現在リリカルなのはの二次創作と日記を掲載。そのうちオリジナルの恋愛物も書くかも……
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空の少年 05 The Second
「おおっ、これはなんとも」

はやてと彼女を迎えに来たシャマルさんを見送った後、以前から仕事上の守秘義務にかかわるからと入室を拒否されていた部屋に通された。

自分の部屋にもある濃い茶色の木目の扉をくぐった先には、SFの世界が広がっていた。

鈍色に光を跳ね返す機械群。

それらの上には、先ほどリンディさんに見せてもらったようなディスプレイが幾つも展開されている。

おそらく何かを観測していると思われる複数のグラフや、これまで見たこともないような文字が浮かび上がっていた。
あれ? でも、これって……

「これは異なる世界同士をつなぐトランスポーター。 これを使って本局にまで移動するの」

ディスプレイを見て何かが頭に引っかかるのを感じたが、リンディさんの説明が始まったので意識をそちらに向ける。

「本局?」

「ええ。私たちの職場よ。細かい説明は向こうで検査を終えた後にでもさせてもらうわ」

その言葉に頷きながら、振り返る。

「みんな揃って、その本局とやらに?」

俺の後ろにはなのはやフェイトだけでなく、クロノとエイミィさんもいた。

「僕にも仕事があるからな」

「残念ながら、今日の私はお留守番だね。こっちのトランスポーターの番をしてるよ」

「俺、クロノはニートだと思ってたよ」

ずっと前から思っていたことを打ち明けた。

「失礼だな君は!!」

「そうだよ、黒煉。これでもクロノは優秀な執務官なんだよ」

「これでもってどういう意味だ、フェイト」

「背ちっちゃいもんな。頑張れ、執務官」

「身長は関係ないだろ!!」

簡単にカッカしてて、執務官とやらが勤まるのだろうか。

そんな風に騒ぎながら、皆で直径2mほどの円形の台座へと上がる。

おそらく、転送の準備をしているんだろう。エイミィさんが端末を操作しながら、併せて台座に光が灯ってゆく。

その明かりも次第に強くなり、徐々に上へと昇ってくる。

そこまで来てようやく、後ろにアルフが付いてきていることに気が付いた。

「お前も一緒に来るんだな」

しゃがみこんで頭を撫でながら、何とはなしに話しかける。

「当然だよ。あたしはフェイトの使い魔だからね」

その返事に相槌を打ちながら、アルフを胸元に抱き上げる。

ふかふかの毛が気持ち良い。

「ふーん、使い魔ねー」

あれ? 今のおかしいだろ。なにがおかしいって、










「アルフ喋るのかよっ?!」










そんな驚愕の言葉を残して、俺は新たなる世界へと跳んだ。















魔法少女リリカルなのは 空の少年 05 The Second















「ぅぷ………」

口元を押さえながら、壁に手をつきしゃがみこむ。下手に椅子に座るよりもこっちのほうが楽だ。

現在猛烈に体調が悪い。

「大丈夫? 黒煉君」

なのはが心配そうに顔を覗き込んで、背中をさすってくれる。

「ああ、なんとか……」

不覚だ。他人にこんな醜態を見せるとは。

いや、それよりもなのはが平気だという事実が余計悔しい。

こうなったのは多分、トランスポーターとやらの所為だ。

転移する瞬間に、脳が自分の状態や周囲の環境を認識できなくなったのだろう。突然激しい車酔いのような吐き気に襲われた。

一番近い感覚が高速エレベーターの動き出しだ。こう、一瞬重力がなくなった気がして、くらっとする奴。

あれを数倍悪化させたような感じだ。

それだけなら、まだ幾分かましだったと思う。

直前にアルフが喋ったのがいけない。

驚いたままの心理状態で、あの独特の感覚。

ショック死しなかった俺はえらいと思った。

「驚くだろ普通。ずっと犬だと思ってたんだ。いきなり喋りだせば、それは驚く」

「うーん、ごめんよ黒煉」

そう謝罪の言葉を述べながら、潤んだ瞳で俺を見上げてくる。

「いや、別にアルフが悪いわけじゃない。というか、誰も悪くない」

強いてあげれば、悪いのは俺だ。

フェイトが急いで持ってきた冷たい飲み物を一気に呷る。

「はーーー」

ようやく、気分が落ち着いてきた。

今この部屋にいるのは、俺となのは、フェイト、アルフの4人。

クロノは急ぎの仕事があるらしく、リンディさんは検査室の準備に行った。

「お前たちは行かなくていいのか? 任務がどうとか言ってたが」

向こうの部屋を出る前に、そんな話をしていた気がする。

「まだちょっと余裕があるから大丈夫だよ」

「うん、リンディさんが戻るまでは一緒にいるから」

「すまんな」

本当に申し訳ない。不甲斐ないな。

とりあえずやってきたのは、食堂だった。

ここに来る途中、結構な数の人とすれ違ったが、ここには誰もいない。

ちょうど空いた隙間の時間に来たようだ。

