現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 08 The Second
「どうかしらー、ディエチちゃん」

「直撃した。回避は確認できてない」

「まだまだ未完成だけど、持って来て良かったわねー。

 危うくチンクちゃんがミンチになっちゃうところだったわ」

眼鏡をかけた茶髪を二つの三つ編みにした女、クアットロが言いながら撫でるのは、青いカプセル状の物体。

表面には索敵センサーとおぼしき黒点が三つ。側面からマニピュレータらしいケーブルも出ている。


「結構な出力だったね、AMF」

それに受け応えをするのは、こちらも同系統の茶髪を一部だけ尻尾のように背中に伸ばした大人しそうな女。

先程から名前が出ているように、彼女がディエチだろう。

その身の丈には不釣合いなまでに大きな、無反動砲のような形状をした大砲を携えている。

通常であれば支えきれないであろう重さを考えると、彼女達も普通に人間ではないようだ。

「まあねー、でも流石にここからじゃ影響も出ないでしょうしー。セインちゃんにたくさん渡したのは正解ねー」

「そうだね。クアットロ、そろそろ煙が晴れるよ」

その言葉の通り、着弾地点では先の砲撃で巻き上がった土埃が風で流され切るところだった。





そこに倒れていたのは、黒尽くめの少年ではなく、水色の髪をした少女だった。















魔法少女リリカルなのは 空の少年 08 The Second















受けるしかない



そう判断した俺は、即座に生存のための行動を始めた。

瞬時に練り上げた土氣を刀身に流し、ラハトを大地に突き立てる。

刺さった黒い十字架は、さながら墓標のようだと、高速化する思考の中で思う。

柄にもないことを、と。こんな危険な状況で、そんなことを考えた自分を自嘲しながら、天高く左足を振り上げる。

そこに籠めるのは必殺の意思を込めた木氣。

「砕っ!!」

その言葉と共に、屈筋を最大限に使って振り下ろした震脚。

こちらの意志に共鳴するかのように、その脚を中心にして広がる、打たれるはずがない大地の波紋。

その波が消えればすぐに、揺らぐことがないと信じられていた屈強な大地が、その信頼を裏切り崩壊を始める。

“木剋土”

木は大地を引き裂いて根を地中に張り、土を締め付け、土地を痩せさせる相剋の関係にある。

事前に自らの練り上げた土氣を大地に同調させ、その特性を活性化させることで、木氣による相剋を強化した。

半径5mほどのアスファルトに亀裂が走り、その裏に隠されていた大粒の石を覗かせる。

一緒に目に映ったのは奴らと同じ青のボディスーツ。

予想を大きく外れたこちらの行動に驚き目を見開いているが、お構い無しに掴まれたままの右足を跳ね上げ、相手を引きずり出す。

釣り上げた女の驚愕に歪む顔を左手で鷲掴みにし、筋繊維が切れるのも無視して力を籠め、握りつぶす勢いで女の頭を締め上げる。

苦痛に呻く声が聞こえる。

襲って来ておいて何だそれはと、聊か拍子抜けたのも否定できない。

突き刺したままだったラハトを右手で握りなおし、再び足元に叩きつけた。

そうしてできた穴に飛び込み、女がちょうど蓋になるように前面に掲げる。

「あんた、まさかっ!?」

「なに、死ぬことはないだろ」

指の隙間からこちらに目を向け声を発する女に、嘲るような笑いと共にそう返した。

その言葉が言い終わるか否かというところで、とうとう光の奔流がその猛威を振るった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










