現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 02 The First
「息抜きに行ったはずなのに、余計に疲れた気がするな」

翠屋からの帰り道。まだ4時にもなっていないとはいえ、もう12月。そろそろ日も落ち始める頃合いだ。

昼に比べて幾分か落ちてきた気温に身をこわばらせ、ジャケットの襟首を閉じて家路を急ぐ。

夕食のための買出しに出た主婦の流れに逆らって商店街を抜け、周囲の風景は住宅街へと変わる。

「そういえば、桃子さんがなのはの友達が引っ越してきたって言ってたな」

そう口に出し、騒動の後の翠屋での会話を思い出す。















魔法少女リリカルなのは 空の少年 02 The First















「そういえば黒煉君。なのはのお友達が引っ越して来たって言うのは聞いたかしら?」

美由希さんが必死に俺を宥め、取材に来ていた二人も帰っていった後の翠屋の店内。

他愛もない世間話に興じていると、ふと桃子さんの口からそんな言葉が飛び出した。

「ひとまず、俺は知りませんね。いつのことですか」

「昨日よ。ここ半年ずっとビデオレターでお便りしてたフェイトちゃん、黒煉君も知ってるでしょ。

 実際に桃子さんもお話したんだけどね、ちょっと人見知りな感じはあったけど、とっても可愛くて優しそうないい子だったわ」

「ああ、なのはからちょっと聞いてます。知っていると言っても、その程度ですよ。ビデオレターも、俺は見てるだけで出演してもいませんから」

昨日とは、随分と急な話だ。一昨日の金曜日に学校で会った時点では、そんな話何も出てなかったが。

アリサやすずかもそんな隠しているような態度はなかった。

「保護者の方とも話をしたんだが、週明けから聖祥に通うことになるそうだ」

「じゃあ何もしなくても、明日になればなのはが勝手に紹介してきますね」

後を次いだ士郎さんの言葉に、何も考えず当たり障りのない返事をする。

「そんなこともないんじゃないかな。私は明日と言わずに、もっと早く会うことになると思うよ」

特に意味の無い俺の言葉に、美由希さんがニヤニヤしながらこちらを見ている。

「どうしたんですか、美由希さん。修行が厳しくてとうとう頭にきたんですか?」

「ちょっとっ!? それはあんまりじゃない!?」

喰って掛かる美由希さんは軽く笑いながら流し、帰り支度をする。

「じゃあ、今日はこの辺で帰ります。ごちそうさまでした」

シュークリーム4つ分の支払いを済ませ、三人に挨拶をして翠屋を後にした。

あの美由希さんの顔からして、俺が気付いていない何かがあるんだろう。とりあえず、いきなり出くわすことになっても挨拶できるように気を付けておこう。

そんなことを考えながら足を進めていると、前からやたら風格の漂う茶色い毛並みの猫が一匹歩いてくる。首輪は付いていないので野良だろう。

「あれ?師匠じゃないか」

というよりも、知っている猫だ。ここら一帯に住む動物たちのボス的な存在である。野良だろうが飼われていようが、町内の動物はこの猫の言うことを聞く。

師匠というのは、そんなカリスマ溢れる存在に対する畏怖と、見事な身のこなしに敬意を評して俺が勝手に呼んでいる。

学んでいる武術から見て、この猫の気配の消し方や流れるような動作は見習うべきところがある。

「ナァ~」

俺に向かって一声鳴くと、きびすを返して今来た方向へと戻っていく。

付いて来いってことか?

そう勝手に解釈すると、黙ってその後をゆっくりと従って歩いていく。














 ◆◇◆◇◆◇◆















幾度か角を曲がり、辿り着いた先は

「公園?」

近所の公園であった。

師匠は一度こちらを振り返り、中へと入っていく。

それに続いて足を踏み入れると、中から何か騒がしい空気が感じられた。これは人じゃないな。

中程まで来ると、一つの木を中心にして動物たちが集まっている。犬、猫、鳥。実に多彩だ。よく見れば野良だけじゃなく首輪の付いたものも見える。

「これがどうかしたのか?」

問いかけると、また一声鳴いて上を見上げる。

上?