4人がけのテーブルにそれぞれ座り、アルフは何故か俺の膝の上。

フェイトの使い魔なのにいいのだろうか。

そんなことを考えつつも、そのしっとりと濡れたような動物特有の毛並みを撫でながら他愛もない話を続ける。

するとなのはが食堂の入り口のほうを振り向いた。

「あっ、ユーノ君だ。おーい、ユーノくーん!!」

ユーノと呼ばれた小柄な少年がこちらに気付いた。

茶色のシャツに、黄土色のショートパンツ。その上から、不思議な文様の描かれた前掛けみたいなものを着てベルトで纏めている。

パンツと同色の外套を羽織り、正に民族衣装といった風体である。髪も軽く伸ばして肩口で切りそろえられている。

だが一番注目すべきは顔。

最も形容するに相応しい言葉は、可愛いになるだろう。

それだけで、あいつは俺と同じ苦しみを味わってきたことが分かる。

なのはの呼びかけに応えてこちらに近づいてきた少年に、何も言わず肩を叩いた。

「お互い苦労するな」

相手も一瞬で俺の意図を汲んだらしい。

「いや、いいんだ。君みたいな人がいる。それだけで僕は救われる」

ユーノの目尻に光るものが見えた。

おそらく、俺も同じ場所に雫が溜まっているはずだ。

「俺は皇黒煉。よろしく頼む」

「ユーノ・スクライア。こちらこそよろしく」

そうして、俺たちは固い握手を交わした。

残りの三人は訳も分からず、ぽかーんと俺たちの邂逅を眺めていた。

そこでふと、その名前に聞き覚えがあることに気付いた。

「ユーノってあれか? フェレットの……」

なのはとフェイトの方を振り返って尋ねる。

「うん、そうだよ。一年前からの私のお友達」

「私も大体同じぐらいかな」

犬のアルフが喋るんだから、やっぱりこいつもそうなのか。

そのフェレット発言を聞いて、ユーノの顔があからさまに青くなった。

「どうしたんだユーノ?」

「君は……僕があのフェレットって分かっても何も言わないんだね」

意味が分からん。

「その、僕、女風呂連れてかれたし、他にも色々……」

ああ、そんなことか。

「別にいいんじゃないか? 見たところ同年代だろ。実は成人してますとかだったらまずいが。

 そもそも、お前嫌がってたじゃないか。それを無理矢理なのはたちが連れて行ったんだ。

 非はないと思うぞ」

あの時はただ単に風呂が嫌いなのかとも思ったが、男であると分かれば、あれはそれ故に抵抗していた証だろう。

そう純粋に感じたことを伝えると、ユーノは面食らったような顔をしている。

「君はいい奴だね」

そう笑った。人懐っこいとは違うが、人との距離を短くさせる。そんな印象の暖かい笑みだった。

「さてな。その辺は相手の主観に任せるよ」

出会ってすぐに仲良くなった俺たちを、二人の少女と一匹の使い魔が嬉しそうに見つめていた。














 ◆◇◆◇◆◇◆















「お待たせ、黒煉さん」

魔力検査の空きを確保して、皆を待たせていた食堂に向かう。

中に入れば、一緒に本局に来た面子のほかに、見知った顔が加わっていた。

「こんにちは、ユーノさん」

「お久しぶりです、リンディ提督」

最近は無限書庫に篭りきりで、あまり顔を見ることがなかった。

これからが一番忙しくなるだろう。そんなところに、こんな若い少年を送るのには少し心が痛む。

「じゃあ、準備が出来たみたいだから俺は行くよ」

「私も用意しなくちゃ」

「こっちもそろそろ行こうか、アルフ」

「僕ももう戻らないと」

三人がそれぞれの職場へと向かっていく。

それを見送って、残った一人に微笑みかける。

「じゃあ、行きましょうか」

連れ立って、予め連絡を入れておいた医務室へと向かう。

「ごめんなさい、お話の途中でお邪魔しちゃって」

「いいんですよ。丁度切りのいいところでしたし、これからも会う機会はたくさんあります」

「ユーノさんはどうだった?」

「いい奴ですよね。あった瞬間に親友になれると思いました。同じ痛みを知る者として」

その言葉に思わず笑いが零れた。

二人の容姿に似ているところはほとんど無い。

だが、確かに共通点は存在する。

「そうね、どっちもよく勘違いされそうだわ。でも、その分将来に期待しちゃうわね。どんな素敵な男性になるのかしらって」

「どうでしょうね。このまま行ったら、男にもてるような気がしますけれど」

「大丈夫よ。女の子が放って置かないわ。私が保証する。っと、危ない。着いたわ。この部屋ね」

そんな会話をしているうちに目的地へ到着する。

「お待ちしておりました、ハラオウン提督」

「急にごめんなさい、クーラ」

「いいんですよ、これが仕事です。それで、こちらが?」

「皇黒煉です。今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ。わたしはクーラ・ハイデルン。本局の医務主任を勤めています。あなたの検査を担当することになりました。

