現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 09
薄暗い室内。外は既に日が沈んでしばらくしている上に、光を吸収する墨色のカーテンで届くはずの外の僅かな明かりも遮られている。

唯一の明かりは、部屋の中央で展開されている空間ディスプレイ。

「それで、検体の方はどうなっている」

デジタル化されてこちらに送られてきた情報が、スピーカーを通して電子音声として出力される。

発した本人の、それまで経験してきた年月の長さを感じさせる、低く、僅かに嗄れた声。


「成果は、ご期待に沿えるものだと考えております。

 スクーデリア准将、及びレヴェントン提督との模擬戦のデータを分析しましたが、とても先日魔法に触れたばかりの子供とは思えません」

それに応えるのは、まだまだ若い、艶のある高い女性のソプラノ。

「そうでなければ困るのだよ。それだけの設備と金をかけたのだからね」

「あの女の所為で、随分と予定は変わってしまったがね」

先程のとは違う声が二つ、その会話に交じってくる。

「ですが、ミズキ・スメラギがいなければ、完成しなかったのもまた事実ではあります」

「確かにね。確かに、その通りだ。だが、彼女が我々に背いたことも、また代わることのない事実だ」

「つくづく気に入らん女だよ。捕えてからも、どんなことをしようが口を割ることはなかった」

その言葉に、私は彼女へ施された仕打ちを思い出し、同じ女として少しばかりの同情を覚えた。

もう彼女自身、あの拷問も苦痛と感じることはできなくなった。

それは、生命として本能がもたらした逃げ道。それが救いかどうか人それぞれだろう。

「それで、先程話にあった若造二人がなにかこそこそと這い回っているようだが、何か知っているか」

目蓋を落とし、もの思いに耽っていたところで次の声が、私の意識を現実へと引き戻した。

「フォルセティに対して何かしようとしているようですが、確たる証拠もありません。すぐになりを潜めるでしょう」

「そうか。お前は引き続き、検体の分析と研究に励め。そう、我々はフォルセティ――」

「「「「次元世界の調停者たらん」」」」

右手を胸に当て、慣れた決まり文句を一斉に放つ。そうして、ディスプレイはその光を失った。

馬鹿馬鹿しいにも程がある。次元世界の調停者なんて、所詮自分達のエゴでしかないでしょうに。

エゴであることは別に構わない。そんなもの、人間であれば大なり小なり持っているものだ。

問題は、歪んだそれに自覚を持たないこと。行き過ぎれば、それはただの傲慢にしかならない。

そう考えて、思わず自嘲の笑みを浮かべてしまった。

他人のことは言えない。私もあの父親に復讐したかっただけだ。それを果たす前にくたばられてしまったが、対象をその先に求めているだけ。

気付けば、もう日も変わろうとしている時間だった。席を立ち、暗闇の中を危なげもなく出口に向かって進む。

扉が開き、それまでにない強い光が室内になだれ込む。

そこに現れたのは、特徴的な露草色の髪をした、スーツの上に白衣を着た女性。

「そろそろ、潮時かしら」

そう呟いて、時空管理局本局所属の医務官、クーラ・ハイデルンは己の執務室を後にした。















魔法少女リリカルなのは 空の少年 09















「全部隊、所定のポイントにスタンバイ完了しました」

まだ若い男性オペレーターが、作戦準備が終了したことを知らせる。

周囲にいる全ての局員が、一様に作業を終えて僅かな時間だけ手を止め、中央に立つ戦女神を振り返る。

彼女は、彼らの視線を受け止めたあと、目蓋を閉じる。

しばしの間を持って開かれたその澄んだ瞳には、強き意志が宿っていた。



「これより、我々がその杖を向ける先にいるのは、これまでの作戦と似て非なるものだ。



 本来であれば、彼らは我々と共に並び立つ者達であった。



 我々は、家族を、友人を、恋人を、そして平和を守るために同じ御旗の下に集まった。確かに、そのはずだった。



 しかし、その誓いも長き時の流れの中で磨耗し、色褪せ、失われていった。



 代わりに残されたのは、愚かな醜い妄執に過ぎない。



 それを食い止められなかったのは、我々自身の責任でもある。



 だからこそ、我々は討たねばならない。かつて、共に戦いし同士を。



 味方殺しの汚名も、罪も、襲い来る悲しみも、憎しみも、恨みも、私が全て引き受けよう。