つられて視線を上げて目を凝らすと、もう冬だというのに青々と茂った葉の間に、白い異物を見つける。

あれは尻尾だな。多分、猫。

師匠が俺を連れてきた理由に予想が付いた。

「助けろってことか?」

「ナァ~」



そう言わんばかりの堂々とした態度で答えが返ってきた。

しかも周囲からは期待の眼差し。

「助けろって言われてもなー」

結構高いぞ。猫のいる所まで7mぐらいある。そもそもどうやって登ったんだ?まあこの程度の高さなら助けるのに問題はないが。

仕方なく荷物を下ろし、その上に先ほど購入したシュークリームを乗せ、ジャケットを脱ぐ。

「ちょっと待ってろ。直ぐ連れてくる」

そういって木に手足をかける。木なんて凹凸だらけだから、登るのは容易い。

5秒もしないうちに一番下の枝に辿り着くと、それを足場にさらに上の枝を目指す。

が、迫り来る新たな脅威とでも認識されたのだろうか、助けるはずの猫が上へ上へと逃げていき、俺は思わず声を出す。

「待て待て、俺はお前を助けに来たんだ」

それに続いて、下から鋭い猫の鳴き声が聞こえた。

それと同時に逃げていた白猫が動きを止め、こちらを振り向く。師匠が止めてくれたらしい。

心の中で感謝しつつ、一気に白猫のいる枝まで駆け上がる。

こうして近くで見ると、まだまだ小さい。自業自得だが、先ほどよりも上に登って余計怖くなったらしく、小刻みに震えている。しかもよく観察すると、首輪を付けている上にその風貌には見覚えがあった。

すずかの家の猫だよな、こいつ。何週間か前に新しく子猫が生まれたと見せてもらった。おそらくそいつだ。

「チッチッチッチ」

怯えさせないように、声をかけてゆっくり手を伸ばす。

指先が触れた瞬間、腕を伝って飛び込んできた。





俺の顔に向かって





「痛っ!?」

こいつ、ご丁寧に爪まで立てやがって。

くそっ!?

驚きで身を強張らせたところ、重心が崩れて滑り落ちる。

焦りながらも子猫を腕で抱えて抱き寄せ、靴底を幹にこすり付けて減速する。木の皮が剥がれて下に隠れていた肌がむき出しになる。

海鳴市役所環境保全課の方々には、申し訳ないことをした。でも俺は悪くないはずだ。

そんなことを考えながら、膝を畳み勢いを付けて幹を蹴り、下へと向かうエネルギーを横へと変化させる。

それで後は足を付くだけと安堵していると、その先には動物たちの密集地帯があった。すっかり彼らが見守っていることを忘れていた。

強引に体をひねり、隙間に右手を付き、倒立回転の要領でより遠くへと着地点を修正する。

無事地に足が着いたところで、今度こそ安堵のため息をついた。

白猫が腕から飛び降り、こちらに向かって鳴きかけている。

「暢気だねお前は。将来は大物になるよ」

そうしてベンチに座ると、膝の上に白猫が乗ってくる。俺の左隣には師匠が座り、ほかの動物たちもベンチの周りに集まってくる。

実に微笑ましい光景だ。しかしそれは主観であり、傍から見れば異様と映るかもしれない。

ふと、手の平を舐められていることに気づいた。視線を向けると、軽く血の滲む傷口を白猫が舐めていた。

あー、擦りむいたか。結構無茶したもんな。修行が足りない。

そんなことを考えながら、白猫と師匠の背を交互に撫でてぼおっとしていた。

俺のことを返してくれる気配がない。

集まっているものが皆、思い思いの体勢でこちらを見つめていた。その瞳に映るのは紛れもない感謝。

まあいいか。凍夜さんとの待ち合わせも俺の部屋で6時だし。もう少し付き合ってやろう。

そういえば、落ちてくる最中に良くわからん気配がしたが、なんだったんだろうな。





 ◆◇◆◇◆◇◆





昨日だけでは終わらなかった転入の手続きを済ませて新しい我が家へと帰る途中、ふと見つけた公園の中へと入る。

具体的には説明できないが、何かを感じたから。言ってしまえば、ただの予感。ここで何か面白い出会いがありそうだという。

三分ほど歩いて、ようやく噴水のある大きな広場へと出た。ここが中心なのだろう。そう考えると、それなりの広さのある公園のようだ。

そう思いつつ辺りを見回す。まだそう遅い時間でもないのに人の影が一つもない。かわりに、広場の端にあった大きな木の下に何かが集まっているのを見つけた。

「あら?」

よく見ると、それはものすごい数の動物の集団だった。犬、猫、鳥。首輪を付けているものもいるので、飼い犬や飼い猫も混じっているらしい。それにしても、野生のハムスターなんているのかしら。

それらが木を囲み、ちょうど円を描くように集まって、一様に上を見上げている。

「何かあるのかしら」

彼らの視線の先を追って目を凝らすと、葉の陰に隠れて何か動くものを見つけた。それが何かを見定めようとした瞬間、

「痛っ!?」

向こうの方から降ってきた。

っ!? 子供じゃないっ!?