 管理外世界の人と伺っているけれど、受ける側からすれば普通の病院と変わりませんから、肩の力は抜いて下さい」

互いに自己紹介を済ませると、クーラは黒煉さんを部屋の奥へと案内していく。

「じゃあ、お願いね。私も一応外で立ち会うから」

「はい。では、上の部屋を使ってください。鍵は開けておきます」

検査の準備に入るのを見届けると、私は二人が消えたのとは別の戸をくぐり、検査室を上段から見渡せる場所へと移動する。

本来ならば、通常の職務に戻らなければならないが、検査の間に万が一があっても困る。

彼をここに連れてきた責任は持たなければいけない。

特に、今の彼には親と呼べるものがいないのだから。

二人を見下ろしながら、昨夜黒煉さんから聞かされた話を思い出す。

―――俺は捨て子です―――

一見、彼の表情には悲しみは無かった。

ただ、淡々と事実を告げ、もう諦めてしまった、そのことを受け入れてしまった。

そう見えた。

だが、その瞳の奥を覗けば、何かがあった。

確かに、その心を表す何かを見た。

それが何か、今の私には分からなかった。

だが、最後に部屋を出て行くときに、私を見つめた瞬間。

あれは、何かを求めているようだった。

そして、何かを恐れているようだった。

彼自身、そんな目をした自覚は無いだろう。

だからこそ、私はあの目を忘れてはいけない。

私は彼を見続けなければいけない。

私は彼を見守り続けなければならない。

そう心に誓ったところで、扉が開こうとしているのに気付いた。

ガスが抜ける音がして、無味乾燥な金属の戸が横にその身をずらす。

そうして現れたのは、私と同じく青いコート型の提督服を身に付けた、かねてからの親友だった。

「どうしたの、レティ? こんな所に来るなんて」

「まーた、誰かさんが管理外世界で拾い物をしたって話が耳に入ってね。今度はどんなお宝かしらと思って、息抜きがてら様子見」

そう言って、シルバーフレームの眼鏡越しにいやらしい瞳を向ける。

まったく、レティってば。

「まだ、鑑定も始まってないわよ。それに、本当のお宝だとしても、あなたにはあげないわ」

「あらあら、今回はいやに御執心じゃない。さては男か」

「そうよ。お隣さん」

「えっ、ホントなの? ちょっと資料を拝見っと」

顔の両脇に一房ずつ垂らしたラヴェンダーの髪を揺らして強引に身を乗り出し、私の横のディスプレイに表示されているデータを覗き見る。

「なんだ、まだまだ可愛いお年頃じゃないの。それで、もう魔力ぐらいは測ってあるんでしょう。どうだった」

「はっきりしないけれど、たぶんAAぐらいね」

「はっきりしないって、どうしてよ」

まあ、そう思うのも当然だろう。

魔力検査なんて発動させれば一瞬で結果が出るものだ。

「なんだか、フィルターがかかってるって言うのかしら。とにかく、ぼやけてはっきりと全体像が見えないのよね。

 今まで、魔力を持っていることも気付かなかったぐらいだもの」

「そういうレアスキルかしら。そうだとしても、あんまり役に立ちそうなものでもないわね」

「そんなこと言わないで。ほら、そろそろ始まるわよ」

そうして二人で、本格的に始まる検査に意識を向けた。















 ◆◇◆◇◆◇◆















通された更衣室で検診衣に着替える。

こうして見ても、地球となんら変わりがない。

壁際に並べられた鼠色のステンレスロッカー。中に入っていた検診衣も、同様に水色のジャケットタイプのものだ。

パーツで見ると、やはり魔法の世界に来たという印象が薄い。

「着替え終わりました」

これだけは心情的に異彩を放つ横開きの自動扉をくぐり、クーラさんの待つ検査室へと戻る。

始めに行われたのはどこをどう考えても健康診断にしか見えなかった。

聴診器当てて、瞳孔調べて、視力測って、聴力測って、血を抜かれて。

疑問に思って聞いてみたら、やっぱりただの健康診断だったらしい。