 在りし日の誓いを、またこの時に取り戻す。



 我々はそのために、今このとき、ここに集ったのだ。



 私は、諸君がこの理想を現実のものにすることを切に願う」



そこまで言い切って、大きく息を吸い込んだ。

「全部隊に通達! 現時刻1100より作戦《ラグナロク》を発動する!」

通信端末を通して、スクーデリアの声が響き渡る。

「只今をもって、オールウェポンズフリーを発令、全戦闘魔法使用制限を解除!」

おそらく、同じ時、異なる場所で、レヴェントンも同様の指示を出しているはずだ。

「オールウェポンズフリーが承認されました。全戦闘魔法使用制限を解除。

 発令者は地上本部首都防衛隊特殊作戦部長、ヴァネッサ・スクーデリア准将。

 繰り返す。オールウェポンズフリー。全戦闘魔法使用制限を解除。」

スクーデリアが下した命令を、すぐさまオペレーターたちが前線へと伝える。

それに応えるように、散らばった各部隊と繋がっているディスプレイが次々に緑の光を放つ。

「准将、全部隊への通達、確認されました」

「砲撃部隊、照準合わせ、一斉射撃……」

揺るがす者の異名を持つ蒼き淑女が、





「薙ぎ払えっ!!」





開戦の狼煙を上げた。





サーチャーを通して映し出されていた映像が、砲撃の余波で白く染められる。

だが、それも一瞬。すぐに最適化された映像に切り替わり、戦場を映し出す。

超々高度から放たれたために、雲に風穴を開け、大気を切り裂きながら、それぞれの魔力に彩られた色鮮やかな砲撃の群れが、さながら裁きが下されたかのように天より施設へと降り注ぐ。

その照準を寸分違わぬほどの正確さを保持したまま、建築物の要所のみを撃ち抜いてゆく。

それでも、決してその全てが目標に届いたというわけではなかった。

「やはり、それなりの対策はしているか。障壁の強固さも、中々のものだね」

粉塵が上がり、視界が遮られたまま、結果を見届ける前にすぐさま次の指示を飛ばす。

「結界魔導師は、封鎖領域と強装結界を同時展開。強装結界は常に3人で構成。

 完全に研究所を外界から遮断。一人たりとも施設から逃がすな。

 続いて強襲部隊は、アタッカー、ガードウィング、センターガードの三人小隊で内部へ侵攻。

 速やかに、施設内を制圧しろ」

そこまで一息に伝えてから、少し肩の力を抜く。

実際の指揮官ともなれば、やれることはここまでである。

後は、現場の判断の方が優先される。

その都度、簡単な報告は入れさせるが、その方が円滑に作戦は進行する。

「あとは、時間との勝負だな」

そこでようやく、これまで声を発することもなかった俺が口を開く。

「そうだね。彼らには頑張ってもらわないといけないね。全研究所の制圧が終わるのは、早すぎても、遅すぎてもいけない。

 制圧自体はたいした問題ではないが、老人共の戻ってくるまでの時間は稼がないと」

そう、全てはタイミングだ。















 ◆◇◆◇◆◇◆















「私は地上、アイズは他世界での前線部隊の指揮を取る。

 シグナム君はアイズに、黒煉君は私に付いて来てもらうことになるね」

四人の男女が薄暗い部屋に集い、打ち合わせをしている。

室内には、普段人が生活している気配は感じられない。

調度品は一つもなく、家具も必要最低限しか置かれていない殺風景の小さな部屋。

ここはクラナガンにいくつか用意してあるスクーデリアとレヴェントンのセーフハウスらしい。

管理局の中でも知る者はほとんどいないということで、何か話し合うときは基本その内のどれかですることにしていた。

「本局の方はどうするんだ」

俺達4人ともが出るということは、つまり本局が手薄になるということだ。

むざむざ相手が動き易いようにしてやる必要はないはずだ。

「だからこそです」

頭を過ぎった疑問を口に出すと、レヴェントンがそれについて説明をしてくれる。

「私達は、フォルセティが局に登録している研究所の全てに襲撃をかけます。だが、あくまで“登録”している研究所です」

「つまり、秘匿されているものがあるということですか」

レヴェントンの言葉にシグナムが更なる疑問を投げかける。

「ええ、そうです。アコンプリスのデータを基に私達が照合した結果、登録されていない、そして最も規模の大きいものがひとつあります。おそらく、そこが本部と見て間違いないでしょう」

