現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 06 The Second
「いやに突然だな。どうしたんだ」

その問いには返さず、空を見上げる。

太陽は張り切って南中を目標に高度を増す最中だ。まだまだ余裕はあるな。

藤見台の頂上を目指し、シグナムを連れて無言で進む。

まだいないとは思うが、あちらの観測能力は推測するしかない。

ホームグラウンドといっても、それがどの程度意味を成すか。


「おい、黒煉!!」

痺れを切らして苛立ち始めた彼女に念話を送る。

「まあ落ち着け、シグナム」
『そのまま並行して会話してくれ。気取られるな』

「それよりもさっさと説明しろ」
『……まずい状況なのか』

『ああ、これから状況がどう転ぶか分からん。少しでも戦力が欲しい』

『他の者には声は掛けてないようだが』

『あまり大きな声で言える内容でもないし、巻き込むわけにもいかないからな』

『私は平気な顔して巻き込むのにな』

これはまた、痛いところを突く。

どう返答するか悩んでいると、頂上の公園に着いた。平日の昼間だからか、あまり人は居ない。

春休みということを考えると、もっといるかとも思ったが。

『なんだ、それだけお前を信頼しているということだ』

『いやに素直だな。まあ、それだけ切羽詰っているということか』

『茶化すな』

『茶化してなどいないさ。お前に頼られるというのは悪くない。むしろ嬉しく思う。

 それで、どういう経緯だ』

空いていた手近なベンチに並んで腰を下ろす。周囲からは姉弟ではなくとも、そう怪しくは見えないだろう。

『色々調べ物をしていてな。向こうに嗅ぎ付けられた』

『らしくないミスだな』

『アウェイもアウェイだったからな。もう少し保つかと思ったんだが、甘く見すぎた。

 それであちらから接触があって、直に会うことになった』

『私が一緒にいてもいいのか』

『余裕かどうか知らんが、同行者を認められた。もしもの時のために一番戦えるお前を呼んだ』

『……いいだろう。借りもあることだしな。今この時、私はお前の剣となろう』

『すまんな』

さて、時間までにやれるだけやっておこうか。

それにしても、昨日の通信で刻み付けられたのは圧倒的な恐怖だけだった。















魔法少女リリカルなのは 空の少年 06 The Second















『すまない、待たせたね。ちょうどシャワーを浴びていたんだ』

応えと共に、一糸纏わぬ美しい女性の裸体が画面にいっぱいに移された。

『出世すると事務仕事ばかり多くなって、体が鈍って仕方なくてね。終業後に個人的に訓練しているんだ』

いや時間おかしいだろ。今四時だぞ。どんな生活してんだ。

しかし、昼間制服越しに見た限りでも凄いと思ったが、うん、脱いだらもっと凄かった。

「とりあえず、何か着ろ」

『おっと、これは失礼。ちょっと待っていてくれ』

笑いながらそう言って画面外に姿を消し、戻ってきたときにはバスローブを身に着けていた。

真っ裸でいるのとはまた別種のエロスが漂う。破壊力は先ほどに比べてもあまり変化が無いように見える。

『いつもアイズに注意されるんだ。もっと慎みを持てって』

「そのうち襲われるんじゃないか」

『ああ、大丈夫だよ。彼は小さい女の子が好きらしい。だからこそ、大丈夫だって気が抜けちゃうんだ』

「羞恥心も持つべきだな」

『くくっ、その通りだね。でも、目の保養にはなったんじゃないか』

「いらん気遣いだ」

何故かずっと楽しそうだ。こちらも結構気を張って連絡を取ったというのに、どういうつもりだ。

「それで俺に何の用だ」

『おっと、いきなりかい? しかし、それは君が一番分かってるんじゃないのかな』

「さて、これでも次元世界に触れてまだ一週間と短いのでね。

 色々と分からないことも多いんだ。何か粗相をしたのなら、教えてもらいたいな」

『……へえ、君はそういうタイプか。いいね、好みの子だ。がっついてくるくせに、焦らし方を知っている。

 本当に、実に好みだよ、皇黒煉くん』

目を細めて画面越しに俺の瞳を覗き込む。深い蒼の髪から雫が滴り落ちた。

『ディスプレイ越しなんかじゃ、とても満足できない。直に会ってもっと君を感じたいね』

そういって、舌なめずり。首筋がちりちりとうずく。

駄目だな、これは。既にお互いのロールが決まりつつある。

狩人と獲物。彼女は獅子で、俺は哀れなガゼルに過ぎない。

『時間と場所は君が決めてくれていいよ。だけど、私はなるべく早いほうが嬉しいな』

頭が回らない。俺の身を這いずり回るのは、紛れもない恐怖。

(黒煉様。気をしっかり持ってください)

