現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 06 The First
「昨日は申し訳ありませんでした」

恥も外聞も捨て、額を床に擦り付ける勢いでの土下座。

突然の俺の奇行に目の前の女性も目を丸くしている。






あの気まずい会話から一夜明けて翌朝。俺はハラオウン家を訪ねた。

出迎えてくれたのはリンディさんだった。

他の面子はみな出払っているらしく、彼女一人とのことだったがむしろ好都合だ。

リビングに通されて一息ついたところで、冒頭の土下座だ。

日本の文化に感謝した。自らの誠意を伝えるのにあたって、これを越えるものは早々無いだろう。

「そんな。あなたの言うことももっともだったわ。頭を上げて黒煉さん」

俺の言葉にようやく頭が動き出した彼女がこちらの肩に手を当てて慌てて言う。

「あなたの立場も考えず、随分と自分勝手なことを言ってしまいました。」

「本来なら私達が気づかなければならないことだった。なのはさんを預かっている私達が……」

「それでも、昨日の言い方はあんまりだったと思います。その謝罪だけでも受け入れていただきたい」

そして一緒に持ってきていた手土産を献上する。

正直、こんな言葉を紡いでいる自分に吐き気がする。全てが打算の上で成り立っているのだから。

リンディさんはしばしこちらを見つめて考え込んで口を開く。

「わかったわ。そうでもしないと気が済まなさそうだから、とりあえずはあなたの気持ちは受け取ります。

 でも、私達の謝罪も受け入れてちょうだい」

「はい。ありがとうございます」

そこでようやく俺は顔を上げる。

「それで俺にも魔法を教えていただきたいんです。管理局入りを考慮に入れてもらって構いません」

不躾と分かっているが、先の話に続ける。

「それはこちらからもお願いしたいくらいだわ。高ランクの魔力保有者は貴重だから、本音を言えば喉から手が出るほど欲しいのよ。

 でも、個人の将来の展望を強要することは出来ないから。本当にいいの?」

「はい。お願いします」

これも分かっていたことだ。管理局の戦力から見れば俺の申し出を断る理由は無い。昨日の話が響くかとも案じたが、杞憂だったか。

そもそも、管理外世界の人間が魔法を知れば、引き込むか記憶を消すの二択だ。

「そう、わかったわ。じゃあ、どうしましょうね。ちょうど黒煉さんも春休みだから、短期の研修を受けるのがいいかしら」

「そのことなんですが、リンディさん個人に教授を願うということは出来ませんか」

これからを考えれば、多分管理局内にいるのがベストだ。下手に外に出てしまえば、調べにくい。

「私自身仕事もあるから、その片手間になって、効率が悪いと思うけれど」

「ええ。ですが、そもそも俺はそちらの常識を知りません。下手に放り出されても、そっちの方が困るんです。

 忙しいところを申し訳ないと思うんですが、駄目でしょうか」

目を閉じ、立てた左手の人差し指で顎のラインをなぞる。こちらの希望と、実際の動きを考えているのだろう。

まあ、自分でも無理なお願いをしているのは分かっている。

「……そうね。私もその方が良いと思うわ。とりあえず、私の子飼いの研修生ということでいきましょう」

「ありがとうございます」

「じゃあ、改めてよろしく、黒煉さん」

「よろしくお願いします、リンディさん」

そうして、俺達は握手を交わす。










ごめんなさい、リンディさん。

俺は貴方を利用します。

貴方の優しさに付け込みます。















魔法少女リリカルなのは 空の少年 06 The First















「提督、終わりました」

何時間か前に渡されたテキストを読み終えて、併せて作られたテスト問題を解く。

「あら、もう終わったの。じゃあ、答え合わせをするからちょっと待っていて」

渡した答案用紙を見て、澱みなく添削をするペンの音が聞こえる。

端末でやることも出来るのに、馴染みが深いだろうとわざわざ紙で作ってくれている。

確かにありがたいことだが、余計な気遣いだとも思う。

既にこちらの世界の読み書きも出来るし、端末の使用も覚えた。だから、彼女の気遣いはある種お節介の域を出ていない。

採点をしている間に、執務室の片隅に設けられた給湯室でお茶の準備をする。

ここに置いてある茶葉は俺が来る前から既に地球のものしかなかった。あまりに慣れ親しんだ香りに包まれて、苦笑しながら湯が沸くのを待つ。