つまりはそういうことか。

公式に存在しているものは全てを目標にすることで、逆に非公式のものはまだこちらに気付かれていないと思わせる。

俺達が末端を相手にしている間に、幹部の方々にはまとまってそちらに逃げ隠れてもらい、むしろ逃げ場を失う結果に期待していると。

「戦力としては揃えられるだけ揃えたつもりだけど、あっちもそれなりに上玉を持っているからね。支局を潰すのは訳ないが、重要なのはタイミングかな」

確かに資料を見る限りでは、枝葉を切り落とすのはすぐに終わると予想できる。

だが、それでは早過ぎる。向こうには、逃げてもらえるだけの時間を与えなくてはいけない。

かといって余裕を持ちすぎると、今度はこちらに対抗するための準備を完了させてしまう。

短過ぎず、長過ぎず。

難しいところだが、やってやれないことはないだろう。

いや、そんなことではまだ甘い。

「やってやる。そのためにここまで来た」

決して大きな声ではない俺の呟きは、静かな室内ではやけに響いたようだ。

3人が一様にこちらの顔を見ている。

しばし、皆が固まったまま時間が過ぎるが、揃って笑みを向けられた。

「ああ、そうだね」

「必ず成功させましょう」

「大丈夫だ。やれるさ、私達ならな」

そうして、テーブルの中央に向かってそれぞれの拳が掲げられる。

3人の意図を察して、俺もそれに倣った。

揃ったところで、四つの拳を打ち合わせる。

これは成功する。そのことにはほとんど不安はなかった。

だが、何故か嫌な胸騒ぎが止まることは無かった。















 ◆◇◆◇◆◇◆















次々と、この臨時に作られた司令部へと、制圧完了の報が届けられる。

「そろそろ、作戦開始から二時間が経つか……」

その光景を見つめながら、私は静かに言葉を紡ぐ。

「ちょうどいい時間だ。もう、ねずみが巣に逃げ帰ってきても良い頃なんだけどね」

言いながら、隣に立つまだまだ幼い少年を見遣る。

身体の前に立てた剣の柄に両手を置いて瞳を閉じ、わずかな音を立てることもなく佇んでいる。

それはもう、生きているとは思えないほどだった。

彫刻のように白い肌は、室内の明かりを跳ね返し、さながら芸術品のような趣すら見せている。

「大丈夫かい」

思わず、そう声を掛けてしまった。

それだけ、普段とは一線を画して、異様だったからだ。

肌の白さは、つまりはそう見えるほどに血の巡りが悪いからだろう。

「何のことだ」

質問に質問で返すのはマナー違反だが、仕草にどこもおかしな感じは受けない。

自分では気付いていないってことか。

「まあ、緊張するのも無理はないと思うけどね」

「緊張……?」

そこで、ようやく隣に立つ少年は目蓋を開いた。

どこか焦点の合っていない瞳で、私を見つめ返してくる。

「緊張……、緊張か……。そうだな、確かにお前の言うとおり、しているかもしれないな」

すぐに視線を逸らし、今度は周囲に幾つも展開された空間モニタに目を遣る。

そうして一分も経たないうちに、彼の顔色は見慣れたものに近い色に戻っていった。

自分の状態をはっきりと自覚することで、平静時の感覚を取り戻したか。

「すまないな。礼を言おう」

そう言われても、まだまだ彼の態度には違和感を覚える。

だが、今は作戦行動中だ。いつまでも気にしている訳にはいかない。

時を同じくして、新しく通信ウィンドウが開く。

『空間の揺らぎを確認しました。規模はさほど大きくないようですが、まず間違いなく――』

「ワープアウトの兆候だろうね」

画面に映るのは、長年肩を並べてきた優男。

「准将。こちらでも確認しました。出現まで、後60」

周囲を観測させていたオペレーターが、アイズからの情報を補強する。

上手い具合に罠にかかってくれたようだ。

これからの進行を考えている間にも、何もない空間に波が広がっていく。

「……3,2,1。出ます」

カウントが零になると同時に、われらが管理局の連絡船が姿を現した。

さすがに、時間的にも戦艦までは用意できなかったようだね。