アコンプリスの念話に、ようやく意識が浮上する。

(直接会うことは予想されていたことです。ならば、こちらの本領の発揮できるところに持ってきて、最善を尽くすしかありません)

そうだ。それ以外に俺達に許された行動は無い。

「ハラオウンのマンションは分かるな」

『ああ。局のトランスポーターが置いてあるんだから、当然だな』

「そこから西に3キロほど行ったところに藤見台って高台がある。そこの頂上で今日の正午だ」

『ちょっと待ってくれ……ああ、あった。ここでいいかい』

モニタの一部に海鳴の地図が表示される。その中に赤く光る点が一つあった。

「そこで問題ない」

『いいよ。現地時間で大体7時間強ってところだね。いい時間を指定してくれた。海鳴に管理局の人間が一人もいない。こちらとしても都合がいい。

 じゃあ、またそのときに会おう。楽しみにしているよ』

返事をせずにそのまま切ろうとしたところで、予想外に声を掛けられる。

『ああ、アイズも一緒に行くからね。君も誰か連れて来ていいよ。その方が心強いだろう』

意味深な笑顔を残してディスプレイは消えた。

駄目だな。何かあっても、勝てる絵が全く想像できない。

アースシェイカーにクロスカノンのコンビだ。

管理局が誇る唯二のSSSを同時に相手にして勝てる魔導師なんて、次元世界全部を探してもいる筈がない。

誰を同行者に呼んだって意味が無い。確実に負ける。負けるだけならいいが、下手しなくても巻き込んで死なせることになる。

くそっ、どうする。

『落ち着いてください』

「わかってるさ。だが、落ち着ける状況じゃないないだろ」

『おそらくですが、相手はこちらの素性は掴んでないと予想されます』

「どうしてわかる」

『今まで逃げてきた勘としか言えませんが、私には彼女が事情を知っているようには見えません』

「純粋に俺が怪しいから、手を出してきているってことか」

『はい。こちらの出方次第では交戦の必要は無いと思われます』

「それでも、あっちがフォルセティでない保証はないだろ」

『フォルセティであれば、もう遅いのですよ。既に魔力検査のデータを取られています。あれを見れば、一発でばれます。

 申し訳ありません。私達もあれほど唐突に連れて行かれるとは予想しておらず……』

「それに関しては構わん。それで、お前は敵意を見せなければ問題ないと言うんだな」

『可能性は有ります。やり方次第では味方に引き込めるかもしれません』

そうか。確かに、アコンプリスの方がこちらの経験も豊富だし、今までの実績がある。

味方云々は楽観的過ぎるからともかく、身の安全は……期待してもいいのか。

「わかった。とりあえず、過度にびびるのは終わりにしよう。それでも、やばくなった時のために色々と準備はしておこう」

『それには賛成です。同行者に関してはどうしますか』

ああ、それもあったか。多少なりとも危険性は減ったが、それでも戦力は多いに越したことはない。

だが、どんな展開になるにしろ、俺がこそこそやっていることは確実にばれるな。

それが知られてもいい奴で、且つ戦闘能力で期待のできる奴。

「あいつを呼ぼう」

『そうですね、彼女しか候補はいません』

厄介なことに巻き込んでしまうな。

多少の罪悪感と共に、俺はあいつに連絡を取った。










 ◆◇◆◇◆◇◆










11時30分。そろそろだな。

予め準備しておけることは全部した。戦闘になっても0.1%ぐらい勝利に貢献できるだろう。

「終わったようだな」

「ああ、使えそうな陣は敷いた。罠も張るには張ったが、相手の装甲を貫けるかどうか分からん」

「それで実際にはどう動く。正直、私とお前が組んでもバランスが悪いぞ」

「ひたすら凌いで防衛戦だ。頃合を見計らって、撤退だな。その後は身を隠す」

出来ればだが。

内心でそう零す。

戦闘が始まった時点で、こちらの負けはほぼ確定になる。

「わかった。予定は正午だったな。それまで少し休もう」

シグナムに手を引かれ、芝生に連れて行かれる。