その間に朝家を出る前に用意しておいたものを取り出す。

ここのところ毎日作っているから、次に何を作るか迷う。三日続けて洋物だったから、今日は和で攻めてみた。多分気に入ってもらえるだろう。

皿を用意したところで、ちょうど湯が沸いた。

まずは急須に注いで、それを湯飲みに移して温める。使ったお湯を捨てながら、どの葉を使おうか考える。

番茶があるから無難にそれでもいいが、番茶の売りはその苦味だ。

彼女に渡せば、そんなこと物ともせずに大量の砂糖とミルクが入れられることだろう。

それを見越してほうじ茶ラテでも作ろうかと思うが、それだと茶菓子とは合わないとは言わないが避けたいところだ。

そこまで考えて、ふと昨日までは無かった筒が視界に入った。玉露だ。

これは良いものを見つけた。玉露の醍醐味は苦味と思われがちだが、実のところそれは浸出に失敗しているから。

栽培方法から玉露は旨味成分であるアミノ酸を多く含み、逆に渋味の原因であるカテキン類が少ない。あまりに高い温度で淹れるとその苦味まで抽出してしまうのだ。

最適な温度は50度。それが玉露の持つ甘味を最大限に引き出す。

よし、こいつだ。偶にはお茶本来の味を楽しんでもらおう。

一つ余分に器を用意して、水で割って湯を冷ます。

「休憩にしましょう。今日の茶菓子は桜餅です」

準備したものを応接用のテーブルに並べ、冷ました湯を急須に注ぐ。ここから二分半だ。

「ああ、やっとね。最近はこの時間が楽しみで仕方ないのよね」

そう言って少女のように笑いながら、ディスプレイ上で開いていたファイルを閉じてこちらにやってくる。

だが、テーブルの上にあるものを見て、不思議そうな顔をしている。

「桜餅っていうとこう、薄く焼き上げた皮でくるっと巻いたものだと思っていたんだけど……」

「ああ、それは関東風のものです。関西では道明寺粉を使って粒々モチモチの皮でしっかり餡子を包んであります。

 どちらも桜餅ですが、厳密には前者を長命寺餅、後者を道明寺餅といいます」

「へえー」

皿ごと目線の高さまで持ち上げて、珍しそうに載せられた和菓子を観察する。

それを見つめながら頃合を見計らって、湯飲みにお茶を注ぐ。

「玉露です。お茶本来の味を楽しんでもらうために、今日は砂糖もミルクも無しです」

「ふえっ」

聞いた途端、楽しそうだった彼女が泣きそうになる。いや、よく見ると目尻に光るものがある。

「一先ず飲んでみてください。文句はそれからで」

俺の言葉に渋々といった様子で湯飲みに口をつける。

眉間には見事な皺が刻み込まれている。そんなに嫌なのか。

恐る恐る口の中へと緑の液体が流し込まれる。

「……甘い。いえ、甘いわけじゃないんだけど……」

「お茶ってのは奥が深いんですよ」

驚きに目を見開く様子を見て、俺も笑みがこぼれる。

「この桜餅もしっとりした感じで、こっちのほうが好みかも」

「喜んでいただけたようで何よりです」

そうして束の間の休息を楽しむ。

「もう一週間ね。どう魔法の勉強は」

「面白いですよ。未知の探求は人にのみ許された快楽です」

「そうね、そしてそれが進化をもたらす。でも、教える側としてはちょっとつまらないかしら。生徒が優秀すぎるから」

「教師が良いからでしょう」

それにカンニングをしているようなものだ。理解が早いのは当然である。

「ふふ、ありがとう。もうそろそろ魔法の基礎理論は終わるし、何かやってみたいことはある?」

頃合か。まずは必要なものを手に入れなければならない。

「俺でもなのはやフェイトみたいなデバイスって持てるんでしょうか。出来るなら、自分に合ったものが欲しいんですけど」

「それは問題ないわ。もう正規の管理局のIDも作ってあるし、そもそもデバイスは魔導師じゃなきゃ持てないってことはないのよ。

 魔力が無ければ使えないけど、用途は多岐にわたるから一般にも普及してる。キャンプ用のサバイバルデバイスなんてのもあるのよ」

そういわれてみると、そんなCMも見たような気がする。

「でも、デバイス工学は私も専門じゃないから、細かいところまでは教えられないのよね。

 基本は魔導師の要望を聞いて、それに合わせてマイスターが作っていくものだから」

「出来ればその辺りも勉強してみたいんですが……」

それを聞いて、また左手の人差し指で顎をなぞる。

考えるときの癖なのだろうか。

「じゃあ、知り合いのデバイスマイスターを紹介するわ。なのはさんたちのデバイスの面倒も見てもらってるから、その方が幾らか気安いでしょう」