あのビルの屋上か。

そう音に出さずに呟く俺の目の前には、俺の盾になってくれた一人の少女。

なってくれたというよりも、盾にしたと言った方が正確か。

少なくない威力が通ったが、大部分を受けてくれたおかげでまだまだ戦えるだけの力は残った。

ほぼその砲撃を一身に受けたこのセインとやらは、魔力ダメージで既に意識が無い。

腹に脚を押し当て勢い良く放り出すと、すぐに駆け出す。

「二旋」

風氣に同調して加速すると共に、集めたそれをそのまま流用して足場を作り、先程の砲撃の発射点に向かって駆け抜ける。

「どうして!?」

「魔法は使ってないのに!?」

まあ、この速度を見れば次元世界に連なるものはそう感じるんだろうな。

だが、そんなものは俺には関係がない

途中拾った石を、視認した二人の女に向かって投擲。

「五槻」

驚愕に顔を歪めながらも、ただの小石と侮ったのだろう。

だが、それこそが命取り。

その侮った礫は異常なほどの運動エネルギーを秘めている。

直撃した結果は、そのまま二人して吹き飛び貯水タンクにめり込む。

衝撃で皹の入ったタンクから勢い良く水が溢れ出て、ビルの屋上を一気に湿らせる。

その水面に映し出された一部の欠落もない満ち足りた月に踏み込み、その姿を滲み歪ませる。

魔力を纏わなくともそのまま刀となるラハトを振りかぶる。

「切り裂け、雷光」

瞬間、ラハトの刀身から言葉どおりに雷光が迸る。

闇夜を裂いて放たれる雷を、そのまま二人の身体に叩き込んだ。

二旋に使った風氣は元を辿って、五行で表せば木氣に属する。

そして同じく雷氣も属性は木。

複雑な氣の属性変化が必要なく、使い勝手の良い連携だ。

戦闘機人であるなら、その中には多数の機械が組み込まれている。

次元世界の技術が使われていても、それらに過剰な電圧が加われば機能しなくなるだろう。

意識はこれで奪えるはずだ。

これで三人。伏兵は全て片付けた。

残った二人をどうするか。

先程のスイッチはもう採れる訳がない。あれは初見、奇襲だからこそ効果のある手だ。

一番良いのはチンクを何とかして瞬殺。その後でトーレをじわじわ削り倒す方法だが、そう上手くいくとは思えない。

素早く戦略を練りつつ急速に近づく気配に振り向けば、目に映ったのは紫の髪。

やはり、トーレか。

先程の砲撃のダメージも大きい。

魔力の結合も、マシにはなったがそれでも通常状態の何倍も手間がかかることに変わりはない。

短期で決めなければ、こちらが押し切られる。

考えているうちにも、既に相手の攻めは始まる。

長い手足から繰り出される拳と脚の乱撃は、弾幕であるかのように間断なく、厚さと広さをもって放たれる。

リーチの差からかわすことも難しく、また単純に受けるには余りある凶暴さを持った必殺の群れ。

守りに入った時点で距離を空けることは出来なくなった。

先程までの動きを見るに、おそらくトーレは二旋の速度に付いて来れるだろう。

こちらがその気配を見せれば、すぐに奴も追いすがってくる。

刀があるとはいえ、それもただ一本。対して敵の武器は両手足の4本。

技量から見て、全ての打撃を剣で防ぎきれるとは思えない。

つまり、今自分に出来ることは、この凶悪な連撃に真っ向からぶつかることしかない。

だが、それも無謀ではなく、今ある中では最良の選択。

ここでさらに一歩踏み込むことは、回避をしやすくすることになる。

奴の連撃は、弾幕と形容したように個人としては圧倒的な範囲をカバーしている。

中途半端な回避運動では、その広さ故に封殺される。

だからこそ、打撃の発射点に近づくことでその攻撃範囲を限定し、最大威力を発揮する前の時点でラハトで受ける。



ギィンッ!!



そんな金属の擦れるような音と共に、鈍痛と軽い痺れが両腕に奔った。

良い筋力をしている。致命傷になることはないだろうが、純粋な氣だけの強化では少し荷が重い。

繰り広げられる蹴打の乱舞を必死に受け止めながら、力負けだけはしないよう練氣にまわす意識を僅かに増やす。

互いの剣が調子の外れた甲高い旋律を奏でること十数合。自ら形成した足場を砕けるのもお構いなしに踏み込む。

左手を右手に添える形で、切先が真下になるように振り上げ、青い弾丸と変貌した左のストレートに柄頭を当て、そのまま振り抜く。

下からの力で肩が開き、がら空きになったトーレの胴体に返す刀に土氣を纏わせ袈裟懸けに斬りつける。

それも咄嗟に突き出された右手首から生える翼によって阻まれた。体勢を崩された状態からでも凌いだことには素直に敬意を表しよう。

だが、受けたこと自体が想定の範囲内。



「堕ちろ」



鍔迫り合いの状態になったラハトの峰に、今度は金氣を籠めた左の鉄槌を打ち付ける。

“土生金”