腰を下ろすと彼女は俺の頭を掴んでそのまま引きずり倒した。

頭を打たないように、力を流そうとしたが、触れた感触は予想に反して柔らかいものだった。

それが何か考えようとすると、視界を塞がれた。

「いきなり何を……」

「目を開けるな。いいか、絶対だ」

力の篭った声で言われ、続けて出そうとした不満を押し留める。

「お前はばれていないと思っていただろうが、私と、おそらくリンディ提督は気付いていた」

その言葉に、一瞬息が詰まった。

「ああ、最近こそこそやっていたというやつではないぞ。もっと以前からだ」

焦った。そこから洩れたのかと思った。その場合、危険はリンディさんにまで及ぶことになる。

少なからず覚悟はしていたが、出来れば避けたいところだった。

「黒煉、お前は欠陥品だ。自覚しているのだろう」










心臓が、一つとばして脈を打った










「な……にを」

「言わなくても良い。そこまで酷なことをするつもりはない」

先程までに比べて、シグナムの声がずっと遠くに聞こえる。

「わかっていたんだ。お前の裡は空っぽだ。取り繕ってはいるが、私と知り合う前から、三年前からずっとそうなのだろう」

気付かれていたのか。

「別にそれを責めようなどとは思っていない。リンディ提督もな。だが、私も彼女もそれが良いものとは決して思っていなかったんだ」

何を言いたいのか理解できなかった。

「お前の言葉には心が無かった。熱もあって、色もあって、だが決して心は無かった」

ああ、そうだ。俺には何も無い。

「お前の瞳には心が無かった。力もあって、意思もあって、だが決して心は無かった」

俺はずっと仮面をかぶっていた。

「だが、一週間ほど前からだな。それがちょっと変わったように見えたんだ。どうしてかわからなかったが、今はその調べものとやらに関係あると踏んでいる」

シグナムの声がどこか遠くに聞こえる。

「それが、とても嬉しかったんだよ、私には」

確かに、俺はあの時から変わったかもしれない。

「お前が何かを見つけたようで、本当に、嬉しかったんだ」

確かに、俺は変わった。

でも、それは決して褒められたことではないんだ。

「だからな、黒煉」

被せられていた手が離れ、俺の瞳はまた世界を映し出した。

仰向けに寝転がっているのだから、最初に映るのはただの空だと思った。

だが違った。

まず認識したのは、淡いシェルピンクの布地だった。それが視界の上半分を塞いでいた。

それが何なのか理解できないままさらに遠くへと焦点をあわせると、そこには果てしなき蒼があった。

シグナムの瞳が俺を覗き込んでいた。

「わが剣に誓う。お前は、私が護るよ。私が、お前の味方でいるよ」

その言葉は、すっと俺の裡に染み込んだ。

ひどく

ひどく懐かしい感覚だった。

「ありがとう、シグナム」

ああ、心からこの言葉を言ったのはいつ以来だろう。

「大丈夫だ。まだまだ始まったばかりだけど、確かに、俺の裡は何かを求め始めたよ」

彼女の膝の温もりは名残惜しいが、意思を込めて勢いよく起き上がる。

「だから、大丈夫だ」

後ろを振り向いて笑いかけた。










「あー、そろそろいいかな」

そんな言葉と共に茂みの奥から例の二人が姿を現した。

「ああ、もう大丈夫だ。すまんな、待たせて」

「おや、気付いていたんですか」

「面白い方法を使うんだな。ここを中心にした人除けではなく、ある程度離れたところに人寄せの結界を張る……か」

先程、芝生に来る少し前から、ここにいた人たちがどこかへ移動し始めた。あくまでも自然に。

自分の周囲に結界を張られた様子がなかったから、遠くに意識を向ければノイズが奔った。

「隠蔽もしたんですけれどね。そこまで見抜かれているとは、只者じゃありませんね」

口調とは裏腹にレヴェントンの表情は明るい。ずっと笑顔だ。

『黒煉』

シグナムからの念話だ。

『……この二人が相手となると、私では役不足だ。だが、お前を護るという誓いは果たす。この身に代えても』