あの高さから落ちたら命に関わる。

直ぐに駆け出すが、距離がありすぎる。あまり認められるものではないが、人命優先だ。そう自分に言い聞かせ、重力緩和のために魔力を集めるとともに、その術式を構築する。

そこで、落ちてくる子供の顔が目に入った。そこに張り付いているのは恐怖ではない。むしろ何も浮かんではいなかった。無表情にただ淡々と今の状況を受け入れていた。

すると、軽業師のように子供はいとも簡単に着地を決めてみせた。

あまりに予想外の状況に少し思考が停止してしまう。

そんな私をよそに、ベンチに座って集まっていた動物たちと戯れ始めた。

気性の荒そうなものも何匹か見受けられるのに、みなその子の前ではおとなしくしている。

その場にいる者たちが皆、その少年に心を許している。

絵本や童話の中のような光景が目の前で展開されて、思わず見とれてしまった。

少年自身も美しい見目をしている。かなり長く伸ばした髪を飴色のかんざしでまとめており、その髪も濡れ烏のようにつやを持った色をだ。

顔のほうも、見た目からしか判断できないが、推測される年齢を考えるとだいぶ落ち着いた印象を受ける。それが無愛想と取られるかもしれないが、お釣りがくるほど整った造形だ。

将来はさぞもてるでしょうね。

そんなことを考えながら、観察を続ける。

動物たちが鳴き声をあげると、彼のほうも逐一言葉を返しており、会話が成立しているようにしか見えない。

「言葉がわかるのかしら」

日常世界の中に現れた幻想に心奪われていると、膝の上に乗っていた白い子猫が少年の手の平を舐めているのに気が付いた。

そういえば、先ほど落ちてくる最中にもその猫を抱えていたことを思い出す。

降りられなくなった猫を、この少年が助けた。周りの動物たちはそれを見守っていた。あの異様な光景はそういうことだろう。

公園に入るときに感じた予感とは、多分この少年のことだ。

そう自分の中で結論付けると、手当てを手伝うためにベンチのほうへと足を向けた。










 ◆◇◆◇◆◇◆










いつの間にやら、俺はたくさんの毛皮で押しつぶされていた。

待て待て、お前たち。いくら感謝の意を示すためとはいえ、これはやりすぎだ。逆に苦しい。

そうして跳ね除けようと思ったところで、突然皆自分から離れていき、端のほうにいたやつらは唸り声を上げる。

何事かと思ってそちらに目をやると、一人の女性が近づいてきていた。

緑の髪をポニーテールにした女性。

黒いハイネックのアンダーに、清潔な白のブラウス、淡い茶色のベストをつけ、その上からストールをまとっている。下はこげ茶のロングスカートをはいており、すべてがでしゃばり過ぎずに落ち着いた雰囲気を損なうことなく、女性の魅力を引き立たせていた。