先に放った土氣の残滓が、金氣に相生として作用する。

「重くなったっ!?」

増幅された金氣が衝撃となってトーレを襲った。

僅かに距離ができて、とりあえずの仕切り直し。

それでも空いた間合いは5m。詰めようと思えば一瞬で済む程度だ。

軽い驚きを見せながらも、相対する女の顔に映るのはより大きな喜び。

「随分と楽しそうだな」

場違いなその笑みに、思わず口から問いが発せられた。

「ええ、楽しいですよ。あなたのスペックは知っていましたが、現時点でここまで出来るとは思っていませんでしたから。

 魔法も無しで、今使っているのはどういった技術か分かりませんが、こうして打ち合えるのは、純粋に楽しい。心が躍ります」

そうしてさらに笑みを濃くする。

こいつも、ジャンキーなのか。俺の周囲にそういった奴多すぎじゃないか。

それを見て、俺のやる気が少なくない規模で減退する。

しかし、そんなことを嘆いたところで状況が好転するわけでもない。

(……アコンプリス)

(はい、黒煉様)

俺の念話に、間断なく反応を返す落ち着いた女性の声音。

(もう一人の方、チンクとの距離を常に見ておいてくれ。

 そうだな、離れているときは15mを切る、もしくは近づいているときは5mを越えたら伝えろ)

(かしこまりました)

出した結論は、二人同時に相手をして、決して二人同時に戦わないことだった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










それからの戦いは、常に私達が攻めていると言える。

だが、決して攻め切れてはいない。

(私が仕事をさせてもらえていないんだっ)