焦りの色がはっきりと出ている。確かに、こんな相手が出てくるなんて予想もしてないだろう。

それでも、俺を護ろうと命を投げ出す覚悟をしている。

それがとても嬉しかった。

でもな、もう大丈夫だ。

言葉は返さず、俺は一歩踏み出す。

今なら何でも出来そうな気がした。











 ◆◇◆◇◆◇◆










「それで、話とはなんだ。ヴァネッサ・スクーデリア准将、アイズ・レヴェントン提督」

相手はもう十分にこちらに不信感を抱いているのだから、敬語である必要はない。

むしろ白々しさを増すだけだろう。

「単刀直入に言いましょう」

「先輩の端末を不正使用して、色々とオイタをしているようじゃないか」

「さてね、ハラオウン提督の端末には触れたこともないが」

「確かにその通りです。厳密には同室に与えられた貴方専用の端末からです。

 そこからハラオウン提督の端末を経由して、権限のないデータベースにアクセスしているでしょう」

足は付かないようにしていたんだがな。よく見ている。

そこでシグナムが強引に俺の前に出た。

「お待ちください、スクーデリア准将、レヴェントン提督。

 皇はまだ魔法に触れて数日の身です。そんな技術など持っているはずがありません」

「ああ、確かにその通りだね。でも、それが出来るだけのものを彼は持ってる。

 その簪、デバイスだろう。昨日見かけたときに、魔力の残り香を感じたんだが……」

システムロックをしておいたんだが、意味なかったか。

毎晩起動させている所為か。だが、その魔力に気付くなんてどんな嗅覚してるんだ。

もう隠しても仕方ないか。

「そこまで気付かれているなら、どうしようもないか。

 それに関しては謝罪しよう。相応の処分も受ける」

「なっ!? 事実なのか、黒煉」

「ああ」

シグナムが、俺の告白に振り返って驚愕する。

「まあ、普通だったらそれでいいんですけどね」

「調べ物の対象が、ちょっとまずいんだよ。なんだってあんなものを調べていたんだ」










「フォルセティなんて」










来た。

「フォルセティ……ですか」

そろそろ話についていけなくなったかシグナム。

「管理局内のとある一派の名前です。もともとは次元世界の最良の調停者であろうと努力する団体だったのですが……」

「こんな大それた名前をつけたのに、いつの間にやらいらんことを考える腐った老人会になってしまったんだよ。それで力もあるから手に負えない」

いいぞ、全ては俺に味方をし始めたか。

「君が勝手に喧嘩を売って、勝手に野垂れ死ぬのは一向に構わないんだ。

 だが、このやり方は確実にハラオウン提督にまで火の粉が降り掛かる。

 それが私達は気に入らないんだ」

この二人は何も知らない。

『私の勘が当たりましたね』

「ああ、見事だったよアコンプリス。これで俺の勝ちに近づいた」

俺の反応に二人の視線が瞬時に鋭くなった。

俺は愚か、シグナムも動くことすら叶わずレヴェントンのデバイスが首筋に突きつけられた。

スクーデリアの方もこちらにデバイスを向けている。

いずれも魔力の充填は完璧。

「今の言葉は……」

「……どういう意味でしょうか」

先程までの空気が霧散している。

あるのはどこまでも純粋に敵意。

この身に打ち付けられる殺気は、どこまでも鋭く突き刺さる。

だがそれでも、俺に恐怖は無い。

「スクーデリア准将、レヴェントン提督。二人はフォルセティについてどう考えている」

「今、そんなことが関係あるのかい」

そのまま俺に問い返す。片時も視線を逸らすことなく。片時も照準を外すことなく。

「質問に質問で返すのはマナー違反だと思うが、まあいい。

 大いに関係がある。その答えで俺とお前達の未来が決まる」

その言葉の意味を考えているのか、こちらのことを見据えたまま黙り込む。

「どう思う、アイズ」

「ひとまず話だけ聞いてみるのもいいでしょう」