「ありがとうございます」

「それじゃあ、ちょっとお使いを頼んでもいいかしら。ちょうど彼女に一つ仕事を頼んでいて、その引取りに行ってきて欲しいの。

 こちらから話を通しておくから、その時にでも色々と話を聞いてくるといいわ」

「わかりました」

そうして俺は本局の技術部を目指した。










 ◆◇◆◇◆◇◆










「失礼します。ハラオウン提督の使いで参りました、皇黒煉です」

「どうぞ、話は聞いてるよ」

促されて入った部屋は正に研究所そのものだった。

いくつかあるおそらく会議に使うであろう大きめの机の上にはかなりでかい紙が広げられて色々書き込まれている。その前にはこれまた大きいモニタ。

個人のデスクはもうカオスだ。専門書やら何やらが積み上げられており、かろうじて作業スペースが残されている。

違うな、これは研究所というよりは大学の研究室だ。

室内を見回していると、女性スタッフが近づいてきた。若いな、多分10代半ばだ。

「ごめんね、汚くて。メンテナンスとかの方は綺麗にしてるんだけど、研究開発の方はどうしてもこんな感じになっちゃって。

 私はマリエル・アテンザ。デバイスのメンテナンススタッフを務めています。マリーって呼んでね」

「はじめまして。現在ハラオウン提督の下で研修を受けている皇黒煉です」

もう見慣れてきた本局の青い制服の上に白衣を羽織った中背の女性。

わりと深い緑、クロムグリーンの髪をおかっぱに切りそろえているが、癖毛だろうか、襟足が外に向かってはねている。

大き目のレンズの眼鏡とその奥に隠れた垂れた瞳、それと多少前髪に隠れているが広い額が印象的だ。

顔と名前を一致させているところで、聞き覚えのある女性にしては低めの落ち着いた声が聞こえた。

「遅かったな、黒煉」

後ろを振り返ると、想像通りの顔があった。

「シグナム」

どうしてこんな所にいるんだ。いや、いてもおかしくないんだろうが、俺が来るって知ってたみたいだ。

「リンディ提督に連絡をもらった時に、ちょうどシグナムさんもメンテナンスに来ていてね」

「お前がデバイスを作るというから、興味が湧いてな。待っていたんだ」

疑問に思っているところで、マリーさんから答えが聞けた。

「アームドデバイスにするんだろう? お前に合わせるんだから当然刀剣タイプだな。

 検査の結果も聞いたぞ。魔力ランクはAAA-らしいな。平均に比べれば多いが、強敵を相手にするには物足りないな。

 カートリッジシステムもつけなければ。あれはいいぞ。戦略の幅が格段に広がる。扱いは難しいが、お前なら容易くものに出来る。

 早く完成させて、模擬戦をしよう。でないと魔導師ランクも付かんぞ」

俺本人よりもシグナムのほうが楽しそうだ。マリーさんと顔を見合わせて苦笑する。

「もう、基本的なことは習ってるんだよね。一応この場で大体の説明はするけど、本格的なことは次回だね。

 そうだね、この参考書を読んでみてくれるかな。それで、大雑把でいいから基本方針と欲しい機能をまとめてきて」

やたらはしゃぐシグナムを宥めつつ、デバイスについての概略を聞いて、頼まれた資料を手に技術部を後にする。

何冊か参考書を借りてきたが、たぶん参考書じゃなく学術書レベルのものも混じっている。

リンディさん、初歩のテキスト持ってないかな。クロノでもいいけど。

どれもかなりの厚さがあって結構重い。シグナムも半分ほど持って付き合ってくれるから幾分楽だが。

「いいのか」

「ああ、今日はもう上がりだからな」

「すまんな」

「気にするな。私が好きでやっているんだし、色々話も聞きたい。分かる範囲であれば、質問してくれていいぞ」

「ありがとう」

適当な世間話と、デバイスについての考察を話しながら執務室に向かっていると突然声を掛けられた。

「そこな少年、ちょっといいかな」

シグナムと同じく女性にしては低い。だが、彼女と違ってやたら色気のある声だ。

振り返ると長身の男女が一組、こちらに視線を向けていた。呼び止めたのはこちらの女性だろう。

「私ですか」

「ああ、君で合ってる」

女性のほうはこの辺りでは見慣れない、地上本部の制服だ。

茶色のダブルのジャケットに、局内の女性では珍しくタイトスカートではなくジャケットと同色のスラックスを履いている。

今まで資料やら何やらで目にしたことはあったが、実際に陸の人間に会うのはこれが初めてだ。

「はじめまして少年。私はヴァネッサ・スクーデリア。見ての通り地上の人間だ」