首元に付けたネックレスの蒼いペンダントトップ、それと額に付いた4つの文様らしきものが印象的だった。

なんというか、とんでもない美人だよな。

こちらの視線に気づくと、見るものを安心させるような穏やかな微笑を返してくる。





瞬間、俺の中に稲妻に打たれたような衝撃が走った。





別に、一目惚れしたとかそんな浮わついた話ではない。むしろ、それは恐怖に近いものだった。

駄目だ、この人は。あの笑みは子供に向けるものだ。あれは自分の子供を愛することをその身で知っているものの笑みだ。紛れもなく母親を経験しているものの笑みだ。

あれは、俺にその存在を思い出させる。

「ナァー」

焦っている俺の横から師匠の声が聞こえた。その声に女性を警戒していた動物たちが落ち着きベンチへの道を空ける。

その様子を見て、少し落ち着きを取り戻した。

「こんにちは」

笑みを浮かべたまま、こちらに挨拶をしてくる。

「……こんにちは」

いかんな、何を警戒しているんだ俺は。不審がられる。平常心だ、平常心。

「大丈夫だったかしら。いきなりもみくちゃにされてたみたいだけど」

「正直に言って、助かりました。ありがとうございます」

そう言いつつ、周囲にいる者たちへ恨みを込めた視線を送っていると、続けて声をかけられる。

「みんな、あなたのことが好きなのね」

「はい?」

「この子達。私が近づいてきたら、あなたを守るようにしてたわ」

「……まあ、仲は良いと思います」

よく状況がわからないながらも無難な返事をしていく。

「手の平、大丈夫?」

一瞬何を言っているのか分からなかったが、白猫が手を舐めてきたことで擦りむいていたことを思い出し、顔を赤くする。

「……見てたんですか?」

「ええ。と言っても最後の部分だけね。もっと早くついていれば助けてあげられてたんだけど」

整った眉を寄せて謝罪を述べてくるが、この女性には何の非もないはずだ。

「そんな風に謝られると、こっちのほうが恥ずかしいです。ただ自分が未熟だっただけですから」

「怪我したのは手だけかしら?ほかに痛むところはない?結構な高さから落ちてきたみたいだけれど」

そう言いながら、右肩を見ている。気づいているのか?

実は先ほど手をついたとき、手の平を擦りむいたのと同時に肩も少し捻っていた。彼女に発言に思わず右肩を意識して身じろぎしてしまった。

「ほら、やっぱり肩も痛いんでしょう?」

たいした観察力だ。

「軽く捻っただけですから、少し経てば痛みも引きます」

「でも、手当てはしたほうがいいわ。ちょっと待っていてね」

なんか、穏やかな雰囲気してるわりに、強引に自分のペースに持っていく人だな。

どことなく楽しそうに離れていく後姿を見つめて、そう一人ごちる。

彼女は直ぐに戻ってきた。手には濡らしたハンカチを握っている。

「さあ、手を出して。少し染みるかもしれないけど、我慢してね」

「あー……はい」

抵抗しても良かったが、この人には遠慮しても無駄な気がした。母は強い。

「返ったらちゃんと消毒もしたほうがいいわね。さあ、行きましょうか」

「はい?」

何を言ってるんだこの人は

「だって、これ、あなたの荷物でしょう?」

そういってベンチの横においてある山を指し示す。首を傾げて微笑む仕草が、大人の魅力だけでなく子供のような愛らしさも感じさせる。

「肩を痛めてるんだったら、こんな重そうなもの持てないでしょう?手伝ってあげる」

確かにこの状態で、この荷物を肩に担げば明日まで響くかもしれない。

「でも、さすがにそこまでお世話になるわけにはいきません」

そんなことまでしてもらったら、こちらが申し訳なさでいっぱいになる。

だが、こちらの拒絶の言葉は無視して、彼女はニコニコと笑いながらこちらを見つめているだけだった。くそう、可愛いぞ。

待て待て、俺は何を考えてるんだ。

顔を赤くしながら、内心で葛藤している間も、彼女はこちらを見つめ続ける。

無理そうだ。

「じゃあ、そっちのバッグをお願いします。竹刀袋と喫茶店の箱は自分で持ちますから」

そういって立ち上がると、白猫を肩に乗せ、師匠に別れを告げる。成り行きを見守っていた動物たちもそれにあわせて散り散りに去っていく。

「その子は連れて行くの?」

「はい。登ってから気づいたんですけど、こいつ、友人の家の猫みたいなんで、ひとまず連れて帰ります」

「そう、それじゃあ行きましょうか」

そういって笑みを深くし、彼女は俺の手をとって歩き始めた。















 ◆◇◆◇◆◇◆















おかしい。さっきから頭の中は疑問でいっぱいだ。

先ほどの女性に手を引かれ、夕暮れ時の住宅街を歩いている。まあ、これはいい。

そして、順調に俺の家に向かっている。まあ、これもいい。

問題なのは、先ほど会ったばかりの女性に俺は何の道案内もしていないことだ。

にもかかわらず、着実に俺の家に近づいている。彼女の足取りには何の躊躇いもない。交差点でも迷うことなく正しい道を選んでいる。

間違いなく初対面のはずだ。そもそもこんな特徴的な美人、一度見ればそうそう忘れることはない。

不信感は募るばかりだ。

そうこうしているうちに、マンションのエントランスに辿り着いた。

辿り着いてしまった。

決定的でだった。なぜか知らないが、確実に俺のことを知っている。

「失礼ですが、以前どこかでお会いしたことがありましたか?」

まずは軽いジャブ。

さて、どう出る?