「アースシェイカーにクロスカノンが揃ってるんだ。こちらに何かしらの意図があったとしても、どうとでもなるだろう。

 ちょっとはサービスしてくれてもいいんじゃないか」

そのままデバイスを突きつけられた状態で膠着。

俺はどうということは無いが、後ろから見るにシグナムの疲労がやばいな。

「……いいだろう」

一分ほどして二人がデバイスを下ろした。

途端にシグナムが前のめりに倒れこんだ。

かろうじて、身体を打ち付けずに手を付いたようだが、呼吸が荒い。

「すまない、シグナム。大丈夫か」

体中に冷や汗が浮かんでいる。流れ落ちた雫で地面が黒く染まる。

「はぁ、ずぁ、いや、私の方こそ、はぁ、済まなかった。お前を、護ると言ったのに」

それでも、健気に先程の言葉を守れなかったことを謝罪してきた。

「彼女は何も知らないようだね」

「ああ、今回の行動は俺一人の独断だ。少しでも戦力が欲しくて、今日は無理言って呼んだんだ」

「そうか。なあ、アイズ。いつものやつ持ってるかい」

「ありますよ」

そう言って彼が取り出したのは銀色の鉄製の筒。

端を捻ると一部が外れてちょっとした器になり、残った部分から何か液体が出る。

どこをどう見ても水筒だ。それもタ○ガーだ。

「どうぞ」

渡されたのはコップ。この香りは……

「ハーブティーか」

「ええ、以前先輩にご馳走になりまして。それ以来地球のお茶に嵌ってしまって」

そうか。この色と香りからしてジャスミンだな。ちょうどいい物を持っている。

シグナムに渡そうとするが、疲労が予想以上にひどい。

軽いショック状態にまでなっていて、手が震えてまともに持つこともできない。

体が仰向けになるようにして、肩の後ろに手を回して支える。

「シグナム。茶だ。ゆっくり飲め」

「はぁ、ああ、くっ」

口元に器を近づけ、少しずつ流し込む。

一度むせそうになったが、それ以降は綺麗に喉も動いている。

そうなんだよな。これが普通の反応なんだろう。

あれだけの殺気の中にいれば、少し神経の細い人間ぐらいそれだけで死ぬ。

事前に覚悟することはできたが、俺はあの中でも特別恐怖を感じなかった。

歴戦の騎士であるシグナムすら、こんな状態に陥ったというのに。

こうして気が回らないのも問題だな。普通の感覚と言うものが分からない。

そのことでも自分の欠陥に気付かされた。

罪悪感と共に多少鬱な思考をしていると、五分ほどでようやくシグナムも落ち着いてきた。

「すまない、黒煉。みっともないところを見せたな」

「いいよ。こっちが悪いんだ。何の説明もしていなかった」

そうして今までこちらの様子を伺っていた二人に向き直る。

「待たせたな。本題に入ろうか」

そう切り出すが、どこか先程までと空気が違う。

張り詰めていたものがなく、むしろどこか弛んでいた。

「それもいいんだけど、先にご飯食べに行かないかい」

高台の風で乱れた髪を手櫛で直しながら、スクーデリアはそんなことをのたまった。

「なに?」

「お腹減ってきちゃったんだよ。ここに来る時間を作るために、朝食抜いて仕事片付けてきたんだ」

時間と場所は好きにしていいって言ったのはそっちなんだから、それは仕方のないことだろう。

「そんなこと聞いたんじゃなくてだな」

「今の看病を見ていて、君はそう悪い人間じゃない。私達はそう判断しました」

「そうそう。だから、別にもうちょっと軽い空気でもいいと思ったんだ。そしたら、空腹を思い出してね」

事態は好転したと見ていいのか。

「さあ、私達はこの辺りのことはさっぱりだからね。おいしい店を紹介して欲しいな」










 ◆◇◆◇◆◇◆










「ご馳走様でした」

「いやー、美味しかったよ。料理上手だね、君」

所変わってここは俺の部屋のダイニングだ。

よくよく考えれば、二人は円なんて持ってるわけない。つまり代金は俺持ちになるということだ。

退魔の仕事を手伝って小金を稼いではいるが、そう余裕があるわけでもない。

朝の緊張はどこへ行ったのか。考えるのも面倒になって、二人を家に招いた。