しかし、彼らはもう少し頭を使った方が良いと思うよ。何かが涌いていたとしても、今よりはましな判断が出来るだろうに。

「さあ、用意はいいかい、黒煉君」

もう一度彼を振り返る。

「その質問に意味はあるのか」

意志の強さの裏に、ほんの少しの不安を隠した瞳で、そんな素っ気無い言葉を吐くなんて。

まだまだ、坊やだね。

「ああ、確かに無いね。じゃあ、行くとしようか」

笑いかけて、正面をにらみ、声を張り上げる。

「これより、第二段階の降下フェイズに入る。機関始動。発進シークエンスに入れ」

「艦内に通達。只今をもって、《ラグナロク》は第二フェイズへと移行します。

 本艦は大気圏内降下のため、発進シークエンスに入ります。各員、マニュアルに従って迅速に行動してください」

私の指示は、わずかな間断も許さず全艦へと伝えられる。





そう、今私達は、惑星の衛星軌道上にいた。





最初の各地での施設制圧の指揮も、すべてこの艦内から発していた。

これから始まる、本命のために。

一足先に大気圏へと突入する連絡船を眺めながら、熱を持ち始めた艦の鼓動に耳を傾ける。

「補助機関出力上昇。主機関との伝送路構築。構築完了。

 主機関、起動します」

瞬間、艦全体が大きく震えた。

その裡に、魔力の炎を灯した産声が。

自らの持てる力を発揮できることへの歓喜の咆哮が。

確かに私の鼓膜を打った。

「装甲システムへエネルギー接続完了。降下準備完了しました」

よし、行こう。

ここまで来れば、もう負けは無い。

私は、そう確信した。















 ◆◇◆◇◆◇◆















『私とシグナム君で、外縁部から中央へ向かって制圧していきます。

 二人は、最奥を目指して突っ走ってくれればいいです。ヴァネッサもその方が好きでしょう』

逸る気持ちを抑えきれず、その言葉に飛びついて、気がつけば走り出していた。

スクーデリアもそれを察しているのか、10人程度の少数の部下を指揮しながらも、つかずはなれずの距離を保って追随してきている。

「ライトニングスナイプ」

発射速度を極限まで重視した、電光石火の抜き射ちの砲撃が俺の身体すれすれを駆け抜けていった。

通路の先で待ち伏せていた魔導師が、姿を見せた瞬間吹き飛ばされる。

『Vanishing Speed』

残った二人の魔導師に、高速機動魔法で瞬時に懐に潜り込んでから、魔力斬撃で意識を奪う。

援護があるというのは、こうも戦いやすいものなのか。

昔は退魔に出ても凍夜さんがお守りをしてくれていたが、最近はどんな場合でもスタンドアローンで動くことが多かった。

ほとんど意識したことのなかった戦い方に、少しの感動を覚える。

「後どれくらいだ」

『もうまもなくです。五分も掛からず辿り着けると思います』

施設内のデータを持っているアコンプリスが、正確に最下層までの道を示してくれる。

加えて、今現在もサーバーにアクセスして進行形で情報を更新している。

本当に、頼もしい奴だな。

警備の魔導師を次々と退けながら、辿り着いた最後の扉。

「私が先に行こう」

そのままの勢いで突き破ろうとしたところを、後ろから追いついてきたスクーデリアに制される。

何か言い返そうとして振り向いたが、今までに見たことのない彼女の瞳を視界に捉えると、瞬間的に頭が冷えるような思いがした。

「……任せた……」

「ああ、任されたよ」

そう笑顔で応え、彼女は扉を開き、光の奔流に飲み込まれた。















 ◆◇◆◇◆◇◆















『Round Shield』

あらかじめ用意しておいた防御魔法を発動させる。

ミッド式特有の円形魔方陣をかたどった盾が、室内より放たれた砲撃魔法を危なげもなく受け止める。

全く、考えることが単純過ぎるね。

「随分なご挨拶ですね、クラーク・マクラーレン提督」

魔力が晴れた先に現れたのは、まず見慣れた青い提督階級の制服。

もうほとんど白くなった髪を短く刈り上げ、かなりの年のはずだが、その顔つきもあいまって受ける印象は若々しく活動的だ。

服の下の肉体も、それだけでは隠し切れないほど鍛え上げられているのが分かる。