「あらあら、そんな可愛い顔してこんな小母さんをナンパかしら?」

「いや、そういう訳ではなくてですね」

ちょっと予想外の反応だった。少し顔を赤くしつつ、反論しようとするがそれを遮るように

「ふふ、軽い冗談よ。でも、どうして私があなたのことを知っていると思う?」

質問に質問をかぶせてきた。しかも、その言葉ははっきりと自分のことを知っていると言っている。

「流行りのストーカー?」

「残念ながら、はずれね」

ニコニコ笑って実に楽しそうだ。ずっと分かっていたことだが、彼女からは害意は感じられない。楽しそうではなく、この状況を純粋に楽しんでいる。

「実は昔生き別れた俺の母親とか」

「あら、そうなの? ごめんなさい、まずいこと聞いちゃったわね」

本当に申し訳なさそうな顔をしている。こっちがまずいこと言った気分だ。

「いえ、ただの冗談ですから気にしないでください」

「じゃあ、答え合わせをしましょうか。あなた、皇黒煉さんでしょ?」

「はい」

ようやく真相が聞けるらしい。

「最初に見たときにピンときてね。話に聞いていた通りの見た目だったから、すぐに分かったわ。膝に届きそうな髪の毛を鼈甲のかんざしでまとめたかっこいい男の子」

こちらからは口を挟まずに、相手の話を聞くに任せる。

「話していてもね、ちょっと無愛想なところはあるけど、本当はすっごく優しいっていうのが分かったから。これも言うとおりだったわね」

何か背中がむず痒くなってきた。

「そういう話を少し前から熱心に聞かされていたの」

なんとなく、犯人が分かったような、分からないような。

「なのはさんから」

成る程。それなら、おれのことを知っているのも納得は出来る。

「でも、それで俺の家を知っている理由にはなりませんよ。それはどこで聞いたんです?」

「ふふ、実はね、急なんだけど家族と一緒に、昨日引っ越してきたのよ。あなたの部屋のお隣に」

そう言って種明かしをして、笑ってこちらを見ている。

あピースがはまった。美由希さんが言っていた、明日といわずもっと早く会うってのは、こういうことか。

「話に伺っていたフェイトさんの保護者の方でしたか」

「ええ、初めまして。リンディ・ハラオウンです。よろしく、黒煉さん」

「こちらこそ、自己紹介が遅れました。皇黒煉です。よろしくお願いします」

「こんなところではなんだから、ひとまず部屋に上がっちゃいましょう」

そう促されて、エレベーターで最上階まで昇り、部屋の前まで移動する。

金曜の夜の時点ではなかった、真新しい字で書かれたハラオウンという表札が彼女の言葉が本物だと証明していた。

そこで、手当てをどうする、プラスどちらの部屋でやるかでひと悶着あったが、結局押し切られて、荷物だけ放り込んでハラオウン家にお世話になることになった。やっぱり強引だなこの人。