トーレと攻略対象の打ち合いを追いながら、そう私は唇を噛んだ。

AMFを展開して魔法を使えなくなった現在、あの少年は中遠距離の攻撃手段を持たない。

だから、トーレが引き付けている間に私がISで止めを刺せばすぐにケリがつくと思っていた。

だがそれは間違い。相手は、必ず私の射程距離外でトーレと戦うように気を配っている。

先程の仕切り直しから、奴はトーレを引き付けるように受けの体勢で凌ぐ。

そうすれば、二人の戦闘区域はすぐに私のスティンガーの届かない距離へと遠のく。

離され過ぎた距離のせいで、私の狙った攻撃も届かない。

空いた距離を埋めて援護に入ろうとすると、的確にその戦場を移し、今度は近すぎて逆に手が出せないということになる。

近接戦では私には対象を制圧するだけのスペックは無い。

最適な距離をとろうと僅かに後退すれば、相手もそれに合わせて引き、射程外に逃れられる。

ツーマンセルのはずが、どうしても一対一の状況に誘導されている。

離れる時には、一瞬だけ相手をトーレから私に変えて一撃だけ加えてから即離脱という手段も採られる。

このままでは私が削り倒される。

何とか流れを変えなければ。そういった焦りがあったのだろう。

普段であれば気付けたであろう、初歩的な罠に見事にかかってしまった。

距離を詰めて、攻撃対象が私に変わったときの奴の一言。

「いつまでも、増援が来ないとでも思っていたのか」

そうして浮かべられる嘲笑。

この封鎖空間の中で、外部と連絡を取ったとでも言うのだろうか。

「一縷」

そう逡巡したところで、何事かの呟きが聞こえると共に、左足が引きずられる感触があった。

「まさかっ、本当に!?」

思わず視線を足元に向けた。



向けてしまった。



そこには何も無かった。

だが、確かに何かに接触されたはずだ。

そこで、視界にきらめくものが入った。これは……

「糸?」

そう、糸だった。それが私の足に巻きついている。

それが行き着く先は、既に必殺の間合いに入った攻略対象の手元だった。

「これで、本当の一対一だ」

振りかざされた黒の刃に、私の意識は奪われた。










 ◆◇◆◇◆◇◆










「これで、本当の一対一だ」

対象の狙いに気付いてからすぐに行動したが、遅かった。

チンクの元に辿り着く前に、そんな言葉を強化された聴力が拾った。

そして崩れ落ちる小さな体の妹。

表面的に傷が無いところを見ると、非殺傷設定は守ってくれているようだ。

そのことに安堵しながらも、胸に宿るのは微かな恐怖と大きな称賛。

(なんとも上手い戦い方をするものだ)

決して強いわけではない。

純粋な身体能力や戦闘技術でいえば、それほど脅威とは思えなかった。

だが、現実にはまだ10歳の少年に、我々は良い様にあしらわれている。

クアットロ、セイン、ディエチの三人はまだ油断もあっただろう。

私自身、あの危機的状況から逃れ、さらにその後の短い期間で三人を仕留められるとは思わなかった。

しかし、それからは私もチンクも全力で堕としにかかった。

それでも、この人は凌ぎ切り、ついにはチンクを討った。

二人を同時に相手にしながら、二人同時に戦わない。

文字にすれば、ただの言葉遊びのように聞こえるが、実物を見れば感嘆の声を上げざるをえない。

実に……

「実に素晴らしい」

意図せず洩れた言葉に、彼も僅かな笑みを見せる。

「称賛されるような域ではないさ」

そんな謙遜の言葉が発せられるが、私はこの人を尊敬する。

「先程のものは……糸……ですか」

「ああ、ただの釣り糸だよ。強化はしてあるが」

左手が振るわれると、併せて中空を月の光に煌く何かがはねる。

「まだまだ、修練中の身でね。そう大したことが出来るわけではないが、便利といえば便利か。

 もう、今回は出番はなさそうだな」

そう言って、懐にそれを仕舞う。

「それでは参ります。流石に、幼い見た目の方に負けるのはプライドに関わりますので、この勝負、勝たせてもらいます」

構えを取るも、黒煉様は軽い笑みを浮かべたままだ。

「さて、それはどうなるかな。俺も負けるつもりはない。そろそろ“調律”も終わる頃合だ」

そうして、三度戦いは始まった。

半身を引いて、軽く開いた左手を目の前に好敵手に突き出す。

先までの乱打とは異なる、一撃の威力を重視した拳。

こちらの右を読んだのだろう。彼は私の左手を狙うことで攻撃を封じようと、自身の左手を伸ばす。

そうして触れられた瞬間、私の右手は高速で放たれ、すぐにその動きを止めた。

拳でも、掌打でもない。ただ手を伸ばしただけ。

伸びきっていた左手の上腕を掴み、引き付けながら必殺の回し蹴りを放つ。

「づぁっ!!」

かろうじて剣で受けられたが、それでも衝撃の大部分は通っただろう。

蹴りを放ちながらも、掴んだ右手は離さない。

そうして、今度こそ本命の左の突き。

これで終わり。

そう思った。

絶対のタイミングと体勢で撃った突きが、紙一重でかわされた。

それどころか、逆にその腕をとられ、一瞬のうちに極められた。

脳髄を突き抜けるような痛みに耐え、左手を振るって相手を引き剥がす。

くそっ、肘を外されたか

靱帯に大した傷がついていないことに息をつき、すぐに関節を嵌め直す。

「まさか、今のをかわされるとは思いませんでした」

痛みを気付かれないように、軽く口を開く。

「“調律”も終わった。まあ、これで俺の勝ちは決まりだろう」

その言葉が言い終わるか否かというところで、既に相手はこちらの踏み出していた。

言ってくれる。自分も先程の蹴りで少なくないダメージを負っているというのに。

だが、私も黙ってやられるわけにはいかない。踏み出し、自分から迎撃に入る。

筋を痛めたために、左手はもう必殺の威力は保てない。

仕方なく、先程までのように質よりも量をとった乱撃に切り替える。

初手に右の突きを左頬に向かって打つが、衝突する寸前に半身になって避けられる。

さらに、その反動を利用して右手に持った剣を払われる。

咄嗟に左足を上げて受けようとするが、それをすり抜けるようにわき腹に叩き込まれた。

それ自体は軽いものだったため、痛みを無視して攻撃の手を休めない。

だが、そのどれもが当たらない。すべてが、紙一重で避けられる。

紙一重といっても、きわどいという訳ではない。確かに余裕を持ってかわされている。

(完全にっ、私の攻撃を読んでいるというのか!?)