「魔導師といっても、同じ人間ですからね。魔力と関係なくても、身体のことも面倒見なければいけません」

そう言って、検査の説明をしてくれた。

「これからが本番の魔力資質の検査です。その台に横になってください」

示された寝台で仰向けになると、身体全体の何箇所かにケーブルの付いたパッチをつけられた。

「ひとまず、これで魔力の伝導性を見ます。

 正確な魔力量を測るためには、身体に負荷を掛けていってどれだけ魔力が耐え切れるかも計測しないといけません。

 伝導性を調べることで最適な負荷の掛け方を先に調べます」

正確なことを理解できたわけではないが、たぶん肉体の魔力強度を見るんだろう。

でも器具からすれば、心電図を測ってる気分だ。

ぼーっとしながら、隣で端末を叩いているクーラさんを観察する。

背はそう高くない。多分160に届かないぐらいだ。

特徴的な青い色をした長い髪を、縛ることなく背中に流している。腰に届かないぐらいだな。

不思議な色をしている。厳密に言えば青とも水色とも違った。

一番近いのは、シアン。いや、露草色か。

先ほど廊下ですれ違った人たち青い制服とは異なり、グレーのワイシャツにピアニーのパンツスーツ。その上から白衣を身につけている。

正直、白衣以外に医者と判断できる要素がない。

「退屈でしょうが、もう少し我慢してください」

こちらの視線に気付いたのだろう。

「すいません。じろじろと見てしまって」

「いえ、構いません。そうですね、少し話でもしましょうか」

「いいんですか」

「ええ。この程度のことなら片手間で出来ますから」

実際こうして喋っていても、その手の動きに迷いはない。

だが、どことなく事務的で、話している言葉にもあまり感情が込められていない。

「皇さんはどういった経緯で魔法について知ったんですか」

「そう大したものではないですよ。幼馴染がいつの間にやら魔法少女になってたんです。

 そのことを俺に話したそうだったので、今朝問い詰めたら日も暮れないうちにここにいました」

その言葉に驚いたのだろう。澱みなく動いていた手が止まり、目を丸くしてこちらを向いた。

「随分と急な話ですね。第97管理外世界で言えば、まだ6時間かそこらじゃないですか」

「ええ、ほんとに」

「幼馴染というのは、高町なのはさんですか」

「ご存知なんですか」

「有名な子ですから。高町なのはとフェイト・テスタロッサ、八神はやて。今の管理局でこの三人を知らないものは殆どいません」

俺の知らないところでなのはは随分と遠くへ行ってしまったらしい。

置いていかれたとは思わないが、どこか寂しいような気もする。

「ハイデルンさんは「クーラ」」

話しかけたところで、上から言葉を被せられた。

「クーラと呼んでください。名字はあまり好きではないので」

「ああ、はい」

「それで、何でしょう」

「あー、クーラさんはどうしてこのお仕事に」

「もともと生体工学に興味があったんです。

 普通の研究機関でも良かったのですが、質を求めるとなると管理局にかなうものはありません。

 父も管理局員だったので、まあ丁度良かったと言えます」

言いながら、付けていた電極みたいなものをはずしていく。

「終わりました。次に移りましょう」

嵌め殺しのガラス窓をはさんだ、別室に連れて行かれる。

MRIの装置みたいなものが鎮座していた。

「魔力のコントロールが出来ないので、先ほども言ったようにこちらから外的に負荷を掛けて、その反応で魔力容量を調べます。

 今までに経験したことのない感覚になると思うので、気持ち悪くなったらすぐに言ってください」

寝かされた台がでかい筒の中に入っていく。

言われたとおり、確かに妙な感じがする。

どこか圧迫されているような、そんな窮屈な感じだ。

そこで、自分のちょうど目の前の位置にディスプレイがあるのに気付いた。