少し肩を縮こまらせて玄関を上がると、赤い毛並みの子犬が部屋の奥から駆け寄ってきて、真っ直ぐこちらを見上げ、鼻をヒクヒクと鳴らしている。

「ただいま、アルフ。お出迎えありがとう」

後ろにいたリンディさんが、子犬に向かって声をかける。

「こちらで飼っているんですか」

「ええ。正確に言うと、フェイトさんのお友達ね」

ふむ、相手は動物といえど、初対面の挨拶はしっかりしよう。

「隣の部屋に住んでいる、皇黒煉だ。たぶん、これから色々と行き来があるだろうから、よろしく頼むよ」

そう言って、しゃがみこみアルフの前に手を出す。

アルフはしばしの間こちらの手の顔を交互に眺め、前足を手の平においてきた。

俺は、その脚を握り、まるで人間同士で握手をするように軽く揺らす。

「アルフもあなたのことが気に入ったみたいね」

種族間を越えた挨拶を見守っていたリンディさんが嬉しそうに言う。

すると、それまでずっと肩に乗っていたベルが飛び降りて、アルフに近寄る。

ベルというのはさっき助けた猫の名前だ。よく見てみると首輪に名前が書いてあった。

お互い見つめあった後、連れ立って部屋の奥へと入っていく。

俺とリンディさんもそれに続いてリビングへと入っていった。

右手の平の手当てをしてもらいながら、先ほどの挨拶の続きを始める。

「本当は、昨日のうちに挨拶に伺おうと思ってたんだけれど、お留守だったみたいで。なのはさんからも出かけていると聞いていたし」

「月一ぐらいで土日の連休を利用して、叔父と少し遠出をするんです。ちょうど昨日がその日で、高町さんのほうにはもともと伝えておいたんで、なのはも知ってたんでしょう」

「何か武術をやってらして、その稽古をしてらっしゃるとか」

なのの奴はどこまで喋っているんだ。

「ええ、実家のほうがそういった古い家系なんです。それで、俺もこの町で道場を開いている叔父に師事しています」

「そう。一度そちらの方にもご挨拶しておかないといけないわね」

「それならそろって今夜うちに来ますので、その時にでも」

「ちょうど良かったわ」

脱脂綿を消毒液に浸して、傷口に当てる。

「ちょっと染みるかもしれないけど」





ぼおっと、リンディさんの動きを見ながらも、心に思い描くのは別の女性。

あの人も、俺が無茶をすると口では叱りながらも、笑顔でこうして手当てをしてくれた。

胸の奥に鈍い痛みが走り、顔をしかめるのではなく、逆に無表情になっていく。





「………んさん、……煉さん」

俺の名を呼ぶ声に意識が浮上する。

「どうしたの、難しい顔をして」

無意識のうちにリンディさんの顔を見つめていたようだ。

「いえ、なのはの周りにはやたらと美人さんが集まるなと思いまして」

「ふふ、お上手ね。さっきも思ったけど、まじめな顔して実は軟派な性格なのかしら?」

「別に下心を出して言ってる訳ではありませんよ。女性には優しくしろってのが、母の教えでして」

「いいお母様ね。いい気分にさせてもらって、感謝しないと」

「伝えておきます。ちょっと今は家を空けてて、すぐには無理ですけど」

いかんな、ちょっと油断しすぎた。あまりごまかせた気はしないが、流してくれたようだ。

そうして世間話をしていると、奥の部屋から15歳前後の男女が出てきた。

「おかえり、母さん。帰ってたんだ」

「ただいま、クロノ、エイミィ」

「お帰りなさい、リンディさん。ところでそちらの男の子は?」

クロノとエイミィと呼ばれた二人の視線を一身に受ける。

おかしい、さっきお邪魔したときには、玄関に靴はなかったはずだ。でも二人とも部屋の中から出てきたよな。

「こちらはお隣に住んでる、皇黒煉さん。さっき偶然、公園で会ったのよ。それでちょっと怪我をしていたから、手当てのついでにお茶でもと思って招待したの」

「初めまして、ご紹介に預かりました、皇黒煉です。これからよろしくお願いします」

リンディさんに促され、無難な自己紹介をする。

「クロノ・ハラオウンだ。こちらこそよろしく頼む」

「私はエイミィ・リミエッタ。苗字から分かると思うけど、ハラオウン家に居候させてもらってるんだ。これからよろしくね」

クロノさんはおそらく堅物でからかい甲斐のあるタイプで、エイミィさんのほうは冗談が通じてむしろいじる側に回るタイプだ。

所作と自己紹介からそんな意味のない分析をしてみる。力関係が実に分かりやすい。

二人を見て、ふと浮かんだ疑問を口にする。

「二人は付き合ってるんですか?」

「初対面の相手にいきなり何を聞いてるんだ君はっ!?」

一瞬で顔を真っ赤にしてクロノさんが反論する。

「うふふ~、残念ながらまだ正式にそんな関係ではないんだ~。でもクロノ君のほうは、もう私にメロメロなんだけどね~」

エイミィさんのほうは乗ってきた。特に狙ったわけではないが、面白そうなので放置する。