「ああ、すまないね。まさか君だとは思わなかったよ。てっきり、賊だとばかり。

 しかし、余計に腑に落ちないよ。どうして君が、こんなことをしているんだい」

軽薄な笑みを浮かべ、軽薄な言葉を紡ぐ。

白々しい真似を。

何かが擦れるような、耳障りな音が響いた。

それが私自身、そして後ろに控える彼の歯軋りだと気がついたが、抑えることはできなかった。

「マクラーレン提督、貴方を告発します。罪状は貴方自身が良くお分かりのはずですね」

私がここに来た時点で、いやそれよりも前に、それこそ各地の研究所を襲撃した時点でこちらの目的には気付いていただろう。

「いやはや、一体何のこ……」

「そんなつまらない問答をしにきたわけではありませんよ」

大仰な態度でふざけた台詞を吐き終える前に、言葉を畳み掛ける。

「あなたはよく、よく、分かっているでしょう。今まで自分が何をしてきたのか、どんなことをやってきたのか」

醜く濁った瞳を睨みつけながら、端末を操作して部屋にある大型モニターでデータを出力させる。

「貴方がたが、非公式にロストロギアを所有していることは調べがついています」

映し出される情報を目にして、目の前のゴミが纏う空気が変わるのが分かった。

「これは、顧客リストですね。直近のものまでは流石に手が回りませんでしたが、5年より以前のものはほぼ揃っているでしょう」

いくつもの顔写真が流れるように、浮かんでは消えていく。

「後半のものは、私も仕事をしている上で目にした顔もあります。そう、貴方の派閥の魔導師がロストロギアの不法所持で逮捕した被疑者です。

 これのどこが、公正である時空管理局の所業なんでしょうね。はっきり申し上げて、虫唾が走りますよ。

 こんなことをやる為に、管理局は存在するわけではありません」

「こんな……こんなデジタルのデータに、明確な証拠能力などあると思っているのかい」

やれやれ、諦めの悪いことだ。

これだけ詳細な情報だ。通常であれば途方もなく困難になる事実関係の確認など、悪魔のような日常業務の合間に、鼻歌混じりでも出来ることだ。

「では、生きた証拠に出てきてもらいましょうか」

私のその台詞に、合図をしたわけでもなく室内に入ってくる、罪の証。

「ほう、まさかこんな所で相見えるとは」

『お久しぶりですね、マクラーレン提督。こうしてお会いするのは十年ぶりでしょうか。

 御髪もかなり白いものが混じっていますよ。大分心労を重ねたようで』

「しかも、あの女のデバイスか」

アコンプリスも、皮肉というものが分かっている。

「そうだ。10年前に失ったお前達の研究成果、その最高傑作だよ」

心労というのは、他ならない黒煉君の消失。

多くの時間と、多額の投資をして完成を見た研究が、最後の最後で無かったことになれば、それはそれはショックも大きいことだろう。

「全く……世の中、ままならないものだね」

その言葉と共に、ゴミの目が細まった。

「こんなことまでして、私達を舞台から引き摺り下ろしたいと。そういうことかね、准将」

私達を見据えるのは、腐ったとしても、確かにそれまでの戦いの歴史を物語る、力強い眼差しだった。

「管理局という存在への、評価の違いなのだろうな。諦めと若さ、と言い換えてもいいのかもしれない」

両手を大きく開いて訴える仕草は、さながら舞台俳優のようにも見える。

さきほど、これが言った舞台から引き摺り下ろすという言葉も、こうして見ると他にないほど相応しい表現のように思えた。

「何が言いたいのですか、マクラーレン提督」

「准将。管理局は次元世界の治安維持のために、どういった活動をすれば良いと思う?」

質問の意図が測りきれない。

言葉を重ねようとしたところで、間もなくそれを封じられた。

「ああ、答えなくともよい。ただ私はね、准将。犯罪者の逮捕だとか、ロストロギアの管理だとか。

 そんなものではもう目的は達成できない。そう思うんだよ。

 もう、そんな時代は過ぎ去った。既に管理局は、その配役を固定されたのだ。

 その存在自体が、次元世界の治安維持というある種の《システム》に組み込まれたのだよ。