ただ名前を名乗っているだけなのにやたら様になっている。年の頃は20前半。

深い深い蒼、オータムアズァの髪を無造作に肩口まで伸ばし、前髪の一部を左頬の辺りでまとめている。

こちらを見つめる瞳は鋭い。結構な釣り目だが、あまり冷たい印象は受けない。

成熟した女の体というのが、堅い制服越しでもはっきりと分かる。モデルも裸足で逃げ出すだろう。

組んだ腕からはみ出た胸なんかも凄い。シグナムを上回るんじゃないか。

素でフェロモンが出てるんじゃなかろうかと疑うほど、こちらの視線を引き付けるが下世話な心は不思議と湧かない。

それを上回るほどのカリスマが放たれているからだろう。この人にだったら付いて行っても良い。そう思わせる何かがある。

「アイズ・レヴェントンです。よろしくお願いします」

対してこちらの男性は人懐っこい笑顔を浮かべてやたら好青年だ。正に見本といった感じで黒のジャケットと白のスラックスという典型的な提督階級の男性制服。

日本人よりも濃い、黒漆のような光沢のある黒髪を少し長めに伸ばして左右に分け、後ろは首の辺りで一本に縛っている。尻尾みたいだ。

何か特別なものを感じるわけではなく、どこにでもいそうな青年。年も先の女性とやらとそう変わらないだろう。

ただ、立ち居振る舞いからどちらもかなりの実力者ということが分かる。

前者を剛とすれば、こちらは柔。

「スクーデリア准将に、レヴェントン提督だと……」

隣でシグナムが息を呑むのが分かった。

そうか、どこか覚えのある名だと思ったが、その二人か。

どちらも管理局で最強の一角を担う存在だ。

「私に何か」

だからこそ、そんな二人が俺のもとに来る理由がわからない。

「世話になった先輩が若いツバメを傍においてると聞いてね」

「一度挨拶をしておこうと思ったんですよ」

「ハラオウン提督に指導を受けている、皇黒煉です。別にツバメって訳じゃありませんよ」

「くくっ、そうだね。失礼した」

礼儀としてこちらも名乗り返すが、とても挨拶に来ただけとは思えない。

「お使いの途中でお連れの方もいるようですから、今は自己紹介だけにしておきましょうか」

「リンディ提督にもよろしく伝えておいてくれ」

それだけ告げて二人は背を向けて去っていくが、角を曲がり姿が見えなくなるところで、

『君が使っている端末に私達の私的回線のパスコードを送っておいた。後で連絡をくれ。なるべく君が一人のときがいいね』

突然、頭の中に念話が響いた。

あまりに一方的でこちらから返事をする間もなかった。

「そういえば、あのお二方はリンディ提督の後輩だったな」

再び歩を進め始めたところで、シグナムが先の二人の経歴を思い出したようだ。

「俺は名前と現在の地位ぐらいしか知らんな」

「まあ、まだ日が浅いからな。アースシェイカーにクロスカノン。

 二人とも教導官資格を持つ強力な砲撃魔導師だが、スタイルがまるで違う。

 片や圧倒的な火力を以って、ロングはおろかアウトレンジからの徹底した広域殲滅タイプ。戦闘跡が大規模災害の後にしか見えないことから揺るがすものと呼ばれる女傑。

 片やそれまでのセオリーを覆した近接専門の砲撃魔導師。本来距離を置いて戦うという常識を無視して、クロスレンジでこそ真価を発揮する近接砲撃技法の悪夢の体現者。

 これから管理局でやっていくのだから、有名な上の人間のことは少なからず知っておいたほうがいいだろう」

シグナムの話を聞きながら、執務室にたどり着く。

「提督、ただいま戻りました」

「おかえりなさい。シグナムさんもいらっしゃい。技術部はどうだった」

先ほどの俺の努力もむなしく、砂糖とミルクを大量に入れられたであろうお茶を飲みながら出迎えられた。

「面白かったですよ。専門にやってみたいと思うぐらいに」

「じゃあ細かいところはもう私には教えられないかしら」

「ここに来るまで話してみたところ基礎理論も穴がありますから、卒業には早いでしょう」

厳しいね、シグナム。

「そういえば、戻る途中でスクーデリア准将とレヴェントン提督とやらに会いしました」

「あら、二人がいたの。揃って本局にいるなんて珍しいわね」

「俺のことを聞いたらしく、挨拶に来たって言っていました。提督にもよろしく伝えてくれとのことです」

「そう。あの二人も頑張っているみたいだから、身体には気をつけてほしいけれど。

 じゃあ、黒煉さんは今日はこれで上がりね。シグナムさんもこの後仕事は無かったはずよね」

「はい。少し道場に顔を出してみようと思います。ちょうど黒煉にも会えたことですし」

