現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 10
「これが、彼の生まれの経緯です。

 だからこそ、今回の一連の騒動で彼は私達を利用し、私達も彼を利用しました」

クラナガンの地上本部にある医務局。

そこで私は先輩達の今回のフォルセティへの強襲についての説明をしていた。

この事件は、発生からほとんど時間をかけずに管理局中に知れ渡った。

私達自身隠すつもりもなかったし、むしろ情報が素早く伝わるような工作もしていた。

その中に皇黒煉という少年が参加しているということもだ。

それでも、作戦自体は電撃戦並みの早さで完了はさせた。

話を聞きつけた先輩達が私に接触したときは、既に事後処理に回っていた。

必要最低限の指示を出して残務をアイズに丸投げして、黒煉君の下に案内した。

それにしても、よく全員集まったものだ。

先輩にクロノにエイミィ、フェイトちゃん、なのはちゃん、ユーノ君、はやてちゃん、シグナム君を除いたヴォルケンリッターも揃っている。

まさかここまで集まるとは思っていなかったから、医局に無理を言って会議室を一つ借りている。

「今……黒煉さんは」

代表して私と話していた先輩が、俯いたまま問いかける。

「マクラーレン提督と交戦中に負傷して、先程治療が終わったばかりです。今は麻酔で眠っています。

 意識を失う前に、事情説明を頼まれました。私も、彼の口から話させるのは酷だと判断しました」

「そう」

ヒュッ、と。

風を切る音が聞こえた。

気付いたときには、私の左頬を強い衝撃が襲っていた。














魔法少女リリカルなのは 空の少年 10















「なんだ、勢揃いじゃないか」

病室に入って一番最初に聞こえたのは、そんな軽い一言だった。

上半身を起こして枕に腰を預け、ベッドの淵にもたれている。

彼の特徴的な長い黒髪が枕元に拡がり、黒い絹の絨毯を作り上げていた。

「どうしたんだよ、なのはもフェイトも。酷い顔してるぞ」

「黒煉君!!」

「黒煉!!」

なのはさんとフェイトが黒煉さんの態度を見て緊張が解けたのか、駆け寄ってその身体に飛びついた。

「ギャーー!!」

二人とも力の限り黒煉さんを抱きついて、じわじわと傷口を締め上げる。

彼の顔が見る見るうちに青ざめ、汗が吹き出るのが分かった。

「ちょっと、駄目よっ!! なのはちゃんも、フェイトちゃんも!!」

医術に携わるものとして、今の光景が許せなかったのだろう。

普段は物静かなシャマルさんが、珍しく声を荒げた。

「にゃあっ!!」

「ふあっ!!」

私も止めに入ろうとしたところで、今度は抱きついていたはずの二人の悲鳴が聞こえた。

見れば、ベッドの脇で額を押さえて蹲っている。

黒煉さんも、額の一部を赤くして呻いていた。

「黒煉が二人に頭突きしたんだよ、母さん」

何が起きたのか理解できずにいると、後ろで静かに見ていたクロノが解説してくれた。

「いいか二人とも。俺は怪我人なんだ。それも結構酷い、が付く。この両腕の包帯が見えないのか。

 それをお前達ときたら……」

飛びついた二人に懇々と説明する彼の姿は、普段と変わらない。

「大丈夫なの、黒煉さん?」

「ええ、大丈夫ですよ。腕が動かないんで、当分日常生活に支障は出ますが、特に問題はありません」





そう笑顔で私の問いに答えるその姿は、普段以上に普通だった。





彼の行動は、いつもどこか歪だった。

具体的に説明をすることはできないが、とても10歳に満たない子供とは思えないような言動も多数見受けられた。

だが、その歪さこそが私達にとっての彼の標準だった。

それが今はどうだろう。

あまりにも普通すぎる。

だからこそおかしい。

あんなことがあったのだ。

狂おしいまでに求めていたものが、もう戻らないと分かったのだ。

その悲しみが態度に出ても何の不思議もない。

むしろ、何かしら負の方向への変化が無ければおかしい。

「シグナムさん」