冷蔵庫の中のもので適当に腹の足しになるようなものを作った。

「お前も思いの外たくさん食べたよな」

なあ、先程まで憔悴状態だったはずの剣の騎士。

「うぁ。その、な。料理もできると聞いていたが、ここまでとは思っていなかったし……」

俺の言葉に顔を赤くし、どもりながら言い訳を続ける。

「そう恥ずかしがることもないんじゃないかい」

「ええ、皇君の料理は本当に美味しいですから」

「どうも」

食器を流しにおいて、コーヒーを用意する。豆は確かマンデリンしかなかったな。

ミルに豆を入れて少し急ぎで挽く。ホントはゆっくりじっくりやった方がいいんだが、そんなのんびりもしていられない。

人数分のカップを用意して、残りはスタンドで保温しておく。

あー、これも持ってくか。

「悪いねー、食後のお茶まで」

「長くなるだろうから、水分は要るだろう」

器の中身を一口含み、スクーデリアは顔を上げた。

「さて、私達がフォルセティをどう思っているかだったね」

「あの……そもそもフォルセティとは一体なんなのですか」

シグナムが申し訳なさそうに声を上げる。

普通に管理局員をしていれば、そう滅多に関わり合いにはならないものだ。知らなくても無理はないか。

「先程も少し言いましたが、管理局の中にある一派の名称です」

「フォルセティっていう名前は神話の存在から拝借したものでね。彼に相談したものはその全てが綺麗に和解して帰っていく。

 また彼に裁きを受ければ、判決に従う限り安全に生きることもできたという。万人にとって最良の法廷の象徴だね。

 それをもじって、我々管理局も次元世界最良の調停者であろうとそう名乗るようになったんだ」

「当初は確かにその理念の下に活動していた。だがいつしか、手段と目的が変わったんだ。

 フォルセティは管理局が次元世界の調停者として君臨することに固執し始めた」

「ロストロギアの不正横領やその横流し。その先でいきなり検挙することも日常茶飯事です。

 逮捕された者たちが、管理局に持ちかけられたと訴えても通るわけがありません。裁くのは管理局ですから。

 また、自分達の研究の失敗作として廃棄したものを、ロストロギアとして鎮圧し功績も挙げていたようです。

 そして果てに使い捨ての効く優秀な人造魔導師の研究も行っていたという情報もあります」

俺達の説明に、シグナムの顔に驚愕が浮かぶ。

「まさか……管理局の中にそんなやつらが」

「まあ、私達も慈善団体という訳ではありませんから。組織が肥大化していけば、どうしてもこういったものは出てきます」

「さてと、私達の答えを言おうか、皇黒煉君」

二人がこちらに向き直り俺を見つめる。

朱と黒の瞳が突き刺さる。

「私達はフォルセティを認めない。今はまだ良い。だがそれはただばれていないからに過ぎない」

「そう遠くない未来、彼らは管理局に破滅をもたらす。不安の種をいつまでも内に置いておく訳には行きません」

「少しでも影響を小さくするためには、外からではなく内部から対処を始めなければいけない。民衆感情的に見てもね。

 だが、彼らの力は強い。最大派閥は別にあるが、それでもそれに近いものを持っている。確たる証拠もない」

「私もヴァネッサもかなり上層部に対して発言力を持つようになりましたが、まだ若い。最後任で、最年少です」

「動き出せるだけの手札がないんだよ。歯痒いことだけれどね」

そうか。

そうか。

アコンプリス、お前は本当に優秀だったよ。

本当にお前の読み通りだ。

内心笑いが止まらない。

手札がない。

ああ、お前達にはそうだったろう。俺もそうだ。

だが、今このとき俺達は互いに最強のカードを手に入れた。

喜べ。俺達の願いは叶うぞ。

「ヴァネッサ・スクーデリア、アイズ・レヴェントン。俺と手を組もう」

「何のために」

「膿の湧いた老人どもを潰すために」

「言ったばかりだと思うが、私達にはあいつらを追い詰めるだけのものがないんだ」

「それに関しては問題ない。アコンプリスの中に研究内容と活動記録のログが全て入っている。