「私も、いっそのことちゃんと付き合ってしまえばいいと思うのだけれど、この子は甲斐性がないから。誰に似たのかしら」

リンディさんまで参戦してきた。

「なっ!? 母さんまで何を言い出すんです!!」

さっきの推測が正しかったと証明された。クロノは純度100%のいじられキャラだ。

3人でキャーキャー騒ぎながら、話は盛り上がっていく。

二匹して俺の膝の上にやってきたベルとアルフを撫でながら、既に俺の手を離れた爆弾の破壊力を眺めていた。















 ◆◇◆◇◆◇◆















落ち着いたところで、4人でお茶を楽しむ。アルフとベルはクッションの上で仲良く寄り添って寝ている。

6時を過ぎたあたりで玄関の戸が開く気配がした。

アルフの耳が動き、飛び起きて玄関へと走り出す。

「どうしたんです、アルフは?」

「フェイトが帰ってきたみたいだな」

「アルフはフェイトちゃんが大好きだからね」

俺の疑問にクロノとエイミィが答えてくれる。

「ただいま帰りました。すいませんちょっと遅くなって」

まもなく、キラキラと煌く美しい金糸のような髪をツインテールにした少女が入ってきた。

しかし、俺と目が合うとその動きを急に止めた。

見たことない奴が自分の家にいれば驚くか。自己紹介するために口を開こうとしたところ、

「あのっ!!あの時はほんとにお世話になって!!ちゃんとお礼も言えなくって、ほんとっ、ごめんなさい!!」

いきなり謝罪された。

意味が分からず周囲に助けを求めるも、残りの三人も俺に負けず劣らず驚いている。

「あれっ? もしかして、覚えてない?」

「えっと、君はフェイト・テスタロッサでいいんだよな」

こくこく

勢いよく首を縦に振る

しかし、俺の反応の薄さにショックを受けたらしい。みるみる表情が沈んでいく。

「えっと!半年前に!夜!川原で!ご飯もらって!」

なんか必死で思い出してもらおうと、一語毎に区切って叫んでいる。

それらを拾い出して、思い当たることがないか考える。

少しすると、頭の中で閃くものがあった。

「あー、はいはい。あのやたら顔色の悪くて、露出度の高い服を着てた子か」

浮かんだ人物像をそのまま伝えると、それはそれでショックがあったのか、泣きそうになっている。

これはフォローが必要だな。頼んだなのは。

「そうか、君がフェイトか。なのはから聞いてる。とっても可愛くて優しい子だって。いっつも自慢してる」

「なのはのこと知ってるの?」

不思議そうな顔で聞いてくる。いかん、同一人物なのにこの子の中では一致してない。

「自己紹介が遅れたが、俺は皇黒煉。ここの隣の部屋に住んでて、なのはとは幼馴染だ。これからよろしく」

? ? ?

頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいたが、

! ! !

理解が追いついたようだ。

「あっ、あなたが黒煉!? 私もよくなのはからあなたのこと聞いてるよ。

 私はフェイト・テスタロッサ。こちらこそよろしく」

握手を交わしていると、成り行きを見守っていた外野から声が掛かる。

「君たちはもともと知り合いだったんだな」

「そんな上等なものじゃないさ。ただ、一度いらないお節介を焼いただけだ」

ちなみにクロノ相手にはもう敬語は使わなくなった。いじられキャラを判明した時点でそのほうがいいと思ったんだが、クロノ自身それで何も言わないから、別にこのままでいいんだろう。

「そんな。いらないお節介なんかじゃないよ。私はあの時あなたに救われたんだから。本当にありがとう」

「礼を言われることなんて何もしてない。気にすることはないさ」

いやわたしは、いやそんなことはない。そんな譲り合いをしていると、

「黒煉さんにとってはなんでもなかったかもしれないけれど、フェイトさんはあなたのその行動に感謝しているのよ。それは間違いないわ

 むしろ、なんでもないのなら、フェイトさんのお礼を受け入れてあげればいいじゃないかしら」

リンディさんが仲裁に入ってくれた。

「まあ、それで気が済むのなら」

「うん。本当にありがとう」

そうして、何度目か分からない感謝の言葉を受け入れた。

「ところで、半年前のことって何なの?」

興味津々で話を蒸し返すエイミィさん。正直、俺にとっては恥ずかしい話だから、スルーしてくれると助かるんだが、空気は読めても自分の楽しみを優先されたようだ。

しかし、フェイトはよくぞ聞いてくれたといわんばかりに、身を乗り出して話し始める。

彼女の話を聞いていると、当時のことがおぼろげながら思い出されていく。





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