後ろにいた烈火の将に声を掛ける。

「なんでしょう、提督」

何かを押し殺したような声音が、私は余計に不愉快にさせる。

「少し話があるのだけれど、いいかしら」

字面では問いかけているが、口調は有無を言わせないものを含んでいるのが自分でも分かった。

「わかりました。場所を変えましょう」

私を除いて、ただ一人彼のことに気付いていた彼女。

そして今回、彼の最も近くにいた彼女。

私は、そのことに嫉妬しているのかもしれない。















 ◆◇◆◇◆◇◆















意識が覚醒すると同時に瞳を開いた。

まず目に入ったのは、見覚えの無い天井。

肌に触れる布団も、普段とは違う感触だった。

無駄に糊が効いてるな。こんなんじゃ、ちっとも気持ち良くないだろうに。

覚醒しきっていない頭での思考は、右へ左へとふらつきながら、まるで目的地に辿り着こうとしない。

どうしてこんな所で寝ているのか思い出せず、とりあえず起き上がろうと腕に力を込めた。

だが、腕は俺の意志に動くことで応えず、代わりに返した返事は鈍い違和感だった。

どこかぼんやりとして不透明ではあるが、それは紛れもなく痛みだった。

それで意識に何か引っかかりを覚えた。

とても……とても大事なものを……失ってしまったような。

言葉に表せない、だが確かに刺さった、小さな棘。

それを確かに感じるのに、それでも目的の記憶は見えてこない。

腕は諦めて、しょうがなく腹筋と上体の反動だけで勢いをつけて身体を起こした。

それまで、天井の一面しか見えていなかった視界が格段に拡がる。

首を回して、室内を確認してようやくここがどこか気付いた。

「病室か」

次に視線を落とし、腕に巻かれた包帯を見て、鈍色の霞が晴れるように記録が溢れ出た。



意識を失う直前のスクーデリアとの会話。



森の中で仰向けになり雨と泥に塗れる俺を、声を掛けられず見つめることしかできないシグナム。



どこまでも白い病室。



その中心で、唯一つ異彩を放つ人影。



時間を逆行して映像のように脳裏に映し出される記録が、実感を伴って記憶へと昇華される。

そうして最後に、愛しいあの人の、どこか濁った赤褐色の瞳が現れて、





途方も無い嘔吐感に襲われた。





腕が動かないために、口元を押さえることもできず、ひたすら意志のみで込み上げてくる胃液を飲み下した。

強い酸で喉が焼けるのが分かる。

目を閉じ声を抑えてベッドの上でのたうち回り、吐き気の波が過ぎ去ったところでようやく落ち着いてきた。

「はぁ、はぁ。くそっ、夢じゃないんだな」

らしくもない現実逃避をしているようだ。

全く、現実は、本当に、どうしようもないな。

これも、一つの結末か。

なあ、皇黒煉。

お前は覚悟していたんだろう。

なら、こんなところで倒れることは許されない。

これから、どうすればいいのかなんて分かりはしない。

それでも、お前は仮面をつけろ。

今までつけていたものよりも、ずっと分厚い、お前の心を覆い隠すような仮面を。

それが、行動を起こしたお前の責任だ。

そう、自分に言い聞かせて、俺は目蓋を開けた。

なのはのこと言えないな。

見知った気配が多数近づいてくるのが分かった。

自嘲するような笑みを浮かべ、一度だけ深く息をついた。

もう、何にも動じることは無い。

扉が開く。

仮面をつけろ。

歓喜の仮面を

   怒りの仮面を

      笑顔の仮面を

「なんだ、勢揃いじゃないか」

俺の心はからっぽになった。















 ◆◇◆◇◆◇◆















「ほら、口を開けて」

「いえ、本当に大丈夫ですから。リンディさんも仕事があるでしょう」

「そんな腕で何言っているのよ。遠慮なんてしなくていいの」

黒煉と母さんの押し問答を横から眺める。

食事を食べさせる云々で揉め始めてから、かれこれ5分は経っているだろう。

初めは私となのはで食べさせてあげようとした。