 そして何より、俺の存在そのものもカードになる。お前達の情報に間違いはないよ。確かにフォルセティは人造魔導師の研究をしていた」

俺の言葉を聞いて二人は黙り込む。

こちらの意図を吟味しているのだろう。

「つまり、君自身が人造魔導師であると……」

「ああ」

「そんなまさかっ!? いや、だからこそお前の魔力は……」

シグナムが驚きに立ち上がるが、思い当たる節があるのだろう。すぐにその言葉には勢いがなくなる。

「俺の魔力を測ったことがあるだろう。どうだった」

「知覚可能範囲が異常なほどに狭かった。それに、魔力検査をしても正確な結果が得られなかった」

「でも、今測っても別に何も不自然なことはないね」

スクーデリアが探査魔法を発動させる。

今やっても普通の結果が出るだけだろう。

「と言うことは、何らかの封印処置が施してあったと」

「その認識で間違ってない」

「そのデバイス内のデータ、見せてもらってもいいかい」

「アコンプリス、転送しろ」

『かしこまりました』

すぐさま二人の前に携帯端末の空間ディスプレイが展開される。

しばらくは二人とも、そこに表示される内容を目で追い続けていた。

シグナムがずっとチラチラとこちらを伺っている。

話したいことがあるけれど、二人がいる前では何となく気まずいといったところだろう。

後で時間作るか。

五分ほどしてようやく二人が顔を上げる。

「全てではないが、ある程度目は通した」

「裏は取っていませんが、信頼はできると思います」

概略ではなく詳細だ。証拠能力は十分に保持している。

「だがね、君がそこまでして関わる理由がわからないね。放っておけばいいんじゃないかい」

「既に俺は観測されていると考えていい。いつ危険に見舞われるか分からないからな。対処はしておきたいんだ」

「とてもそれだけには思えないから聞いてるんだ。はっきり言って君はそんなことを気にしているようには見えないよ。

 これを見る限りは、復讐、と言ったところかい」

よく見ている。

復讐か。

意識したことは、多分ない。

確かにどこかで考えていたのかもしれない。

でも、そんなことより大事なことがあったんだ。

「それもあるのかもしれない。でもそんなことより、俺は母さんに会いたいんだ」

だからそれだけを伝えた。

しばしの沈黙が流れる。

「君の期待する結果は得られないかもしれないよ」

「多少の覚悟はしているさ」

「……いいだろう。手を組もう。戦力はこちらでも整える。根回しも任せてくれていい」

「感謝しよう」

予想外の強力なカードが手に入った。

「はっきり言って、君は魔導師としては戦力外だな。だがそうも言っていられないから、私達で魔法戦のいろはを叩き込む」

「君には我々の生贄になってもらいますから、今のままでは話になりません」

「旗になれということか」

「はい。君はある種被害者といっていい。境遇も十分同情に値します」

それを前面に押し出すことで、心情的にこちらに有利に働かせようということか。

それは一向に構わんが、一躍有名人になるな。面倒なことだが仕方ないか。

「魔法理論の習熟が終わったら連絡してくれ。先輩に頭下げて私のところに引っ張る。

 デバイスも作るようだから、行き詰るようなことがあれば相談してくれ。予算でも工面しよう。

 他に何かして欲しいことはあるか」

「二年ほど前に戦闘機人の娘を保護した夫婦が陸にいたはずだな。彼らと面会したいんだが」

十中八九彼らは味方に引き込めるはずだし、自分以外の作られた存在にあってみたいと思った。

曖昧ではあるが、それが俺の力になるという確信めいたものがあった。

そんな俺の言葉にスクーデリアは露骨に顔を顰めた。

「まいった、そんなことも知ってるのかい。

 ……わかった。それも私の方で手配しよう。準備ができたら連絡するよ」

いい加減時間がまずいと言う二人を見送り、俺達の初めての会合は終わった。