「明日はちょっと私のほうが都合が付かないから、黒煉さんはお休みね。ちょうど色々本も借りてきたみたいだし、自習ということで」

「分かりました。じゃあ、お先に失礼します。また、今晩お伺いしますね」

そう言って端末を落とす作業に入る。その過程で受信メッセージを開くと、言われたとおり新着が一件。

気付かれないようにコードを控え、シグナムを伴い退出する。





くそ、もう気付かれたのか。まだ一週間だぞ。

予定よりも早すぎる。まだ何の準備も整っていないのに。










 ◆◇◆◇◆◇◆










夜九時。凍夜さんとの稽古もハラオウン家の夕食も既に終えた。

さて、これからは人には言えない時間だな。

「アコンプリス起動」

その言葉に簪が光りだす。それに併せて隠密結界を展開する。

『おはようございます黒煉様。いえ、今はこんばんはが正しいですね』

「どっちでもいいさ」

『わかりました。見ていましたが、デバイスに手をつけたようですね』

「ああ、今日はそっち方面で頼む」

『わかりました。一晩で一流のデバイスマイスターにして差し上げますよ』

「お手柔らかに頼むよ」

『大丈夫です。貴方にはそれだけのスペックがあるのですから』

リンディさんとは別の、秘密の講義が始まった。





そうして休み無しでひたすらデバイス工学を続けること約六時間。

深夜四時。

「こんなところか」

『そうですね。もう、材料と設備さえあれば単独でデバイスを組むことも可能でしょう』

「その材料と設備が無いから困ってるんだけどな。まあ、とりあえず目処も立ったが……」

逆に不安の芽も出てきた。

『あの二人ですね。ヴァネッサ・スクーデリアにアイズ・レヴェントン』

アコンプリスも俺の思いに同調する。

「正直、タイミングを考えると敵としか思えないんだが、何か知っているか」

『ひとまず、私の知っている範囲では関係者ではありません』

「有名すぎるしな。仕事も出来るようだし、管理局のプロパガンダ的な存在でもあるから、あまり関わってるとは思えないんだが」

『ですが、態度が怪しすぎますね』

「そうなんだよな。どうすればいいと思う」 

『出来ればこちらのホームグラウンドで一度接触を試みたいところですね。コードを伝えてきましたが、おそらく実際に対面で話したがると思います』

「ああ。それで、向こうに都合のいいところだとそれで詰みだ」

『はい』

「どこまで情報が筒抜けなのか分からない現時点では八方塞がりだな。このまま無視して続けると余計拗れる可能性もある」

『一度連絡を取って様子を見るしかありませんね』

「それしかないか。アコンプリス、さっきのパスコードに繋げろ」

『わかりました』

「ログは残さなくていい。ただやばい方向に行きそうだったら助言頼む」

『お任せください』

ウィンドウが展開され、相手が出るのを待つ。

こちらが一人の時間を指定してきたんだから、まあ相手の都合を考える必要も無いよな。

画面上にはCALLINGの文字。結構鳴らし続けているが出る気配が無い。

逆探知されてるのか。いや、場所なんて割れてるからそんなことする意味が無い。

また次回にとあきらめ、通信を切ろうとしたところで、

『すまない、待たせたね』

応えが来た。

さて、どう出るか。










 ◆◇◆◇◆◇◆











「ふむふむ、なにやら色々頑張っているようだね」

あの報告書以来、逐一彼の動向を気にするようにはしている。

足を残さないように調べているようだが、その真っ最中を観察されていては意味が無いよ、君。

まあ、観察できる存在なんて片手で足りる程度だろうが。

この監視システムも私が勝手に作ったものだ。知っている人間なんていない。

「管理局を潰す方向に動いているようですが、どうしますか」

「仕事がなくなるのは惜しいな。そうだね、一度接触してみるのも面白そうだ。ちょっと、ちょっかい掛けにいこうか」

「わかりました。私は準備してきます」

「それでも、とりあえずはこっちも様子見だね。私達自身あんまり目をつけられたら意味ないだろう」

「有名になりすぎると困ったものですね。少し動いただけでも、他の目に映ってしまいますから」

確かに。私達は上に言われたことやってるだけなのにね。

お互い面倒な立場になったものだ。
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