そのときは黒煉も渋々ながら受け入れてくれたが、正直慣れないことはするものじゃないと痛感してしまった。

勇みすぎたんだろう。勢い余って熱い野菜スープが黒煉に降り注ぐ形になった。

部屋に入ったときに続いて病室に黒煉の悲鳴が響き渡り、右往左往する私となのはに母さんの鉄拳が振り下ろされた。

あまりの痛さに涙目になったけど、リンディ母さんに叩かれるのは初めてで少し嬉しいとも感じてしまった。

でもそう思うのも束の間で、二人して正座までさせられて珍しくガミガミと口喧しくお説教された。

その後、黒煉の介助は母さんがすることになったんだけど、その結果がこれだ。

母さんは笑顔を保ち続けてはいるが、その実徐々に不機嫌になっていくのが分かる。

「そこまで嫌がるのなら、しょうがないわね」

「はい、それが一番平和です」

やれやれといった諦めの言葉に、黒煉がほっとして深く息をつく。

瞬間、確かに私は見た。

母さんの目つきが狩猟者のそれになるのを。

差し出したフライの刺さったフォークに添えられていた左手が、光の速さで黒煉の顎を鷲掴んだ。

「あぐっ!?」

驚愕でその場にいる全員の動きが止まる中、ただ一人母さんだけがフライを黒煉の口の中に放り込んだ。

「負けました」

そこでようやく黒煉が折れた。

潔く口の中のものを咀嚼して飲み込み、以後は抵抗することなく受け入れている。

母さんもニコニコして差し出して、あーんと口を開けて待っている黒煉。

なんだか、餌をあげる親鳥とヒナみたいで、

「かわいいな」

横にいたなのはも同じことを感じていたのだろう。そう呟くのが聞こえた。

「にゃあっ!?」

そんななのはの姿が突然消えた。

「思っても口に出すな。俺だって恥ずかしいんだから」

「だからって、またおんなじところ~」

憮然とする黒煉と、額を押さえて転がりまわるなのはを見て、口に出さなくて良かったと心の底から思った。

「ふぇーん、はやてちゃーん」

「もう、そんな泣かんと。でも、黒煉君かて男の子なんやから、そないなこと言うたらあかんよ」

はやての言葉に、私も心の中で反省する。

でも、本当に安心した。

ここ最近の黒煉は、どこか遠い存在になってしまったような気がしていた。

私たちと同じ魔法の世界に関わり、隠し事をする必要もなくなったはずなのに。

そう感じていたところに、突然今回の事件が耳に入った。

若手の提督二人が、局内でも大きな影響力を持つ一派に反旗を翻した。

それだけでも一大事だというのに、その知らせの中には私達にとって馴染み深い黒煉の名もあった。

彼らが秘密裏に研究していた人造魔導師。その被験者が彼らの過ちを正す。

それを聞いて、胸が震えた。

黒煉は、私なんかとは違うんだ。

黒煉は、私なんかよりずっと強いんだ。

私は自分がお人形と言われて心を閉ざした。

もう一度立ち上がれたのは、なのはのおかげであることは疑いようもない。

プレシア母さんを失って、それでも笑顔でいられるのは、傍にいるみんなのおかげだ。

私一人では、きっとどうしようもなかった。

そんな私とは違って、黒煉はすぐに笑顔を見せてくれた。

ついさっき、大変な思いをしたばかりだというのに、もう自分で立ち上がろうとしている。

そして、実際に立ち上がっている。

もちろん、体の意味ではない。心の在り方のことだ。

私達がここに来るまでに、大した時間はかかっていないはずだ。

その短い間で、黒煉は立ち直ってみせた。

それも一人で。

本当に強くないとできないことだと思う。

その痛みを知っている私だから、その強さをよりはっきりと感じることが出来る。

そんな彼が、とても素敵で眩しいものに見えて、私は思わず笑みを浮かべてしまった。

「ねえ黒煉。もう一回チャンスをくれないかな」

私はこの時まったく気づいていなかった。

私は、まだまだ何も分かっていない、ただの小娘に過ぎないということを。














 ◆◇◆◇◆◇◆















「当面、黒煉君に任せることはないね。ゆっくり養生するといい」

そう告げるスクーデリアを最後に、やっとみんな帰っていった。

