうしたら、知り合いのおばさんとお姉さんが怒り狂ってな。せっかく綺麗な髪なんだからって、風呂場に連れ込まれて徹底的に仕込まれた」

「そっか、だからそんなに綺麗な髪してるんだね」

「まあ、綺麗かどうかは関係なく、手入れしてる髪は普段生活してるときでもうっとおしくないな」

シャンプーを洗い流して、トリートメントも忘れない。

そちらを落とす直前に、目を閉じているのをいいことに顔を覗き込む。

ぼーっと、緩みきっている。あまり他人に見せていいものではないが、そのリラックスした表情に満足して、頭に湯をかけていく。















 ◆◇◆◇◆◇◆















お風呂から上がって、今は彼の服を借りている。

少し私には大きいTシャツとショートパンツ。下着はお風呂に入っている間に優先して洗ってもらったから、ちゃんと穿いてる。

服が洗い終わったらすぐにでも出て行こうと思っていたが、

「無理だな、完全に乾くのは朝だ」

という言葉に断念せざるをえず、なし崩し的に今日は泊まることになった。

ご飯を食べさせてもらって、お風呂まで入れてもらって、アルフには申し訳ない。

ドライヤーで髪も乾かしてもらったが、本当に洗うのが上手だった。

手で触れてもほんとに自分の髪なのかと疑うほどさらさらだった。それでも潤いは残っている。

お風呂上りの牛乳を飲んでいると、それまで黙っていた彼が声をかけてくる。

「何でそんな無茶してるんだ?」

聞かれるはずがないと思っていた言葉が放たれる。

無理やりつれてきて、有無を言わせずお世話してくるのだから。そんな勝手な行動から、何か察してくれていると考えていたのだが、誤りだったようだ。

それを口に出すと、

「心配だからつれてきたんだ。心配だから世話してるんだ。そして、心配だから理由を聞いている」

そう、相手の都合などお構いなしに自分の理由を押し付けてくるが、それもとても優しく感じられた。

「……母さんがそれを望んでいるから」

あの白い少女には言っていないことも、なぜか彼には話してもいいと思った。

だが、私の言葉を聞いた彼はすごく不愉快そうな顔をした。

「どうして母親が自分の娘がそんなやつれるまで無理をさせる?」

その言葉に私は答えることが出来なかった。

何にジュエルシードを使うかは知らない。ただ母さんは私にそれを集めろといった。私にはそれがすべてだった。

「知らないんだな」

彼はどこまでも私の心を見通しているかのようだった。

「いいか。それはひどく危険なことだ。理由も知らせずにこんな無茶をさせるなんて、はっきり言ってどうかしてる」

「そんなことない!!母さんは優しい人なんだ!!今やっていることだって母さんには必要なことで、私は母さんの役に立ちたい!!」

彼の言葉に瞬間的に頭が沸騰する。母さんのために何かするのがどうしていけないの?!

「それが危ないと言っているんだ。君がお母さんのことが大好きなのはいい、信じるのもいい。それは素晴らしいことだ。だが、それは盲目的に従っていいということにはならない」

「あなたに母さんの何が分かるって言うの!!」

彼の言っていることが分からない。理解が追いつかない。否、理解してはいけない。すれば、今の私の立場が崩壊する。

そうして、私たちの会話は終わった。

怒鳴ってしまったのに、彼は私にベッドを譲ってくれた。頑なに拒否したが、彼はさっさとソファの上で寝息を立て始めてしまった。

私もソファで寝ると主張したが、だったら誰も使ってくれないベッドに意味があるのかのと言う彼の言葉を思い出し、しぶしぶベッドに潜り込み、初めて感じる温かさに安堵し、私もすぐに深い眠りへと落ちていった。