 ◆◇◆◇◆◇◆










シグナムを送る帰り道。もうすぐ八神家が近いというのに、ここまで一言も会話はない。

どこか去年の十月に空気が似ている。シグナム自身が何かを迷っているような。

「寄り道しようか」

そう告げて道を変えても、彼女は何も言わずに付いてくるだけだった。

辿り着いたのはこれも去年と同じ臨海公園。

結構な数の人がいる。子供だけでなく、近所のお年寄りも散歩の最中だろうか。

そんな中を空いていた芝生に腰を下ろす。

ちょうど良く、この周囲には殆ど人がいなかった。

「ほら、お前も突っ立ってないでさ」

左隣の地面を手で叩いて促すも、無言で少し離れたところに座る。

極力目を合わせないようにしているのが分かる。

全く、そこまで余所余所しくされると流石の俺も傷つくよ。特にお前が相手だと余計だ。

「別にさ、無理に参加してくれなくてもいいんだ」

彼女の態度の原因であろうことを口に出す。

「こんなもの、ただの俺の我侭みたいなものなんだ。お前が付き合う必要はないんだ」

そう言っても、彼女の態度は変わらない。

ひとまず、落ち着くまでは待とうか。

そう考えてから、思い切って芝生に背中を預けて空を見上げる。

魔法を使えば、あの空に飛び立つことも全然難しいことじゃないだろう。

だが、技術としてそういうことができると理解しても、心情的には少し鬱な感じがした。

飛び上がれたとしても、それは何もない世界に放り出された感じがするのではないだろうか。

圧倒的な孤独に襲われるような気がしてならなかった。

今まで地に足を付けてしか行動できなかったから、そんな風に感じるんだろうか。

そんな取り留めのないことを考えていると、小さな、本当に小さな呟きが聞こえた。

「恥ずかしかったんだ」

シグナムがようやく話し始めた。

それでも、俺の方を向くことは無い。

それでもシグナムは話し続けた。

「お前が人造魔導師だと知って、それがお前を苦しめていることに気付きながら」

声が通らなくなってきている。

「お前も、プログラムである私と同じように、作られた存在だと知って」

それが鼻声だと気付いた。

「私は……嬉しいと感じてしまったんだ」

やっと、怯えながらも俺のことを見た。

「そんな自分が、どうしようもなく、嫌になったんだ」

彼女の顔に光るものに気付いた。

だが、俺はそれに気付かない振りをした。

それが騎士たる彼女への礼儀だと思った。

「俺はさ、お前がプログラムだって知ってた。自分の生まれを知ったときに、一緒に知った」

起き上がり、遠くに見える多くの人影を眺める。

「それでも、特別何も感じなかった。裏切られたとも思わなかった。

 俺が欠陥品だからかとも思ったが、多分そうじゃない」

誤ってこちらに転がってきたボールを投げ返す。

大きな声で礼を言うのが聞こえた。それに手を振り返して応える。

「俺の中で、シグナムをいう存在が、そんなもの気にならないぐらいに確固としたものなんだと思う」

逸らしていた視線を左隣に戻す。

「それに、俺はそんなこと気にしない。誰しも同一化の欲求は持つものだ。

 自分と同じ存在であることに喜びを覚えてくれたのなら、むしろ俺はシグナムがそう感じてくれたことを嬉しく思う」

手を伸ばし、少し気後れしながらも頭を撫でる。

「もっと胸を張れ、烈火の将。騎士の名が泣くぞ」

慌てて俯いて瞳を擦る。

しばらくして、勢いよく顔を上げる。

「ありがとう、黒煉」

目が赤いのは見なかったことにしよう。

多分、これで今回の落ち込みも何とかなるだろう。

「さっきも言ったが、これからの行動にお前も付き合う必要はないぞ」

「お前こそ何を言っているんだ。昼間私は言ったはずだ。我が剣に誓って、お前を護ると、お前に味方するとな。

 なら、お前はそんなこと心配する必要はないんだ」

そう言い放つ彼女を、俺は本当にかっこいいと思った。
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