 ここまで言えば、私の考えていることが分かるだろう。賢い君達ならば」

確かに理解できた。それが、正確な答えかどうかは分からない。

だからといって、それを認めることはできない。

心が、それを認めたくないと思っている。

「管理局に求められているのは、その《行動》じゃない。

 次元世界のために活動している組織という《存在》であることだ。

 ならば、我々が成さねばならないことは、そのシステム上での役割を《補強》することだ。

 だからこその、我々フォルセティの活動だよ」

こいつらの考え方に立てば、確かにこれまでの活動というのは、極限まで突き詰めれば管理局の理念に背くものではない。

管理局がそのまま抑止力として働くこと。

それは、確かにあることだ。

そういった役割は、確かに、次元世界の平和へ貢献していることだろう。

「ですが、そのシステムの中で管理局がヒエラルキーの頂点である必要はありません。

 そんなものは、ただの独裁、恐怖政治に過ぎません。さらには、恩恵を独占しているものも多いでしょう」

「活動の過程で、私利私欲を肥やしている者はいる。それもどうしようもない事実だ。

 しかしその先の結果では、世界のためになっていることだろう」

「その通りかもしれませんね。ですが、フォルセティの方々全てが、貴方と同じような理念の下に動いているとは到底思えません」

「そうだ。君の言うとおりだよ。笑い話のようなものだ。

 かつて、確かに我々は誓ったはずなのにな、こうも簡単に貶められることになるとは、思ってもみなかった」

「クラーク・マクラーレン」

そこで、ずっと口を噤んでいた黒煉君の、静かで、だが確実に耳に届く力強さを持った声が聞こえた。

「時空管理局だとか、次元世界だとか、平和だとか。そんなものはどうでもいいんだよ。

 俺はそんなものに、興味はない。貴様らの誓いなど、知ったことではない」

デバイスを握る彼の手は震えていた。

「そんなものは、そこらの犬にでも喰わせておけ。傲慢でも構わん。俺は、俺の意志で、俺がやりたいことをする」

ゆっくりその手を上げていき、半身を引いて構える。

「貴様らには、奪われたものがある。俺は、それを取り返しに来ただけだ」

「ミズキ・スメラギのことかね」

「言わずとも、分かっているはずだ」

それに言葉は返さず、マクラーレンもデバイスを構えた。

「ああ、わかっている。私も、私の理想の下で動いているだけに過ぎない。君らに認めてもらえるとは、思っていない。

 誓いが歪んだとはいえ、それは私自身が望んだことかもしれない。そして、私も盟主として責任を果たさねばならない」

何の合図もなく、理想に狂った現実主義者と、理想を見ない独善主義者の、互いの意地のぶつけ合いが始まった。















 ◆◇◆◇◆◇◆















まるで聳え立つ壁のごとく襲い掛かる、スカラブブルーの弾幕。

「障壁展開」

『Opaque Curtain』

360度を完全に覆うスモークガラスのような薄い膜。

「スフィア形成」

『Set,Dark Sphere』

瞬時に周囲に浮かび上がる数十の漆黒の魔力球。

弾幕に切れ目が見えると、すぐさま結界から飛び出ると同時に、スフィアをマクラーレンに殺到させる。

「誘導弾」

『Obsidian Anchor』

時に相手の魔力弾にぶつけて相殺し、時に隙間を縫って直接本体を狙う。

弾幕が弱まった隙に、一気に距離を詰めるが待ち構えていたかのように砲撃が放たれた。

『Siva triangle』

直撃する寸前に、デバイスが独自の判断でシールド魔法を展開する。

衝撃を受け止めきれずに、そのまま屋外まで吹き飛ばされた。

開いた穴から、ゆっくりとこちらを追ってマクラーレンが姿を現す。

施設を直接破壊している様を見て、彼の魔法が殺傷設定であることが見て取れる。

「実に素晴らしい。ハイデルンの報告の通りだよ。とても、魔法を知って間もない子供とは思えん。流石は私達の成果の証だ」

「そんな表現をされると、寒気しか覚えんな。繰り返されれば、すぐに鳥肌も立つだろうな」

「つれないな。これでも、君の創造主だというのに」