翌朝。まだ日が昇りだしたかという早い時間。

私は物音を立てないように洗面所へ行き、洗い終わっていた服に着替える。

彼を起こさないよう、ベランダから飛び立とうと思い、窓を開けようとしたところで

「行くのか?」

後ろから声をかけられた。振り返ると、ソファに寝転がったままの彼が目を開けてこちらを見ていた。

「起きてたの?」

「まあな。これでも気配には鋭いほうだと自負している」

全然気づかなかった。

「すぐ戻るから、ちょっと待ってろ。」

彼はキッチンのほうへと足を向けると、宣言どおりにすぐ戻ってきた。手には小さな布の袋と何かを包んだハンカチを持っている。

「麻婆作ってるときに一緒に用意しといたサンドイッチだ。適当に食え。早めにな。

 袋のほうは趣味で作った飴が入っている。まあ疲れたときにでも口に入れとけば、多少はましになるだろ」

どうしてこんなに良くしてくれるんだろう。

「私は昨日あなたに怒鳴ったりしたのに」

思わず内心が口に出る。

「……まあただのおせっかいだ」

どことなく恥ずかしそうに視線を逸らし、そうつぶやく。

「お節介ついでに一つ言っておく。おまえ自身がそれを望んでいるなら、俺はそれを応援してやろう。誰がお前を否定しても、俺はお前の味方でいよう。

 辛くなったらまた来い。飯ぐらいならいくらでも作ってやる」

そう言って彼はベッドに横になった。こちらに背を向けながらも、右腕を持ち上げ手を振ってくる。

私も振り返って、ベランダへと出る。朝日が夜の闇に慣れた瞳にまぶしい。

「行こう、バルディッシュ」

手すりに足をかけ、一気に飛び出す。

なぜかとても心が軽くなっていた。















 ◆◇◆◇◆◇◆















そんなこともあったなぁ。

聞いていてとても背中が痒くなった。

こうして改めて振り返ると、俺も何をやっていたんだか。

「へぇ~、それが二人の馴れ初めか~」

エイミィさんは満足げにうなずいている。

俺にとってはちょっとした羞恥プレイだっていうのに。

「見ず知らずの人をそこまで助けるとは。紙一重で不審者だが意外といい奴なんだな君は」

「何平然と失礼なこと言ってる」

しみじみとつぶやくクロノに恨み言を述べていると呼び鈴が鳴った。

すぐにリンディさんがインターホンの受話器を取り、応対する。

「あらあらこれはご丁寧に。本当ならこちらから伺わなければいけませんのに。少々お待ちください」

そう言って、こちらを振り返る。

「お隣さんの方からご挨拶にいらっしゃったわ」

お隣って俺しか住んでないのに。ああ凍夜さんたちが来るんだったな。

と、そこまで考えて慌てて時計を見る。現在7時。待ち合わせ6時半。折檻コースだ。美由希さんのこと言えない。

「さあ、皆いらっしゃい」

いかんな。とてもまずい状況だ。

「あれ?黒煉君は行かないの?」

あー、一緒の流れで行ってごまかせないかな。そう考えてベルを胸元に抱えて、俺も玄関に向かう。

「どうも今晩は。先日こちらに引っ越してきたハラオウンです。わざわざ申し訳ありません、こちらから伺うべきだったのに」

先に向かった三人が玄関の戸をあけて挨拶している。

外にいるのも三人。長身で細身の男性と、彼の胸元ぐらいまでしかない少し小柄な和服女性。そして、彼女のすそを掴んでいる、俺やフェイトよりも小さな女の子。

「とんでもありません。私は皇琥珀、こちらが主人の凍夜に、娘の沙夜です。これから仲良くさせていただくんですから、気になさることありませんよ」

「本当はもう一人いるんですが、あまり遅くなるのもなんですので、ひとまず挨拶だけでもと思いまして」

「ご丁寧にありがとうございます。私が家長のリンディです。そしてこっちが………」

リンディさんがこちらに挨拶を促す。

「クロノです」

「フェイトです」

「エイミィ・リミエッタです。私は間借りしている立場なので、厳密にはハラオウンの人間ではありませんが」