そこには順に文字が浮かび上がり、現在の検査の説明や進捗状況が移されていた。

あれ、どうして……

ハラオウン家のポーターが設置された部屋で感じた違和感がよみがえった。

その途端に、身体に感じていた圧迫感が急になくなった。

違和感の正体も思い当たらない。

「皇さん。今何かしましたか」

スピーカーを通して、クーラさんの声が聞こえる。

「いえ、特にこれといったことは何も」

俺自身もよく分かっていない。

「このリンカーコアは……」

また、彼女の驚いたような呟きが聞こえた。

患者を怖がらすのって医者失格じゃないか。

自分の身体を心配しながらそんなことを考えていると、台が外に向かってスライドを始める。

終わったか。あの後は特に圧迫感もなく寝ていただけのような気がする。

「お疲れ様でした。もう着替えてくださって結構ですよ」

わざわざこちらの部屋に入ってきて伝える彼女は、先ほどまでに比べてどこか楽しそうだった。















 ◆◇◆◇◆◇◆















「どうぞ」

「ありがとう、黒煉さん」

二人の女性に淹れたばかりの紅茶を渡す。

今いるのはリンディさんの執務室。

検査を終えて戻ると、彼女の同僚というレティ・ロウランという女性が増えていた。

リンディさんとぽやーっとした人と表現すれば、こちらはきりっ。

どこか冷たい印象を受ける。いや、冷たいというよりも、仕事に厳しそうか。

「……美味しいじゃない」

たいした物を想定していなかったのだろう。

一口啜ったあと、レティさんの顔に浮かんだのは驚きだった。

「でしょう? 黒煉さんのお茶は、ホントに素敵」

「ありがとうございます」

そうしている間に渡されたのは、パンフレット。

『管理局入局案内』

表紙には、やたらでかい建物にそんなこと文字が書かれている。

「え、日本語?」

「ふふ、ちょっと急いで翻訳してみたの」

「あなた、何しているのか思えば、そんなことしてたの」

楽しそうに笑うリンディさんを、呆れた様子で眺めるレティさん。

「手っ取り早く管理局がどういうところか知るには、これが一番だと思って」

二人の説明を聞きながら、その冊子を流し読みする。

時空管理局とは、平たく言えば次元世界における調停機関らしい。

ミッドチルダ以外にも複数の世界が共同して運営しているのだから、国際連合に近いものがあるのか。

武力と法律を持って次元世界を律するとか書いてあるが、逮捕権と司法が一緒くたになってる時点でちょっと駄目じゃないだろうか。

そういえば、食堂でなのはたちも警察と裁判所が一緒になったようなところとか言っていた。

細かいところを見ていくと、それ以外にも各世界の文化管理や、緊急時の災害救助もやっているようだ。

「すいません、このロストロギアってなんですか」

その発掘、調査、封印とあるが、肝心のロストロギアがなんたるか書いていない。

「ロストロギアっていうのはね、過去に滅んだ超高度文明から流出した技術や魔法のことを言うの」

「その大半が危険なものだから、被害が発生しないように私たちが優先してその封印をしている」

「私たちがなのはさんに出会ったのも、ジュエルシードっていうロストロギアが原因ね」

その名を聞いて思い出した。

「なのははどこで働いてるんですか」

「今は武装隊の士官候補生として研修を受けてるわ」

不思議な単語が聞こえた。

「武装隊の、士官」

「ええ。ゆくゆくは、戦技教導官になりたいって」

教導官ってことは、前線に立つ人間に戦い方を教えるってことだ。

あいつが、人に戦い方を教える。

「なのはさんは優秀でね、今までの二回大きな事件の解決に協力してくれた」

「管理局の中でもあの子に勝てる魔導師は、そうはいない」

冊子の武装隊のページを開いた。

大勢の屈強そうな男たちが、朝見たデバイスとやらを持って、戦闘訓練をしている写真が載っていた。





ふざけるなよ。

強い?