「貴様を、親などと認めるつもりは毛頭ない」

ふたたび、互いに攻め始めようとしたところで通信が入った。

『黒煉君、瑞樹さんを保護しました』

「保護したということは、生きていると」

聞こえてくる声は、別行動中のレヴェントン。

その答えに、わずかではあるが心が浮き立つのを感じた。

『ええ。ですが、決して無事というわけではありません』

わかっている。何か目的があって捕えたのなら、俺でも出来る手は打つ。多少は覚悟していた。

「生きているだけだ」

レヴェントンが続きを言おうとしたところで、目の前にいる男が不愉快な声で、不愉快な言葉を囀った。

「呼吸もしている。意識もある。だが、心が壊れている。こちらから何をしようと、もう何も反応はしなくなった。

 とりあえず、何かの役に立つかと生かしてある。まさしく、生きているだけだよ」















俺の中で、何かが音を立てて崩れた。















「ラハトォォォォ!!」

『Converge Sphere』

無数に散っていたスフィアが集まり、魔力容量の大きいものを3つ形成する。

「消し飛ばせぇぇっ!!」

『Trinity Blaster』

密度を高めた魔力球から、それぞれ特大の砲撃が放たれる。

目標までの途中の一点で重なり合い、更に規模の増した魔力の嵐がマクラーレンに向かって吹き荒れる。

奴の抜き打ちの砲撃も、触れた端から消滅させていく。

『Vanishing Speed』

自らの砲撃に追いすがるように、風を切って突き進む。

『Obsidian Anchor――』

射軸から逃れ、距離を取ろうとする奴に、

『――Wired』

ワイヤーを付加させた魔力弾を絡みつかせ、それを引いた。

『Fatal Mirror』

抵抗するために咄嗟に撃ってきた魔力球に対して、特殊なシールドを展開する。

それに触れた瞬間、スフィアはそれまで奔ってきた道を引き返し始めた。

「くそっ!?」

自らの射撃魔法に翻弄される男を、空から引き摺り下ろす。

間合いに入ると、すぐさま右手に持つラハトを、形振り構わず叩きつけた。

技術も何も無い、ただただ憎しみだけを込めた一撃。

吹き飛んだ奴に続き、それを見下ろす形で、上段に大きく振りかぶった。

「その目に焼き付けろ! 黒き星の、最後の瞬きをっ!!」

『Glitter Nova』

禍々しいまでに黒く輝く魔力を刀身から迸らせ、肉体が許容できないほどの氣を両の腕に流し込んだ。

「やめっ……」

何か言おうとしたのが分かったが、そんなものを気にすることは無かった。

左の肩口から、右のわき腹にかけて。

何かを切り裂く不快な感触を受け止めながら、俺は刀を振り切った。

腕の中で直接的な痛みがはじけるのが分かった。

皮膚、筋肉、骨格、神経。

構成する全てが、その崩壊の悲鳴を上げた。

魔力にも、氣にも耐え切れなかった腕に裂け目ができて、その裡から血が吹き出る。

その苦痛を無視して、目の前の憎むべき敵を見遣る。

切り抜いた後から、残してきた魔力が、術式に従って一気に吹き出る。

魔力が球体を形作り、刻一刻とその体積を縮めていく。

超新星というものが宇宙には存在する。

恒星から連星の白色矮星へと降着円盤を通じて水素が供給され、白色矮星の表面に降り積もった水素が熱と重力によって核融合爆発を起こすのが新星爆発。

夜空に星が突如輝きだし、まるで新たに星が生まれたかのように見えるため、そのような呼び名がついた。

さらに強く輝くのが、超新星。だが、超新星の実態は、むしろ星の終焉の輝きといえる。

質量の大きい恒星では、核融合が繰り返されることで発生した中心核が、やがて陽子の電子捕獲反応を起こして電子の縮退圧が弱まる。

それが重力収縮とのバランスを崩し、星は自らの重力に耐え切れずに核融合反応を起こして、最後の命の火を燃やして光り輝く。

それを魔力上で再現しようというのが、この魔法。

極限まで魔力を収縮させていって、それが飽和して臨界点に達した瞬間、中にいる目標ごと魔力爆発を起こす。

まもなく、プログラムが終了する。