リンディさんとシグナムは、ずっと後ろ髪を引かれるようにこちらを伺っていたが、仕事が押していると悲鳴を上げる局員達に促されて渋々出て行った。

担当した医者の話では、とりあえず一週間は入院ということだった。

その後は、まともに腕が動くようになるまで、ハラオウン家や高町家で色々と厄介になるということで話が付いた。

深々と息をついて、肩の力を抜く。

俺の演技力も、捨てたもんじゃないな。

一度席を外したリンディさんとシグナムが気になったが、戻ってきてからはスープ事件で誤魔化せた気がする。

これからも、この調子でやっていけば問題はないだろう。

しかし、この腕では食事に困るのは確かだ。

いつも誰かに介助を頼むのも、実に面倒なことだ。

点滴で済ませることはできないだろうか。地球だとそれぐらい可能だが、ミッドでそれが通じるかは自分には分からない。後で聞いてみるか。

今更気付いたことだが、この病室はかなりランクの高いものだろう。

そもそもが個室であるし、かなりの家具も揃えられている。

用意された椅子も、ただのパイプ椅子ではなく質の良さそうな皮のソファが置かれており、冷蔵庫も据え付けられていた。

その上ユニットバスまで付いている。

ここまで来ると、もはや普通の部屋だな。

窓の外に目をやれば、ちょうど太陽がその姿を完全に隠そうとしているところだった。

夜の闇が世界を包もうとしている中、その姿を焼き付けるようにクラナガンの全てを赤丹色に染め上げている。

最後の輝きが地平線に覆い隠されるのを見送り、それでもそこから視線を外すことはなかった。

別に何かを考えていたわけではない。

むしろ何も考えてはいなかった。

自分がそんな行動をしていることも、消灯時間を迎えたために唐突に消えた部屋の灯りで気付かされた。

皆が帰ったのが18時で、消灯が21時だから、都合3時間も呆けていたことになる。

本当に何をしているのだろうか。

今唯一ある光といえば、窓の外の空に浮かぶ二つの月だけだった。

ベッドを降りて窓際に立ち、その月を見上げていると、どうしようもなくあの人の会いたくなった。

ミッドチルダの月は魔力を秘めていて、魔導師は極々僅かではあるがその影響を受けるということが実際に研究で証明されているらしい。

この胸に沸き起こる郷愁の思いは、この淡い月光が関係しているのだろうか。

心の衝動を抑えきれず、俺は気配を殺して部屋を出る。

造りは地球と変わらないな。

案内板のマラカイトグリーンや、ナースステーションから漏れ出る白熱灯が真っ直ぐに伸びる通路に落ちる闇を淡く切り裂いている。

看護士や警備員に気付かれないようにして辿り着いた一つの部屋。

院内の間取りやどの部屋かなんて知らなかったが、迷わず足はここへと向いた。

取っ手に肩を押し当て、体の重さで戸を開いた。

室内へと足を踏み入れると、中にはベッドが一つ。

余計なものは一切ない、殺風景な部屋だった。

ベッドに近づき、傍にあった椅子を引き寄せて腰掛ける。

今は眠っているらしい。

瞳を閉じて、規則正しくその胸が上下している。

その姿は美しく、儚げで、触れてはいけないほどに尊いもののように感じられた。

とても“コワレテイル”とは信じられないくらいだ。

「俺さ、また会えたら話したいこと、たくさんあったんだ。

 なのはのこととか、新しく出来た友達のこととか」

返事をしてくれることはないと理解しながら、囁くように言葉を紡ぐ。

元々期待していないのだから、構うこともない。

ぽつぽつと、いなくなったあの日から順番に話を進める。

30分ほどは喋り続けて、席を立つ。

「まだ1カ月分しか話してないけど、そろそろ戻るよ。毎日来るから、続きはその時にしよう」

そう、本心からの淡い笑顔。

「ここを出れば、また仮面をつけないといけないけど、どうにかなると思う。

 じゃあ、またね母さん」

まあ、なんとかやっていくよ。
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