優秀?

そんなものは関係ない。

あいつが、戦いを教えるだと。

そんなもの、俺は認められない。





「不服そうね」

レティさんが楽しそうにこちらを見ている。

「親友のことが心配かしら」

「教導なんて、あいつはやるべきじゃない」

「若いというだけで反対するのなら、それはなのはさん自身を否定することになるわよ。

 彼女にはそれを成す才能があり、なによりそれを成そうとする意志がある」

剣呑になってきた空気を察して、横に座っているリンディさんが心配そうに見ているのが分かる。

「確かに、こちらの世界では魔法が浸透しすぎていて、その才能に社会そのものが左右されすぎているわ。

 その所為で、就労年齢も低下する一方。この辺りからも、地球とは価値観に相違があると思う。

 確かに武装隊の仕事には危険が付きまとう。でも、そこに彼女の夢があるの。

 だから、私は彼女の上司としてその意志を尊重し、傍にいる大人としてその夢を応援したい」

そう、リンディさんは仲裁に入るが、俺が問題としているのはそんなものではないんだ。

「あいつの才能だとか、意志だとか。そんなものどうでもいいんですよ」

「じゃあ、あなたは何が不満なの」

挑発されているのだろうか。

お前が行っているのはただの身勝手なわがままなんだ。

そう言われている気がした。

だから、思わず口に出してしまった。





「なのはは、血を浴びたことがあるんですか」

「なのはは、血を流したことがあるんですか」

「なのはは、降り掛かる血飛沫の熱を知っていますか」

「なのはは、流れ出る血とともに失われていく熱を知っていますか」






二人の顔が凍りついた。

「知らないのなら、戦いを教える資格なんてないでしょう」

俺が言っているのは、覚悟の話だ。

貴女達は、戦場に立ったことがあるのだろう。

なのに、なぜ分からないんだ。

どうして、そんな簡単なことに気付かないんだ。

後に残ったのは、誰も口をつけずに冷め切った紅茶だけだった。















 ◆◇◆◇◆◇◆















まさか、こんなところで見つかるとは思わなかった。

あれから10年。いや、あいつを捕らえてからは3年か。

見つけられたのは正に奇跡だろう。

封を掛けられたためか、世界を一つに絞り込めても全く探し出すことは出来なかった。

あの仕事は出来るが御人好しの提督は、知らない人間をこちらに引きずり込むなんてことはしない。

多くの偶然が重なって、宝は私達の元に返ってきた。

これからは、忙しくなりそうだ。

二人の上司に本日の報告書を送り、私は執務室を後にした。















 ◆◇◆◇◆◇◆















これはこれは。

予定に無いスポンサーからのメールを開けてみれば、随分と懐かしいものを送りつけてきたものだ。

始めはただの個人データかと思った。

身体能力はまずまず、魔力量も高いほうだ。

だが、それだけ。

これを上回るものを作れといわれたら、私には容易いことだ。

私の欲望も疼くことは無い。

少し頭を働かせるだけだ。

だが、リンカーコアの項目を見て、その考えは吹き飛んだ。

そうか、こんなところにいたのか。

「早く会いたいな」

いつかの邂逅を夢見て、私は笑いが止まらなかった。















 ◆◇◆◇◆◇◆















ふう

あれから気まずい雰囲気のまま、本局を後にした。

俺ももう少し落ち着いたほうが良かった。

何であんな突っ走ったんだろうか。

もう少し言い様があったはずだ。

彼女達も馬鹿ではない。

人の上に立つカリスマがある。

それに見合った能力も。

もっと分かりやすく伝えることが出来たと思う。

いや、その二つを持っているからこそ、俺は不愉快だったんだな。

ひとまず、明日会ったときに謝ろう。

そう考えながら、自分の部屋の鍵を開け、リビングへと向かう。

明かりを点けようとしたところで気付いた。

目の前に影がある。

後ろから光が当たらない限り、そんなものできるはずが無い。

耳元から音が聞こえた。

正確には、後頭部か。

振り返ろうとしたところで、声が響いた。










『管理局による黒煉様への接触を確認。システムロック解除。アコンプリス、起動します』










簪が囁いていた。
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