収縮が止まった直後、辺りは漆黒に染まりながらも輝く、闇色の光に覆われた。















 ◆◇◆◇◆◇◆
















誰もいない通路を一人歩く。

騒ぎのために少しばかり汚れたが、たいした傷も無く、こうして五体満足でいられるのだから、文句は無い。

私利私欲で肥えた豚どもに連れられ、施設まで強制的に行くことになった。

到着してすぐ、結界で隔離されるより早く、私はトランスポーターで別の惑星へと跳んだ。

この装置も、いつの頃からか、もしもの時のために私が勝手に設置しておいたものだ。

誰にも、その存在を知らせずに。

こんな結果は、遅かれ早かれ来ることは、よく考えれば誰でも予想のつくことだった。

だからこそ、私は別の橋を架けておいた。

扉をくぐる。

「よく来てくれた、クーラ・ハイデルン」

「時空管理局地上本部最高評議会は、君を歓迎しよう」

「これからは、我々のために、存分にその力を発揮してくれたまえ」

私は、まだまだ終わるつもりは無い。















 ◆◇◆◇◆◇◆















全て終わった。

スクーデリアに残りの処置を任せて、腕の治療もまともにせず、隔離室へと急いだ。

時間が経つごとに、訴える痛みも増してくるが、そんなものに構っている暇は無かった。

辿り着いたのは、真っ白な病室。

壁も、床も、天井も。

部屋の中央にすえられたベッドや、寝具も。

その部屋に置かれているもの全てが、目も痛くなるほど白で埋め尽くされている。

その中で唯一異なる色彩を放つものが、ベッドの上に存在した。

傷んでくすみ、光沢を失った、伸ばされ放題の黒髪。

短いジャケットの袖から覗く、点滴の針が刺さったか細い腕。

「……母さん……」

この三年、求め続けてきた人がそこにいた。

触れようとして、腕が使い物にならないことを、痛みで思い出した。

少しでも傍に行こうとベッドに近づき、注意しながら腰を下ろす。

そうして視線を合わせても、















母さんの瞳が、俺を映すことはなかった。















「身体状態には、何の異常も見られません。拘束されていたために、筋肉の衰えが見られますが、命に支障をきたすことは無いでしょう。

 ですが、外的ショックに何の反応も見せません」

外で待っていたレヴェントンが、室内に足を踏み入れる。

「君が来るまでに、現状出来るだけの処置は試みましたが、一切変化はありませんでした。

 黒煉君が、何らかの影響を与えるかとも考えたのですが、結果は見ての通りです」

何を言っているのか、俺の心に届くことは無かった。

だが、それとは別に、俺の脳をその言葉の意味をしっかりと理解していた。

一度だけ、動かない腕を叱咤して母さんを抱きしめ、俺は外に向かって走り出した。

「黒煉っ!!」

後ろからシグナムが追ってくるのが分かったが、脚を止めることはできなかった。

施設を飛び出し、周囲に広がっている巨大な森を抜け、偶然辿り着いた湖の淵で、ようやく止まった。

止まったといっても、何かに躓いて転んだだけだ。

仰向けに転がり、太陽を覆い隠した雲を見上げる。

俺自身の心を映し出すかのように、数秒も経たず、空が泣き出した。

「黒煉」

追ってきていたシグナムが、森の中から姿を現した。

しかし、今彼女を気遣ってやれるだけの余裕が俺には無い。

正直に言ってしまえば、もう二度と会えないかもしれないと、覚悟もしてはいた。

だから、生きていると知って、泣きたくなるほど嬉しかった。

だが、心が壊れていると聞かされて。

俺のことが分からないと、直接この目で確かめて。

俺自身の心も壊れるかと思った。

「……なあ、シグナム……」

道に迷った子供のような声だ。

「……俺はこれから……どうすればいいんだ」

俺は、少しの救いと、抱えきれない絶望を手に入れた。















こうして、その裡に空を秘めた少年は、さらなる空白に崩れ落ちた。
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