連撃の合間を縫って放たれるカウンターも、まるで予め知っているかのように私の防御の隙間を掻い潜ってくる。

徐々に、徐々に。私が敗北の道を進んでいるのが分かる。

途方も無い絶望を味わいながら、ついに懐に入り込まれた。

終わりか……

そう襲い掛かる最後の一撃に覚悟を決めたところで、目を閉じた。

………

いつまでたっても衝撃がこない。

代わりに聞こえたのは、何か金属の塊が落ちる音だった。

不審に思って瞼を開いた。

「あー、くそ。ここで終わりか」

開いた先で、そんな言葉を呟いて、黒の少年は大地に倒れた。










 ◆◇◆◇◆◇◆










「惜しいな。後一手少なければ終わっていたが……」

仰向けになり、結界のために少しくすんだ月を見上げながら呟く。

その途中には、トーレの困惑の表情。

「え……どういうことですか」

「どういうことも何もないだろう。電池切れだ。無茶もしたから、結構筋繊維も逝ってる。

 握力も残ってないからラハトを取り落としたんだよ。戦闘続行は無理。つまり、お前達の勝ちだ。」

「それなりに元気そうに見えますが……」

さらに眉間に皺を寄せて、問いを重ねる。

「自身の状態をそう簡単に相手に気取られてどうする。今だって話すだけでやっとだ。

 俺はまだまだ氣の操作が甘い。だから、強化すると反作用が起きて肉体にも傷が付くんだ」

言ってから、こいつらに氣の話をしても通じるわけがないことに気付いた。

トーレの頭に、幾つものはてなマークが浮かんでいるのが見えるようだ。

「まあ、ちょっと待ってろ。すぐに動けるようになるまでは回復させる。

 残りの4人もその頃には目を覚ますだろう」

土氣に同調させて、自然治癒を高めながら伝える。

セインは俺自身が仕留めたわけではないから何とも言えないが、多分大丈夫だろう。

「一体何を……」

「会わせたい奴がいるんだろう。最初にそう言ってたじゃないか」

「確かに言いました。ですが、黒煉様はすぐに戦闘行動を開始されたではありませんか」

「これは実験だよ。多分に意地という成分も混じっているがね。実戦でどこまで魔法でいけるか試したかったんだ。

 途中で魔法が使えなくなるのは予想外だったが、それなりの収穫は得た。

 それに、もともと会うつもりはあったからな。だから、意識を奪うときも最低限に留めておいた」

会話を交わすうちに、トーレの表情は困惑から驚愕へと移っていく。

「何もかもお見通しのようですね」

「ああ、会わせたいっていうのは、ジェイル・スカリエッティだろ?