「どうも、ベルです」

連れてきていたベルを掲げ、顔を隠す。

しかし次の瞬間には、俺の頭は凍夜さんによって鷲掴みされ、体は宙に浮いていた。

「はぅあっ!!」

「あっ、おにいちゃんだ」

それまで黙っていた沙夜の声は和むが、いかんせんこっちは大ピンチだ。

「何でお前はこっちの約束を無視してここにいるんだ?」

「痛い痛い、割れる割れる!!ほんとすいません、ごめんなさい、今のはちょっとした悪ふざけです、許してください!!」

そういうと、手が放される。

それでも頭はずきずきと痛むが、説明をしなければいけない。

「ふむ、猫助けはいいことだ。だが何の連絡もなく遅れたことには変わりないな」

「はい、すいませんでした」

そのことは弁解の余地もないので素直に謝罪する。

「えーと、よろしいかしら」

それまで成り行きを見守っていた、リンディさんが切りがついたと察して声をかける。

「っと、ごめんなさい。さっきも言ってたように、この人は母の弟の凍夜さんです。俺の叔父に当たりますね。それとその家族の琥珀さんと沙夜です」

「二年ほど前から黒煉さんのお母様の瑞樹さんが長期の海外出張に出ていまして、実際にはここの隣には黒煉さんが一人で住んでいるんです」

「私たちは隣町の方に家があって、なるべく来るようにはしているんですが、常に見ていることは出来なくて。不躾なお願いですが、黒煉のことよろしくお願いします」

「いえいえ、まだ会って間もないですが、黒煉さんがとてもいい子だというのは分かります。こちらこそ、色々お世話になってしまうかもしれませんね」

そんな大人同士の会話を聞きながら、沙夜が飽きたのか俺の方へやってきた。

「これがさっき言ってた猫さん?」

「ん、そうだ。多分すずかの家の猫だと思う」

そうして、沙夜が俺の膝の上で猫と戯れ始める。

そうしていると、今までじっとしていたアルフも沙夜に鼻を近づけて、様子を見ている。

「この子はアルフ。仲良くしてあげてね沙夜ちゃん」

そう笑いかけながらフェイトが沙夜と話し始める。

「一人暮らしか大変だね。そういえばフェイトちゃんの話でもそんなこと言ってたね」

「君も色々事情があるようだな」

フェイトに沙夜の相手を任せて離れると、クロノとエイミィが寄ってきた。

「まあ、それはお互い様だろ。そもそも何の事情もない人間なんていないさ」

そうして、皇家とハラオウン家のご挨拶は終わった。















 ◆◇◆◇◆◇◆















あの後ハラオウンの家を出てからは、俺の部屋で久しぶりに琥珀さんの手料理を食べて、昼に買っておいた翠屋のシュークリームをデザートにした。

そのあと少し話をして凍夜さんたちは帰っていった。

ベルのことはすずかに写真つきでメールしておいた。

やはり本人(猫?)だったようで、とりあえず今日はうちで預かることになった。

日課の訓練も終えて後は寝るだけというところで、フェイトの話を思い出した。





本来なら俺は感謝される資格などない。

彼女にはただのお節介と言った。

なんとなく心配だった。放って置けなかったと。

しかし、そんな考えも所詮は自分に対する言い訳だ。

ただ、川原で佇むフェイトの後姿を見て、3年前の自分を思い出した。

訳も分からず一人残され、失意に暮れていたあの頃。

今でこそ周囲の人たちのおかげで表面上は持ち直しているが、本当のところは何も癒されてはいない。

まだ俺の心の中には、何もない。ただの空白が広がっている。

『空(から)』だ

俺は彼女を助けることで、自分の痛みを和らげたかっただけだ。

彼女に自分を投影して、自分を助けたかっただけだ。

自分のように手遅れにならないよう。

押し付けがましい自己満足。愚かなエゴ。

彼女に声をかけたのは、そんな下らない理由に過ぎなかった。
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