 それで、お前達は奴の娘の戦闘機人、ナンバーズだな」

確認の意味を込めて、その名を呼んだ。

返事は無い。だが、その顔が何よりも真実だと物語っている。

「本当に……恐ろしい方だ」

「褒めてるのか、貶してるのか、どっちだ」

「そうですね、半々と言ったところです」

そう言って、彼女も軽く笑みを見せた。









 ◆◇◆◇◆◇◆










「ドクター、トーレたちが戻ったようです。もうまもなく、こちらに到着します」

「そうか、報告ありがとう、ウーノ」

ふむ。そう時間は経っていないはずだが、随分と長く感じた。

それだけ私が、この邂逅を期待しているということだろうか。

初めはただの研究対象としてしか見ていなかった。

だが、彼を観察するうちに見る目が変わっていった。

私と同じように、正義の名の下に生み出された存在。

どんな心を持って成長しているのだろうか。

私は無限の欲望を裡に抱えた異常者。思考回路が常人とは一線を画していることは自覚している。

育った環境が大きく異なるとはいえ、彼も何かしらの欠陥を孕んでいるはずだが、映像を見る限りはそんな印象は受けない。

私は、それが羨ましくもあった。

彼女が忌々しいあの事故で死ななければ、私もあのように笑えていただろうか。

彼と会うことで、あの頃のことを思い出せないだろうか。

そう考えて、私は彼と会おうと思った。

そして、ようやく、邂逅を果たせる。

背後からガスの抜けるような音がした。

私は大きな期待を込めて振り返った。

そこには、





クアットロとディエチを担いだトーレとチンク、そしてセインを抱いた待ち人がいた。





「ただいま帰還いたしました」

代表してトーレがそう伝えるが、私はそれよりも気になることがあった。

「どうしてそんなにボロボロなんだい?」

私の言葉に、意識のある三人が顔を見合わせる。

「二人ともなんて指示されたんだ?」

「お前のデータと居場所を伝えられて―――」

「―――ドクターの元に連れて来て欲しいと言われました」

待ち人は今度は私に尋ねる。

「そうなのか?」

「ああ、合っているよ。確かに私はそう指示した。だから、そんな状態になる理由がわからない」

私の言葉に黒い少年はしばし考える。

「トーレ、連れて来るっていうのは、お前にとってどういうことだ」

「対象を身動きできない状態にして拘束し、ドクターに差し出すことです」

ああ、そういうことか。

つまりトーレたちは社会というものを分かっていないということだ。

だから、穏便に相手を連れてくるという発想自体が無いのか。

ふむふむ、自我があるから基本的なことなら学習すると思ったが、さらに基本となるものを教えてないとこうなるのか。

そう私が一人で納得していると、目の前に影が躍り出た。

「結局のところ、貴様の教育不行き届きということだよ、このたわけ!!」

そうして額に手刀を叩き込まれた。

だが、ただの手刀ではない。

「痛っ~!?」

思わず頭を抱えて蹲る。

何だこれは!? 脳を固定して金槌で叩いたような、直接的な痛みが響く。

「全く、これが自分の兄だと思うと、泣きたくなるな」

「えっ?」

あまりの激痛に涙を滲ませて悶えながらも、その言葉は聞き逃さなかった。

「今……何と、言ったかな」

「お前が、俺の兄だと思うと、泣きたくなると言ったんだ」

「あ……に……?」

「そうだよ。どうせ知っているんだろうが、改めて自己紹介をしようか。

 俺は、皇黒煉。突き詰めれば、ぶち当たるところは一緒なんだから、兄と弟でいいんじゃないか?」

そう言って、右手を差し出してくる。

私は何も考えず、即座にその手を取った。

「私はジェイル・スカリエッティ。君の兄だ。これからよろしく頼むよ」

「ああ。とりあえずやるべきことは、妹達の再教育だな」

「妹?」

対象の分からない言葉を聞き返す。

「ナンバーズだよ。厳密に言えば姪になるんだろうが、この年で叔父さんにはなりたくない。兄で勘弁してくれ」

そうしかめっ面で本音を零す彼に、私は笑いをこらえ切れなかった。

年甲斐もなく、腹部を両手で押さえて笑い転げる。

娘達は、目を丸くして私を見ている。

その中、弟は楽しそうに笑っていた。





誰かの手を握るのなんて、何年ぶりだろうか。

そう最後に握ったのは、27年前だ。

彼女があの事故で逝ってしまってから、私は誰の手も取ることはなくなった。

特に意識していたわけではない。

気付いたらそうなっていただけだ。

にもかかわらず、私はこの手を取った。

こんなに笑ったのも、あれから覚えが無い。

ああ、■■■■。

君に妹ができたように、私にも弟ができたよ。

お互い、大分年の離れた弟妹だけどね。

私の狂った心も、彼となら癒されるかもしれない。

なあ、君もそう思うだろう。

■■■■。
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